男は理想を語る
写真には男の全てが詰まっている。
僕は、カゲアキに見られてしまった。
なぜか嫌だった。見られるのが嫌だった。
だから、少し苛立った。
(カゲアキは多分、優しい。
僕なんかより、ずっと。)
「すまない。」
つい苛立ったことについて謝った。
「カゲアキ。心臓は大丈夫なのか?」
「気にしなくていい。少し痛むが、すぐ治るようになっている。」
「そうか、それはよかった。」
ヤヨイは安心した顔をしていた。
実際のところ、かなり体は傷ついていた。
兵士を刺した時は、兵士への怒りで痛みのことは気にしていなかったが、いざ落ち着くと、かなりの痛みが体を襲った。自身で身を投げようとした時とは違い、刺された痛みはそれの何十倍痛かった。
「カゲアキ、話がある。」
「なんだ?」
「僕らはスガーナ王国の兵士を殺した。僕らはこの国の犯罪者だ。その覚悟はしていたな?」
「ああ、ヒトを殺した人間に居場所は無い。
そんなことわかっている。
だからといって今からどうするんだ?」
「まずはこの牢が、どの場所にあるのかを把握する必要がある。そして、逃げるしかない。
外は見れてはいないが、この牢がある場所は王都を守る壁の内側につながっているはずだ、きっと兵士が早く駆けつけてくれるほどの場所にあるはずだ、その兵を片付けるしかない。」
「片付けるって、また戦うつもりなのか?!」
「ああ、それ以外に何がある?」
「!?」
カゲアキは疲れ切っていた。
元から不健康な体であり、ここまで歩いてくるのに、何日をかかってやっとたどり着いた王都。
さらにに兵士に捕らえられてしまい、おまけに兵士に心臓を刺された痛みがあり、もう戦える状態ではなかった。
その時だった。
「おい!ドーガさんを殺したのはお前らか!?」
怒った表情の兵士が一人、駆けつけてきた。
兵士の登場はあまりに早かった。 あまりの早さにカゲアキは絶望していた。
(おい。いくらなんでも早すぎるだろ!?)
「ああ。」ヤヨイは真っ直ぐ兵士に答える。
(あいつ、何さらっといってやがる!?)
雑兵の顔はさらに怒り、剣を持つと、ヤヨイの方に突っ走ってきた。
「お前ら、ドーガさんを殺した、亜種人類の癖に図に乗るなぁ!!」
バン!!
轟音が鳴り響いた。
彼は拳銃を創り出し、兵士を撃ち抜いた。
「お、お前、、、そ、その武器はなんだ?」
(こいつ、拳銃を知らないのか?! )
カゲアキは思ってしまった。
「ああ、この武器は「銃」といってだな、ヒトを撃ち殺すことが出来る。」
「撃ち殺す?! お前らまさか、ナーボリックの間者なのか?!」
「ナーボリック? いいや違う、少し僕らは特殊でね。
君たちにとったら、異常な世界から来たんだ。」
カゲアキは驚きを隠せなかった。
何故ヤヨイが、俺がこの世界のヒトじゃないことを知ってるのか、ヤヨイが、俺と同じ世界のヒトであることに。
少しは考えてはいたが多分、ヤヨイは死んでいる。
「では、さらばた。」
ヤヨイは躊躇なく、兵士の首を切った。
兵士は灰となって消え、鎧だけが残った。
ヤヨイは兵士を殺すと僕に言い放った。
「カゲアキ、もう死のうとするな。
君が死ぬことで嘆くヒトが必ずいる。
残された側の気持ちを忘れるな。」
俺はヤヨイの言葉に引っかかった。
(ヤヨイの言葉と行動はリンクしていない。
言葉では綺麗事を吐かすが、ヤヨイの行動は躊躇なく、とても惨たらしく、ヒトを殺す。
まるで自分のことしか考えていない、俺のように。)
「カゲアキ、時間は無い。
早く抜けるぞ!」
「お、おう。」
ヤヨイとカゲアキは走り出した。
他兵士達も次々と、降りてきた。
「あいつらだ!」
兵士達は僕らを見つけると直ちに追ってきた。
「向かい撃て! そして殺せ!」
「お前ら! あれを使え!」
「承知した。」
とある兵士があれと言うと、兵士達は何かを呟き、兵士達の足は速くなって、一瞬で追いついた。
(なんだあいつら、さっきまでの早さじゃない。
この早さは人間離れしている。)
だが、ヤヨイの敵ではなかった。
「身体強化」
ヤヨイは呟いた。
ヤヨイは短剣を無尽蔵に創り出すと、迫りくる兵士達を次々刺し殺した。
兵士達は灰となって消えていった。
(嘘だ!? あいつ、自分の身体を強化した?
