未来を絶つ場所
少年は、完璧だった。
僕は怒っている。
少年の話を聞き、憤りを感じる。
この世界が許しても、僕は許せない。
その理由の中に、彼女が居る。
彼女が泣きながら、悲しみながら、汚い屑に汚されるのを想像してしまうと、僕は自分を忘れてしまう。
もう彼女の怖がり、悲しむ顔は見たくない。
僕のせいで彼女が酷い目に遭って、汚される、そんなモノを想像したくない。
その思いを、少女に重ねている。
そう考えると、許せない。
僕の理想はこんなモノじゃない。
ただ、綺麗なモノに縋って、夢として終わらす。
それじゃ、過去の自分に過ぎない。
望むのならば、自分を伝え、その答えを貰い、動かなくちゃならない。
それが僕が成せる、唯一の事。
それが成さないヒトは自分を嫌い、他人を嫌う。
僕に残されたのはこの世界と、僕に殺されたヒト。
人生はいつも岐路だらけで、どこが大きくて、どこか小さいかが分からない。
今、僕は選んだ道を進んでいる。
選んだ道が、僕にとって正解で有ると信じて。
「わかった。協力しよう。」
俺は、アルダンテの依頼を承諾した。
アルダンテに魅せられてしまった。
誰かを守る。
今聞いても馬鹿馬鹿しい言葉。
ヒトは、自分中心で動いている。
自分が楽しかったらいいし、選ぶ権利を当然のように持っている。
なのにこいつは、自分が民の奴隷だと言っている様なモノだ。
欲に塗れたヒトが、自分から他人の為になる事を成そうとしている。
そんな言葉を深々と語るこいつは、信じたくは無いが、本物の善人だ。
嘘みたいな人間性、それが俺を惹きつけた。
俺達は、夜の町へ繰り出した。
街灯は灯りを灯した道が1本続いている。
そこは、賑わっていて、ヒトはかなり歩いてる。
不夜城。それを少女が作っていると考えると少し、嫌な気分になる。
性と金が支配するこの道は、やはりいい気持ちはしない。
(ここの風俗店は完全深夜営業だ。深夜に幼子に相手をさせる、それがこの場所か。)
ただ不快になりながら、進み続けた。
「こんな辞世に、ここへ来るヒトは結構いるんだな。」ヤヨイは口に出す。
「ここは、多くの金とヒトが動く。そんなここへ来ない商人、軍人はいない。だって、奴隷が買えてしまうのだから。」
「奴隷、か。ここは本当に、最悪な場所なんだな。」
「奴隷なんて買って、どうするんだ?」俺は、興味本位でアルダンテに聞いた。
「一流の家は奴隷なんて買わない。買うのは中流の家だ。ただ、経済力を示す為に買うケースが多い。本当、馬鹿らしい。」
「そうか。」
「それは、面白い話だな。」ヤヨイは少し、嘲笑った。
その声は、ヤヨイの心の底からの声の様に思えた。
「此処だ、彼女が居るのは。」
其処は、古びた家屋の屋根に、看板を掲げている店。その看板には、「幼子」と書かれている。
「やはり、ここなのか。」ヤヨイは頷く。
「ああ、ここだ。」アルダンテは答える。
「此処へ乗り込み、少女を助ける。大事は避けたい。
そこは理解してくれ。これは、僕の勝手で動いているから。でも、大事になった時は僕が全ての責任を負う。だから君達は少女を連れて逃げてくれ。それが、僕に出来る全てだ。」
僕達は、扉を開けた。
そこは、淫猥な匂い漂う空間。此処は戦場とは違う別の地獄。その行為を永遠と見せつけられる。そして、彼らを慰める幼子。
アルダンテは見るに耐えずに、下を向いている。
カゲアキは目を逸らしている。
見た瞬間、僕の気持ちは裏を向いた。
「お客様。今日はどの様なご利用で?」
陰湿な男が話しかけてくる。
(こんな屑に少女は利用されるのか、本当に最悪な、世界だ。)
僕は、受付人に問いかけた。
「なあ、ここの責任者はいるか?いるならば今すぐに、私の前に連れて来い。」
僕が言葉に出すと、行為に勤しんでいる屑は、こちらを向いた。
その言葉は、そこに居る人々を一瞬にして惹きつけた。
「は、はひぃ、少々お待ちを。」
男は怯えているかの様に、急いで呼びに行った。
僕は改めて、この空間を見渡した。
此処は、戦場とは違う地獄。
それを見ると、更に僕の気持ちは、裏を向く。
「お、お待たせしました。当店の責任者、ジラード・ランダース様です。」
そこに現れたのは、鼻筋の通った顔に輝く黄金色の髪の男性。
「いきなり呼び出して、何の用かな。当店へのご不満でも?」少し、余裕のある口調で男性は話しかける。
その口調に、アルダンテは少し恐れ慄いている。
それも無理はない。
アルダンテは、これが初めてだ。
誰だって、最初は口だけだ。
何も知らないヒトは、いつだって立派な口振りだ。
でも、それに対して怒り示すのは、経験者の使命ではない。
僕はアルダンテより、長く生きた経験はある。
その経験を生かし、未経験者を導く。
それが、僕が目指した理想だったから。
今、僕に出来ることは、この店の処罰だ。
「忙しい所をすみません。今日は、貴方に要件があり、此処へ訪れました。」
「さて、その要件とは、何かな、兄ちゃん?」
