表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられたヒト、拾われた瞬間  作者: 桜井良樹
4/14

男は理想を語る

写真には男の全てが詰まっている。

 

 僕は、カゲアキに見られてしまった。


なぜか嫌だった。見られるのが嫌だった。


だから、少し苛立った。


(カゲアキは多分、優しい。

     僕なんかより、ずっと。)


「すまない。」

つい苛立ったことについて謝った。


「カゲアキ。心臓は大丈夫なのか?」


「気にしなくていい。少し痛むが、すぐ治るようになっている。」


「そうか、それはよかった。」

     ヤヨイは安心した顔をしていた。


実際のところ、かなり体は傷ついていた。


 兵士を刺した時は、兵士への怒りで痛みのことは気にしていなかったが、いざ落ち着くと、かなりの痛みが体を襲った。自身で身を投げようとした時とは違い、刺された痛みはそれの何十倍痛かった。


「カゲアキ、話がある。」


「なんだ?」


「僕らはスガーナ王国の兵士を殺した。僕らはこの国の犯罪者だ。その覚悟はしていたな?」


「ああ、ヒトを殺した人間に居場所は無い。

そんなことわかっている。

だからといって今からどうするんだ?」


「まずはこの牢が、どの場所にあるのかを把握する必要がある。そして、逃げるしかない。

外は見れてはいないが、この牢がある場所は王都を守る壁の内側につながっているはずだ、きっと兵士が早く駆けつけてくれるほどの場所にあるはずだ、その兵を片付けるしかない。」


「片付けるって、また戦うつもりなのか?!」


「ああ、それ以外に何がある?」


「!?」


 カゲアキは疲れ切っていた。

 元から不健康な体であり、ここまで歩いてくるのに、何日をかかってやっとたどり着いた王都。

 さらにに兵士に捕らえられてしまい、おまけに兵士に心臓を刺された痛みがあり、もう戦える状態ではなかった。


その時だった。

「おい!ドーガさんを殺したのはお前らか!?」

       怒った表情の兵士が一人、駆けつけてきた。


兵士の登場はあまりに早かった。 あまりの早さにカゲアキは絶望していた。


(おい。いくらなんでも早すぎるだろ!?)


「ああ。」ヤヨイは真っ直ぐ兵士に答える。


(あいつ、何さらっといってやがる!?)


雑兵の顔はさらに怒り、剣を持つと、ヤヨイの方に突っ走ってきた。

「お前ら、ドーガさんを殺した、亜種人類(ヒト)の癖に図に乗るなぁ!!」


  ()()!!


轟音が鳴り響いた。


彼は拳銃を創り出し、兵士を撃ち抜いた。


「お、お前、、、そ、その武器はなんだ?」


(こいつ、拳銃を知らないのか?! )

    カゲアキは思ってしまった。


「ああ、この武器は「銃」といってだな、ヒトを撃ち殺すことが出来る。」


「撃ち殺す?! お前らまさか、ナーボリックの間者なのか?!」


「ナーボリック? いいや違う、少し僕らは特殊でね。

君たちにとったら、異常な世界から来たんだ。」


カゲアキは驚きを隠せなかった。

 何故ヤヨイが、俺がこの世界のヒトじゃないことを知ってるのか、ヤヨイが、俺と同じ世界のヒトであることに。


 少しは考えてはいたが多分、ヤヨイは()()()()()


「では、さらばた。」

    ヤヨイは躊躇なく、兵士の首を切った。


兵士は灰となって消え、鎧だけが残った。


ヤヨイは兵士を殺すと僕に言い放った。

「カゲアキ、もう死のうとするな。

 君が死ぬことで嘆くヒトが必ずいる。

 残された側の気持ちを忘れるな。」


俺はヤヨイの言葉に引っかかった。


(ヤヨイの言葉と行動はリンクしていない。

言葉では綺麗事を吐かすが、ヤヨイの行動は躊躇なく、とても惨たらしく、ヒトを殺す。

まるで自分のことしか考えていない、俺のように。)


「カゲアキ、時間は無い。

早く抜けるぞ!」


「お、おう。」


ヤヨイとカゲアキは走り出した。


他兵士達も次々と、降りてきた。

「あいつらだ!」

 兵士達は僕らを見つけると直ちに追ってきた。


「向かい撃て!  そして殺せ!」


「お前ら! ()()を使え!」


「承知した。」


 とある兵士が()()と言うと、兵士達は何かを呟き、兵士達の足は速くなって、一瞬で追いついた。


(なんだあいつら、さっきまでの早さじゃない。

この早さは人間離れしている。)



だが、ヤヨイの敵ではなかった。


()()()

          ヤヨイは呟いた。

 ヤヨイは短剣を無尽蔵に創り出すと、迫りくる兵士達を次々刺し殺した。


兵士達は灰となって消えていった。


(嘘だ!? あいつ、自分の身体を強化した?

