写し出される真実
子供の為の、正義の刃を振るう。
いつも、優しかった。
どんなに辛くても、悲しくても、いつも一緒に居てくれた。
どんな我儘を言っても、笑って許してくれた。
ずっと、嬉しかった。
花奏が話し掛けたら、いつでも答えてくれる。
いつも笑って、明るい声で。
花奏が大好きな、お父さんは、もういない。
『すごい。』ただ、この一言でしか表せない。
彼は、無傷でそこに立っている。
何度も、体と首を切り離した。
微々たりとも、動じていない。
体も震えていなければ、体の切れる音を聞いても一切動じない。
これが、戦士。
僕が今まで見てきた兵士よりも、動きが美しい。
その時。
ヤヨイは、僕の憧れになった。
その美しさを僕も成したい。
自分の正義、価値観を貫き通したい。
そして、誰かを、ヤヨイみたいに魅せたい。
「大丈夫だったかな。」
「えっ、あ、ありがとう。」
幼い少年に、話しかける。
女の様な格好をした少年。まるで本人の意見など一切気にしない大人が作り上げた、着せ替え人形みたいだ。
「気にする事は無いよ。君達は、一切悪くない。もしもまた、君達が殺される様な事があれば僕が助けよう。」
「ほ、本当にありがとう。」
「ここに居るのが、全ての子供じゃないだろう。他の子達は何処に居る?教えてくれないか?」
「えっ、えっと、多分、地下だと思う。」
少し自信が無さそうに、少年は答えた。
でも、仕方がない。他の子達は疲れて眠っている。
それか、僕に怯えたかだが。
「ありがとう。
カゲアキ、アルダンテ。地下に向かい、子供たちを助け出して来てくれ。僕は上で、子供を保護しておく。」
「わかりました。僕が全ての子供を助け出します。任せてください。」
「あ、ああ分かった。」
「じゃあ、そこまで彼らを案内してくれないかな?」
「は、はい!わかりました。こっちです。」
俺達は少年に着いて行き、一つのドアの前まで来た。
「この先が、地下へ続く階段です。」
「ありがとう。」
「えっ、こ、このくらい大したことないです。どうか、頑張って下さい。」
俺は、扉を開けた。
先には薄暗い階段が続いている。
足を踏み出し、その階段を降って行く。
その階段を降り続けた。
アルダンテが降りながら呟いた。
「この下に少女が居る。早く行かないと。それが今、僕に出来るただ唯一の事だから。」
その呟きは俺を惹きつけた決意とは違う、信念を少し、俺は感じた。
地下の階段を見ると、あの夜を思い出す。
体の痛さを振り切って走り切った階段。
あの痛さを思い出すと嫌になる。
あの男を殺した時の自分の馬鹿らしさを。
俺があの男に突き刺され、怒った事を思い出すと、正直恥ずかしい。
まるで、俺が俺を求めているみたいで気持ち悪い。
自分が自分じゃないような感じがした。そしてそれは、さっき駆けようと思った事と、同じように感じる。
と言うか、どうして俺は駆けようとしたんだ?
俺達は、階段を降り切った。
その光景は、あの牢獄と殆ど一緒だ。
土壁に、薄暗い長く続く廊下、錆びた鉄格子。
本当に一緒で、驚いてしまう。
何度見直しても、本当に変わらない。
不思議なくらいに。
俺は見直すと奥に、少女が立って居るのに気が付いた。
その少女は何処か心細そうに立って居る。
「あれが、お前の言っていた少女か?」
俺がそう話しかけると、アルダンテの目が変わった。
「彼女だ。良かった。僕は、間違っていなかったんだ。本当に、良かった。」
アルダンテの目からは、涙が零れ落ちていた。
「良かったな。」
俺は、何の言葉を掛ければいいか分からなかったが、一応言葉を掛けた。
「ああ、本当に良かった。本当に嬉しい。早く少女の元に行かなくちゃ。」
その時、少女がこちらを向き、俺達の方を見た。
あちらもこちらに気付いたらしい。
少女は、こちらへ走ってやって来る。
その足並みは、まるで迷子の子が親を見つけたように、安心しているように見えた。
「ほ、本当来てくれたの。」
少女は潤んだ声を上げ、必死に話す。
「本当に、来たよ。それが、僕に出来る事だから。もう大丈夫だよ。もう君を縛る者は居ない。安心して。」
「あ、ありがとう!!もう、苦しまなくていいんだね。ありがとう。ありがとう。」
少女は、アルダンテに抱き着いた。その時の少女は満面の笑みだった。