(もう、丁寧な言葉を並べる必要はないな。)
「あんたの店は、最悪だ。別に慰めるのはいい。ただ幼い子供に、その奉仕をさせるのか?、私はその子を助ける為に此処へ来た。僕達の独断でな。」
「兄ちゃん、面白い事を言うねぇ。何故お前は子供について何故疑問に思う?、もしかして、あんたは知らないのか?」
「すみませんね。私はあまりこの国について詳しくはないので。」
(屑が何かを語った所で、僕は聞く気はないが。)
「そうか、なら教えて差し上げよう。この国じゃな、別に子供を使う事は別に違法ではないんだよ。兄ちゃん。」
「そうか、それは腐った国だな。ならば、私が教えてあげよう、僕が生きた世界はな、お前のような屑は許されないんだよ。」
その瞬間。彼の顔は険悪な顔へと変わった。
「粋がるな。お前のやり方ではこの国で生きる事は出来ないぞ。俺は屑だ。でもな、こんな屑でも、悠々と生きる事が出来る世界なんだよ。そして、俺の従える餓鬼を必要とする屑が居る世界。この餓鬼を求める者が居るから俺は飯を食える。最高の世界だとは思わないか?」
「確かに最高なのかもしれない。でも、屑が悠々と生き、純情な子供は未来を失う。そんな世界、私は見るに耐えない。だから、私と子供達が生きやすい世界を造る。それを僕は許されている。神からな。」
ヤヨイは神を語った。ヤヨイはモノを創り出される。
神を出し、神を語った。
ヤヨイは何度も神を口に出していた。確か、ナーバスも言っていた。あの国のヒトは、神を信じ、神から愛を授かる。その神への信頼から俺のヤヨイへの恐怖は、きっと、来ていたのかも知れない。
俺は少し考えた。
ヤヨイは、あの国と何かしらの関係があるのかも知れない。
男性は、呆れた口調で言葉を放つ。
「神?笑わせるな。俺達はな、神から愛されていないんだよ。此処はな、神の御威光も無ければ、天からの使者もいない。投げ捨てられた地。」
男性は、この国を語った。
投げ捨てられた地。これが意味するモノは、差別だ。
あの国から差別され、ましてや国内でも、上下が出来ている。
(そうか、この国は、根から腐っている、のか。)
男性の言葉を聞いたアルダンテは、反論した。
「投げ捨てられた?、それは違う。絶対に違う!
僕達は投げ捨てられたのじゃない。スガーナ王国が勝手に差別しているだけだ!それを、真に受けるから、傷付くヒトが後を絶たないんだ!」
怖気付いていたアルダンテが、全力で男性を否定をする。
「おい、クソ餓鬼、調子に乗るな。何が違う、俺達は死んだ時、体は消えず残り、汚れた血を流す忌まわしきヒト。その中でも、優越感に浸りたくて、国民を差別にし、上下を作る。それを定めたのはそっち側だろう。アルダンテ・シャロン二。」男性は、アルダンテの名を知っていた。
「っ!、、、どうして、お前が僕の名を知っている。」
「あんたは、有名人だよ。この国最大の屑の弟さん。」
男性のその言葉は、僕にあった、自分だけの正義の心を、一瞬で砕いた。
もう、いいや。
僕がどれだけ自分だけの正義の心を燃やしても、市民には届かない。
僕には最悪のレッテルが貼られている。
兄ちゃんが奪ったヒトの命は、数え切れない。
戦いは、自分を意思を貫き通した証。
自分を示し、他人を否定する事。
その意思を、信じた者も、否定した者も死ぬ。
分かっていた。
僕は死ぬ、罪人の家族として、自分の責任じゃなく兄の責任で、嫌われ者として。
そんな僕が自分を信じて、夢を追って進むのは無理だったんだ。
もう、泣いていいかな。
苦しいよ。気持ち悪いよ。悲しいよ。
最初から無理だったんだ、少しの言葉で、泣いてしまう僕には。
今、大声で泣いたら、僕の気持ちは晴れるかな?、曇ったままかな。わからない、わからないよ。
誰か、僕に教えてよ。
アルダンテは座り込んだ。
その彼は、まるで忌々しい自分の過去を見ているようだった。
夢の途切れる音がする。
その音を聞くのは、二回目だ。
アルダンテを貶めたこの男は許せない。
今、「僕の正しさが生きる。」そう感じた。
だから、僕のやり方は完璧だ。
「もうお前には、話す事はない。いいかよく聞け!!ここにいる屑共は、今すぐ子供に頭を下げろ。そして出て行け、この世界から。」
今に見ていろ、クズ共。
明るい未来を奪う、お前らを、価値の無いヒトに今すぐ。塗り替えてやる。
「なぁ、今の言葉聞いたか?差別は、スガーナの勝手だとさ。全く、もう少しスガーナを気遣って欲しいモノだ。」
「ねぇ、アルトのお気に入りってどれ?」
「僕の話は其方退けで彼についてか。仕方がない、彼さ。見えるかい?」
「うん。なんか、変な奴ね。まるで、神様を気取る、人間みたい。」
「神か。」
(もし、この話を彼女が聞いたら怒るかな?それもまあ仕方ないか。大嫌いな奴が、自分と同じ、神様なんて、誰でも怒るか。)
もう、子供の悲しむ顔は見たくないんだ。
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