圧倒的な力を望む人
彼女は語る。彼と共に歩んだ道を。
「私が、彼と会ったのは婚姻が決まってからだった。
彼は将軍の家に生まれ、将校になるために育てられた。
私は貴族の家の出で、代々シャロン二家と婚姻を結んだ家だった。
だから結ばれた婚姻、本人の意見など気にしない婚姻。
彼は私と初めて会った時、彼の顔は笑っていなかった。
その顔はとても怖さを感じた。
私と彼は5歳、歳が離れていて、彼についていける自信が無かった。
でも、その裏は優しいヒトだった。
彼は、私にこの国の綺麗な景色を写生した絵を描いてくれたり、私の愚痴にも本気で向き合ってくれた。私が、見てみたい花を南方から取って来てくれたりもしてくれた。
私は、そんな彼をいつの間にか、本気で、愛していた。
彼と居るのが楽しい。嬉しい。他の貴族との嫌な交流を忘れられる。
でも、彼と共に過ごした日々は、一瞬に過ぎ去った。
戦争が始まり、彼は戦禍の渦へ飛び込んだ。
彼は、一流の軍人だった。
戦場に立てば、どれだけ不利でも兵を蹴散らし、屋敷に忍べばどんなに厳重な警備も掻い潜り、砦に篭れば何日だって持ち堪えた。
その功績から彼は出世し、Sard精鋭部隊を率いる長になった。
彼は駆けた。
血生臭い戦場を、腐り切った館を。
でも彼は、必ず、生きて帰ってきた。
でも、どれだけ彼が善戦しても、国は敗北を重ね、崩壊の一途を辿るだけ。今は少し収まってはいくが、まだ戦禍は続く。
そんな中、彼は一人、血だらけで帰って来た。
その顔は憎悪と恐怖で満ちた顔で、歩くのもままならない怪我をしている。
私は声を急いで掛けた。「スラー様!早く治療を。」
でも彼は断った、ただ一言で。「触るな!」
彼は怒っていた。その言葉に、いつもの彼はいなかった。
そこにいたのは、初めて敗北を知った、スラー・シャロン二だった。
次の日から、彼は全てを放棄した。
家も、金も、家族も。そして去った。
ただ一つ持って。それは、Sardの長としての誇り。
それを持って去った。
全てを放棄した彼を、貴族は許さなかった。
壊滅寸前のSard精鋭部隊を廃止にし、戦争の敗北の原因を作ったとして、彼は罪人になった。
私は、まだベデサール家に守られて生きていますが、いつ処刑されるか分からない身です。
彼の親は処刑されました。
それでも彼は戻ることはありません。
他の貴族は、私の家を非難し、私の親も彼を見捨てています。
でも私は、スラー・シャロン二様信じている。だから、もう一度会いたい。
私は調べることにした。
彼の居場所を、彼が何故、負けたのかを。
私は調べ、彼が潜んでいる村イバスバード。
そこまで掴んだ。
でも、確信的な情報は得られていません。
だから、私は彼を知っている、そんなヒトに出会いたかった。
それが今、私の前に居る貴方達だ。
これが全てになります。
貴方達の話、を聞かせて貰えませんか?」
「少し、いいか?」
「はい、なんでしょうか?カゲアキ様。」
「アルダンテ・シャロン二。まだお前の話を聞いていない。」
「やっぱり、話すしかないのか。」
「当たり前だ。ここへ連れて来たのはそれが理由だろう。」
「わかった、話す。僕が何故、お兄ちゃんを嫌うのかを。
お兄ちゃんは僕にとって特別だった訳じゃない。ただ同じ血を引く、同じ環境で育ったヒト。そんな認識だった。
でも、お兄ちゃんがSardの長になってから、全てが変わった。
お兄ちゃんの周りにはいつもヒトがいる様になった。
僕は、少し怖かった。
僕は戦場を知らない。
戦場を知っているヒトたちがいつも目の前に沢山いる。いつ怒るかもわからない。
でも、そのヒトたちはいつも、僕に優しかった。
顔はいつも笑っていたし、僕に戦術だって教えてくれた。
僕の知っている軍人じゃない。
僕が彼の弟だったからなのかもしれない。
でもやっぱり、優しくして貰えるのは嬉しかった。
でも、そのヒトたちは死んだ。
お兄ちゃんが殺した。
助けることが出来た命を、見捨てた。
だから僕は、動けるのに、動かないヒトが嫌いだ。
僕自身も、お兄ちゃんも。
でも、僕は信じたいんだ。
お兄ちゃんは冷たかったけど、ヒトを見殺しにするほど酷くない。
お兄ちゃんは皆んなといる時、いつも笑っていた。
そんなお兄ちゃんが皆んな殺すはずが、ないんだ。
だから、もう一度、お兄ちゃんの口から聞きたいんだ。
お父さん、お母さんが処刑された。次に殺されるのは僕だ。
死ぬ前にもう一度会って、真相を聞きたい。
だから、お願いします。
お兄ちゃんを、ここに連れて来て。」