その時のアルダンテは、とても嬉しそうな顔をしていて少し、照れていた。
「そ、そこまで感謝されても、ぼ、僕は最低限の事しか出来てい、いないよ。」
「それでも、嬉しいの。」
これが、本物の感謝か。
泣いて喜ぶ。心から相手へのお礼を言う。その形をもので表したり、行動で表したりする。
これが、感謝か。
俺も誰かに、さ《・》れてみたかったな。
「他の子達は何処に居る?」
俺は少女に尋ねた。
聞いた時、少女は感謝からの興奮から落ち着た後、答えた。
「みんな、死んじゃった。」
その声は、何処か悔しそうだった。
「そ、それは本当?」
アルダンテは尋ねる。きっと、信じたくないのだろう。
「そ、そんな嘘。吐きたくないよ。」
「ど、どうして死んでしまったの?」
「、、、、、み、皆んな、何も食べれなくて。私達は、お客様の接客が下手くそだから。何も貰えないの。」
改めて少女を見ると
それを聞いた僕は、堪忍袋の尾が切れた。
「ふ、、、、ふざけるな!!本当に、何なんだよ。
子供使った商売なのに、子供すら格差をつけるのかよ。どうしてこんな店が、合法なんだよ。どうして僕は、知らなかったんだよ。ぼ、僕は皆んなを幸せにする側の人間なのに。」
「そ、そこまで気にする事じゃないよ。わ、私が助けを求めるたのも遅かったからみ、皆んな死んじゃった。」
「君が責任を背負う必要は無い。これは僕の責任だ。僕がもう少し早くここへ来ていれば、助かったかもしれないのに、僕が臆病だから、誰かがいないと、動けないから。」
「別に、どっちも悪くないだろ。変な責任を背負うのはやめておけ。後から恥ずかしくなるぞ。」
「で、でも。」
「もう、ここに誰も居ないなら、戻るぞ。」
「あ、は、はい。」
変な責任は、自分を壊す。
相手が悪いのに、自分にも非があったと考え続け、変なストレスを溜める。
俺はそんな奴を、ずっと間近で観てきた。
あいつはずっと言っていた。
「僕が、みんなと話せないから。」
「僕が、自分の意見を述べないから。」
「僕が、皆んなと違うから。」
そんな責任を負うのは相手のツボだ。
そのストレスが、自分の行動を締め付け、相手の行動範囲を広げる。
自分が一人苦しんでいるのに、相手は、恋人、友達と楽しく、優雅に過ごす。
その一方で、自分は一人、ポジティブに考えようとしても責任が邪魔をして、ネガティブに考えてしまう。
そんなヒトを、もう観たく無い。
だったら、俺が止めるしか、選択肢は無い。
俺は階段を登り、きた道を振り返って行く。
牢獄内にはどれだけの骨があるのか考えると、あまりいい気はしない。
その骨は小さく、中がスカスカでとても軽いだろう。
将来を夢見た少年少女が、大人達の都合で、運命が決まる。その辛さを俺は全て理解することが出来ないが、きっとそれは、俺の考えている何倍も辛くて、苦しい事なのだろう。
そんな事を思いながら、階段をのぼり続けた。
地上に着き、廊下を歩いていく、薄暗い廊下には、朝の明かりが入って来ている。もう夜が明けたらしい。
耳を澄ます。
すると、床が軋む音が聞こえる。
この廊下の軋む音ではない。
最初歩いた時、音は一切しなかった。
そしてこの音は、廊下の先のヤヨイが居る部屋からは聞こえない。
まだ、子供が残っている。
そう思った。
他にある部屋の何処かに、まだ子供が居る。
「すまない。先にヤヨイの元へ向かってくれ。俺は少し調べたい事がある。」
「は、はい。分かりました。さっ、行こうか。」
「う、うん。」
二人の少年少女は手も繋いで向かった。
それを後ろから眺める時俺は、何処か嬉しかった。
俺は、向かう。
軋む音が、聞こえる部屋へ。
微かな音だが、聞こえる。
その音はまるで家のような安心感が、俺にはある。
聴き慣れていた音。
その微かな音を頼りに進んで行く。
そして、扉を開けた。
「あっ、み、見つかっちゃった。ご、ごめんなさい。」
そこには、セミロングの黒髪の、紺色のワンピースに白いカーデガンを着た少女が立っている。
俺は、その少女の顔を見た。
俺は、思い出した。
この顔を知っている。
あの写真で見た少女が、そこに、立っていた。
その少女を、見たことがある。
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