表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
捨てられたヒト、拾われた瞬間  作者: 桜井良樹
3/14

彼らは足掻く

彼はまた、世界に絶望する。

 彼はそこに立っていた。


ここはスガーナ王国の地下牢。


 彼は僕と同じく、手を縄で縛られていた。


 彼は倒れ落ちた。


 彼は泣いていた。


 彼はこの世界に絶望していた。


 僕は彼を放っては置けなかった。


彼は、僕、仙崎弥生(せんざきやよい)に殺されたのだから。


でも僕は、彼をみたくはなかった。


思い出してしまう。


あの光景を、あの日の温度を、娘の絶望した顔を。


でも、僕は彼に謝らなければならない、この世界に送った罪、殺したことを。


彼は前を向いた。





影秋はこの世界の仕組みを知り、絶望していた。


影秋は国についてなど、考えたくはなかった。


 国にはその国の野望がある。

 

 その野望を叶えるためにヒトは醜く争う。


 争った末に残るのは荒廃した世界だけ。


影秋は戦争など見たくはなかった。


素晴らしい世界の風景が一瞬で屍が転がる、焼け野原に変わる。


 この世界は摩訶不思議なのに、ヒトの作る社会は醜く、歪んでいる。ヒトは、同じヒトを平気で奴隷にし、敗者に発言権は与えられない。


「この世界は俺のいた世界と、何一つ。変わりやしない。」影秋は声を漏らす。


「だったら、変えないか?戦争がなく、景色は変わらない。理想郷に。」男は影秋に反応した。





俺は、男の言葉をなんて夢物語なんだと、なんて馬鹿馬鹿しいと思った。


遂、反論してしまった。

「第一俺に、世界を変える力なんてない。もしも、世界を変えたところで、この世界のヒトは、納得しない。

ヒトは自分さえ良ければ、他のことなんてどうでもいい。全てが素晴らしい世界なんて、この世界のヒトは望んじゃいない。戦争で勝利し、敗者を見下し、自分は優雅な暮らしを送る。敗者は、勝者の功績を彩る飾りでしかない。」


「そうか、ならお前は、平気で差別されるヒトを見て見ぬ振りをするのか。そうゆう人間なんだな。お前は。」


男の言葉に俺は言い返せなかった。


俺は()()()を見捨てた酷いヒト。


自分でもわかっていた。


だから、ここまで俺は腐った。


俺は何度もあいつを思い出して、後悔した。


「俺はヒトとして、本物のクズだ。」

        声が漏れた。




「なら、僕がお前を変えよう。」





   嬉しかった。


自分に手を差し伸べるヒトがいることに。


「僕に、罪を償わさせてくれ。」

    男は小さな声で言った。


 意味がわからなかった。

 男とは初めて出会ったはずだ。

 なのに、男は罪と言った。


「罪?」


「あっ、なんでもないよ。」

      男は隠した。



「お前の名前、教えてくれないか。」

       男は話を変えた。


「、、、カゲアキです。」

     少し照れ臭かった。


「カゲアキ、これからよろしく。僕はヤヨイ。」

 ヤヨイは彼にこの世界で生きる手段を与えた。


カゲアキにとって二番目の差し伸べられた手


カゲアキはヤヨイの手を取った。


この時、ヤヨイは何かに()()()()()()


彼は聞いてきた。


「カゲアキ、どうやって地下牢に連れて来られた?」


「覚えていない。」


「そうか。」


「カゲアキ、まずはここから抜け出すことを考えよう。」


「わかった。」


「この牢内には僕らしかいない。この鉄格子さえ壊せれば、抜け出すことができるかもしれない。まぁ、壊せればの話だが。」


「おい、何故この牢内には、俺ら二人だけしかいない? 少し不思議に思わないか?」


言われてみればそうだった。

 他の牢にはヒトは入っておらず、最近までヒトが居た跡すらない。


 その時。


野太い声が聞こえた。

「おい!お前ら、今、抜け出そうとしてないか?

 この牢から抜け出す?ふざけたことを言わないでくれ。」


どこからともなく図体の大きな兵士が現れた。


 兵士を見たカゲアキの表情は恐怖の顔へと変わった。


カゲアキは思い出した。カゲアキを捕らえた兵。身分証明書を要求してきた、兵士が現れた。


「あいつだ。」

    カゲアキは怯えていた。兵士の力は強く、カゲアキの体は脆いため、かなり傷ついていた。


「やっぱりそうか。」

そこに立っていた兵士はヤヨイを此処へ送り込んだ兵士だった。

     

ヤヨイにとって兵士の登場は予想外の事であったが、ヤヨイは兵士に尋ねたいことがあった。

兵士達が()()()()()()()()()()について。


兵士は喋った。

「なぁお前ら、亜種人類ヒトだろ?お前らの服は見たこともないような、服を着ているからな。そりゃそうだ。亜種人類が身分証明書なんて持ってるわけないもんなぁ。悪かった悪かった。

鉄格子を開けるから少し待ってくれよ。」


そう言うと兵士は鉄格子を開けた。



少し不思議に思ったヤヨイ。


この時カゲアキは何も考えいなかった。

だから、カゲアキは開いた扉を通ろうとした。


その時、カゲアキの心臓を兵士が短剣で貫いた。


「カゲアキ!!」

  ヤヨイは叫んだ。


カゲアキは倒れた。


カゲアキはもう一度、死んだ。


「やっぱり、亜種人類(ヒト)は弱いモンだなぁ。ナイフで刺しただけで倒れるなんて、お前らこんな弱さで世界を変える?笑わせることを言うものなんだな亜種人類は。だから、この世界では、お前らは差別されて、殺されんだよ。」

  兵士は舐めた口調で言った。


ヤヨイは理解した。何故この牢にヒトが居ないのか。

ヒトは兵士達に騙され、殺される。


ヤヨイは兵士への苛立ちと後悔があった。

(僕にもう罪は償えないのか?僕はカゲアキを殺したままにするのか?

嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

絶対に嫌だ。もう弱い自分は嫌だ。僕に強さがあれば、僕は変われる。)


その時だった。


ヤヨイの体に得体の知れない力が流れだした。

ヤヨイはその時、()()()()()()()()()()()()

彼は、剣を()()()()()()()


その剣はカゲアキの方へと転がり落ち、彼の縄を切った。


さらに、不思議なことが起きた。


「ふ  ふざ んな、勝手に  俺をもう。殺すな!!」


カゲアキは起き上がった。


カゲアキはヤヨイが創り出した剣を手に取り、兵士を背後から刺し貫いた。


兵士は倒れ落ちた。


「な、なぜだ。何故お前は、立っている?」

   兵士は傷を必死になって抑えながら、カゲアキに尋ねた。


「俺は、この世界が嫌いだ。

 この城に来るまでの道で、嫌と言うほど奴隷、難民を見た。彼等は餓死しそうなのに此処の兵士達ときたら、殆どのヒトが健康体。いや、肥満じゃあないか。

ヒトは醜く争い、敗者、奴隷には希望はなく、残った将来は勝者の飾り物の人生。

俺は逃げたかった。飾り物。俺は嫌だから。

俺は、自分だけまた助かろうとした。

だから、死んじゃおうって思ったのに、

俺は()()()()()()()()()

俺は死ねない!死ぬことができない!」


「ふ、ふざけるな!そんなことがあり得るか。

お前は、創造主から祝福でも、もらったと言うのか!」


「祝福?ああ、確かに一般のヒトなら嬉しいと思うか。

こんな贈り物、俺にとったら邪魔でしかない。

俺は馬鹿でクズだから、生きているだけで恥を晒してしまう。こんな贈り物、できれば返品したいくらいだ。創造主?と言う奴に。」


「お前、創造主を馬鹿にするのか!いい加減にしろ、お前なんかすぐに...ぐはぁ!」

    兵士は刺された。

 

兵士は倒れ落ちた。


「黙れ、お前はもう喋るな。」

ヤヨイはもう一度、兵士を刺した。


兵士の命は絶えた。


 ヤヨイは兵士の死体の心臓を何度も何度も、刺していた。


ヤヨイの惨たらしい行為を目にしたカゲアキは、ヤヨイに少し恐怖を覚えた。


「こんなガラクタで貫かれて死ぬなんて。お前の鎧はただの飾りだったようだな。」


ヤヨイは兵士の首を切った。

切ってすぐに、兵士の体は灰となって消えた。

ヤヨイは確信した。

(この世界のヒトは亜種人類(ヒト)とは違う。

僕らとの構造が違う。)



「カゲアキ、ありがとう。」

  ヤヨイからお礼の言葉を述べらた。


カゲアキはお礼を受けた嬉しい気持ちと、ヤヨイへの恐怖心で言葉がでなかった。


彼は何かに確信した声で言った。

「やはり、そうだったか。」


「どうした?」


「彼らはやはり、モノを創造し、創り出していた。

創造する力、きっと神に貰ったものだろう。

それとも、彼らにとってみれば普通のことなのか?

まだ、そこはわからないが」

   ヤヨイは世界の理に踏み入れようとしていた。


「それより、こんなとこ抜けないか?」


「ああ、そうだな。そうしよう。」


彼らは牢から抜け出す準備をした。


 準備をしている時、ヤヨイの服から一枚の写真が落ちた。



その写真には、一軒家の前で笑った顔のヤヨイ。お腹の膨らんだ女性。そして、明るい顔の少女が写っていた。


カゲアキはどこか懐かしい気持ちになった。


ヤヨイはカゲアキが写真を見ていることに気づき、言葉を述べた。

「それ、返してくれないか。」

ヤヨイの声のトーンは、ものすごく冷淡だった。


この写真を見た時、カゲアキは少し考えた。

(ヤヨイは、俺と()()()()()()()なんじゃないか?)







「君は優しいなぁ。仙崎弥生の持ち物を奪わないなんて。そ れ と も、奪えなかったのかなぁ〜?」


「優しい?馬鹿を言わないでくれ、私はお前に男を任せると、言っただろう? 奪うもの奪わないもお前の勝手だ。」


「ごめんごめん。君が選んだ品なのに、私に相手をしろ。なんて言うからびっくりしたよ。それほど、彼が嫌いなのかい?」


「ああ、嫌いだとも。

私は、彼女を奪った。



 仙崎弥生が大っ嫌いだ!!」


彼らはモノを創り出す。




読んでいただきありがとうございます。


広告の下から評価していただけると、とても嬉しいです。

どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