そんなことできるのか!? 

 そして、あいつのモノを創り出す早さは異常だ。いくらなんでも早すぎる。)


階段を駆け上がり続け、牢の暗闇とは違う暗闇が見えた。


僕らは外に出た。そこは城の城壁が広がっている、城内であった。


「よく、牢内から抜け出せたね、おめでとう。」

             爽やかな声がした。


ヤヨイは見た。


彼を思い出した。


 彼は透き通るような肌に、腰まで伸びた髪、目の赤は、間違えなく、ヤヨイを送り込んだ彼だった。


「元気にしてたかい?」


「元気ならば、そっちの男は疲れていない。」


カゲアキの息は途切れ途切れで、今にも死そうな顔が見て取れた。


「彼、かなり疲れているね。」


「あんたは誰で、僕らに何の用だ。」


「ああ、すまない。

 まだ名すら名乗ってなかったね。

私の名はアルト・ジョーリック。

 この国で騎士長をしている、ただの貴族だよ。」


「そうか。今度は何の用なんだ?」


「ああ、私は弥生、君を気に入っている。

だから、君たちを逃しに来たんだ。

まぁ、逃すといっても、城外までだけどね。」


「そうか、ならば国外へ出してくれ、兵がまだ来ないとは限らないし、この国では、僕らは立派な犯罪者だ。」


「うーん、少し難しいが、まあいいだろう。

君たちをサディールド帝国まで届けよう。

そこからは、自分たちで生きてね。」


「ああ、ありがとう。」


「ふふ、感謝してくれるなんて、嬉しいモノだね。」


終始会話を見ていたカゲアキは、混乱していた。

(何故あいつは、あの男と会話ができている?

知っているのかもしれないが、そうにしても不思議だ。)


「じゃあ、夜が明ける前に行こうか。

少し、目を瞑ってくれないかな?」


「どうしてだ?」カゲアキは閉じていた口を開いた。


「この術は国において禁止とされていてね。

 他の兵士は、かなり破っているけど、私が破ってしまえば、下の者に舐められてしまうからね。」


「わかった。」


ヤヨイはすんなり頷いたが、彼には理解が追いついていなかった。

「じゃあ、がんばってね。」


俺らは、目を瞑った。


「影秋君、アルト・ジョーリックは君に期待しているよ。」


彼はそう俺の耳元で呟いた。







俺は目を見開いた。


そこは針葉樹が生い茂るタイガ。

そこに居た。


俺は疲れて、針葉樹の幹を背凭れにして座った。

ヤヨイは何もかも、知っていたかのような顔をしている。


俺はもう何も分からず、ヤヨイに今までの疑問を投げつけた。

「今まで何が起こったんだ、なあ、教えてくれ、ヤヨイ!? 

 ヤヨイは何かを創り出したり、自分の身体を強化したり、俺とその世界を知っていた。

お前は、一体何者なんだ?」


「僕は、君と同じ世界からこの世界に来た。ただのヒトだ。」


「違う!! 俺が聞きたいのは、お前は何者で、何故、この国のヒトと同じことができる!?」


「カゲアキなら()()()()()()()()()()? 創造。」


ヤヨイの言葉にびっくりした。


「創造?何だそれは?

そんな芸当、俺にはできない。どうやってしている?」


「そうか、カゲアキには自分の理想はないのか?

創造はいわば妄想と一緒だ。

自分がそうなりたい、そうしたい、それを叶える力がこの世界にはある。

カゲアキの不死は自分の理想を叶えたモノではないのか?」


「当たり前だ。俺に不死を背負って生きる覚悟はない。」


「なら、その不死をどうやって手に入れた?」


「わからない、気づいたら不死になっていた。」


「カゲアキは死んだ時、誰かに出会ったか?

きっとそいつがお前を不死にした。」

     ヤヨイは何故かヒトを聞いてきた。


「ヒト?会ったかもしれない、少し記憶が曖昧なんだ。」


「そのヒトはどんなヒトだったかは覚えているか?」


「そいつは、女だった。

黒髪の女だった。あんたと同じで、スーツを着ていた。」


「ありがとう。

少し疲れたな、しばらく仮眠を取ろう。」


「ああ、そうしてくれ。」


俺はやっと寝ることができた。

(こんなに走ったのはいつぶりだ?

三年の時の体育祭以来か。

あの時の()()()の顔、輝いてたな。もう一度、あいつの顔が見たいな。)


でも、それは叶わない


俺が見捨てたから


俺が、死んだから


あいつにとって俺は、何だったんだ?







(当たり前だ、カゲアキ

俺は、この世界の仕組みを知っている。

この世界は()()()の世界なのだから。

この世界を造った奴はあいつだ。

境雅(さかいみやび)だ。)

この世界の神は神じゃない






読んでいただきありがとうございます。


広告の下から、評価していただけると嬉しいです。

どうか宜しくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