アルダンテは、頭を下げた。
「私からも、どうかお願いします。」
ランシーも、頭を下げた。
アルダンテの言葉は、俺には辛かった。
俺が何故、今ここに居るのは、母には縁を切られ、車に轢かれ死んで、嫌々第二の生を歩んでいる。
でも、こんな原因を作ったのは紛れもない、僕が逃げたからだ。
俺は、動くことが出来た。でも、動かなかった。一つの判断が自分の狂わす分岐点になる。
それで外が怖くなって、糞みたいな人生を過ごした。
俺に、先を考える力はない。
自分も不幸になれば、相手だって不幸になる。
そんな簡単なこと、早く気づけばよかった。
「分かりました。僕は必ず、スラー・シャロン二を此処へ連れて来ます。」
こんなことは、絶対にダメだ。
勝手に自分を考えてくれるヒトを捨てる、彼はダメだ。
彼は、自分では動かない。
あの任務の時もそうだった。
きっと彼は強い。
でもその強さは、何かを勝ち取るものじゃない。
何かを守るものの為に使う。
自分のくだらない野望なんかより、誰かの笑顔を守った方がいい。
僕は何度も自分の為に動いて、何度も他人の悲しむ顔を見ている。
だから、彼には守って欲しい。他人に誤解されたまま別れるのは辛いはずだ。
だから僕は、自分勝手に動く、その行動が彼女たちにとって正しいと、 思っているから。
「では、貴方達の話を聞かせて貰えませんか?」
「分かりました。では話します。
僕達は、スガーナ王国から逃げて来ました。
ちょうど森林で休んでいる所を、Sardの隊員に拾われ、イバスバードの村に着いた時、彼に初めて会った。その時の彼は僕なんかよりも下の歳なのに、とても大人に見えた。
彼と僕では駆け抜けた人生が違う、そう感じた。
その後、初の任務を終え、僕達はスラー・シャロン二からの命で帝都に赴いています。
彼から「任務の報告をしろ。」と伝えられています。
彼からはここに知り合いがいると、聞き及んでいましたが、それは貴方達なのですか?」
彼女は少し悲しそうな顔で答える。
「もしそれが、私達ならとても嬉しいですが、きっと、上層部の方なのでしょう。彼はそういう方ですから。」
彼女は笑いながら言う。
きっと、心は笑っていないのに。
「私達の勝手な依頼を受けてくれて、本当にありがとうございます。今日の所はお休みになってください。あっ、こちらで部屋を用意致します。
明日、貴方達には彼の知り合いに任務の報告を行えるよう、こちらで手配させてもらいます。」
「ありがとうございます。あと、彼のことですが、気にしないでください。僕も、彼には突っかかる所はある。そのことを知ることが出来るなら、一石二鳥です。」
話の後、僕達は部屋へ案内され、そこで休んだ。
昼とは真逆の怖いくらいの静寂に包まれた夜。
灯りはなく、暗闇だけが広がる町。それを俺は一望している。
その時、訪ねて来た。
アルダンテ・シャロン二と、その背後にヤヨイが居た。
アルダンテは見出しを整え、顔は何かを覚悟している顔。
ヤヨイは少し、怒りに燃えた顔。
そんな彼等が訪ねて来た。
アルダンテは口を開いた。
「ごめんなさい。僕はまだ、お願いしたいことがあるんだ。」
「僕からも願う、彼の願いを聞いてくれ。カゲアキ。」
彼等の目は、覚悟を込めた目をしている。
「わかった。」その目に押されるがまま、頷いた。
彼等を部屋の中に入れ、アルダンテは話した。
「僕は、ある少女に助けを求められた。その少女の瞳は、希望を乞う猫のような目をして、今すぐにでも泣きそうな少女は、僕に助けを求めた。その少女は僕に助けを求めた後、風俗店の中へ入っていった。その時の少女は、泣いていた。
その少女を僕は、助けたい。
僕は、何も知らなかった。
この国の市民が何故逆らうのか、どんな仕打ちを受けているのか。
でも、少女を見てわかった。
だから僕が、笑わせなくちゃいけない。
上に生まれた者は、市民を使うんじゃない。
市民が笑える、国を作る。
それが僕が成さなくちゃいけない任務。
そのためには、市民に寄り添わなくちゃならない。
僕が成せる一歩で、少女の笑ってる顔が見たい。」
(あんた、いい奴すぎるよ。)
誰かを付けるには自分が動かなくちゃならない。
人一倍に努力した力を見せる。
それを成そうとしているあんたは、俺が憧れた自分の理想像。
それにしか見えなかった。
少年と自分を重ねてしまう、俺。
読んで頂きありがとうございました。
良かったら広告の下から評価していただけると、とても嬉しいです。
どうかよろしくお願いします。