そんなことできるのか!?
そして、あいつのモノを創り出す早さは異常だ。いくらなんでも早すぎる。)
階段を駆け上がり続け、牢の暗闇とは違う暗闇が見えた。
僕らは外に出た。そこは城の城壁が広がっている、城内であった。
「よく、牢内から抜け出せたね、おめでとう。」
爽やかな声がした。
ヤヨイは見た。
彼を思い出した。
彼は透き通るような肌に、腰まで伸びた髪、目の赤は、間違えなく、ヤヨイを送り込んだ彼だった。
「元気にしてたかい?」
「元気ならば、そっちの男は疲れていない。」
カゲアキの息は途切れ途切れで、今にも死そうな顔が見て取れた。
「彼、かなり疲れているね。」
「あんたは誰で、僕らに何の用だ。」
「ああ、すまない。
まだ名すら名乗ってなかったね。
私の名はアルト・ジョーリック。
この国で騎士長をしている、ただの貴族だよ。」
「そうか。今度は何の用なんだ?」
「ああ、私は弥生、君を気に入っている。
だから、君たちを逃しに来たんだ。
まぁ、逃すといっても、城外までだけどね。」
「そうか、ならば国外へ出してくれ、兵がまだ来ないとは限らないし、この国では、僕らは立派な犯罪者だ。」
「うーん、少し難しいが、まあいいだろう。
君たちをサディールド帝国まで届けよう。
そこからは、自分たちで生きてね。」
「ああ、ありがとう。」
「ふふ、感謝してくれるなんて、嬉しいモノだね。」
終始会話を見ていたカゲアキは、混乱していた。
(何故あいつは、あの男と会話ができている?
知っているのかもしれないが、そうにしても不思議だ。)
「じゃあ、夜が明ける前に行こうか。
少し、目を瞑ってくれないかな?」
「どうしてだ?」カゲアキは閉じていた口を開いた。
「この術は国において禁止とされていてね。
他の兵士は、かなり破っているけど、私が破ってしまえば、下の者に舐められてしまうからね。」
「わかった。」
ヤヨイはすんなり頷いたが、彼には理解が追いついていなかった。
「じゃあ、がんばってね。」
俺らは、目を瞑った。
「影秋君、アルト・ジョーリックは君に期待しているよ。」
彼はそう俺の耳元で呟いた。
俺は目を見開いた。
そこは針葉樹が生い茂るタイガ。
そこに居た。
俺は疲れて、針葉樹の幹を背凭れにして座った。
ヤヨイは何もかも、知っていたかのような顔をしている。
俺はもう何も分からず、ヤヨイに今までの疑問を投げつけた。
「今まで何が起こったんだ、なあ、教えてくれ、ヤヨイ!?
ヤヨイは何かを創り出したり、自分の身体を強化したり、俺とその世界を知っていた。
お前は、一体何者なんだ?」
「僕は、君と同じ世界からこの世界に来た。ただのヒトだ。」
「違う!! 俺が聞きたいのは、お前は何者で、何故、この国のヒトと同じことができる!?」
「カゲアキならできるんじゃないのか? 創造。」
ヤヨイの言葉にびっくりした。
「創造?何だそれは?
そんな芸当、俺にはできない。どうやってしている?」
「そうか、カゲアキには自分の理想はないのか?
創造はいわば妄想と一緒だ。
自分がそうなりたい、そうしたい、それを叶える力がこの世界にはある。
カゲアキの不死は自分の理想を叶えたモノではないのか?」
「当たり前だ。俺に不死を背負って生きる覚悟はない。」
「なら、その不死をどうやって手に入れた?」
「わからない、気づいたら不死になっていた。」
「カゲアキは死んだ時、誰かに出会ったか?
きっとそいつがお前を不死にした。」
ヤヨイは何故かヒトを聞いてきた。
「ヒト?会ったかもしれない、少し記憶が曖昧なんだ。」
「そのヒトはどんなヒトだったかは覚えているか?」
「そいつは、女だった。
黒髪の女だった。あんたと同じで、スーツを着ていた。」
「ありがとう。
少し疲れたな、しばらく仮眠を取ろう。」
「ああ、そうしてくれ。」
俺はやっと寝ることができた。
(こんなに走ったのはいつぶりだ?
三年の時の体育祭以来か。
あの時のあいつの顔、輝いてたな。もう一度、あいつの顔が見たいな。)
でも、それは叶わない
俺が見捨てたから
俺が、死んだから
あいつにとって俺は、何だったんだ?
(当たり前だ、カゲアキ
俺は、この世界の仕組みを知っている。
この世界は香奈子の世界なのだから。
この世界を造った奴はあいつだ。
境雅だ。)
この世界の神は神じゃない
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