彼に残されたモノ
少年は真っ直ぐに、進み続ける。
日が沈み、辺りが暗がりを見せた頃、俺達は火が灯り始めた照明を横目に見ながら、少年に付いて行っている。
きっと、この道は王宮へと向かう道だ。
少し、そんな予感がする。
声が聴こえる。
国を変える為、立ち上がる市民の波はまだ、終わりを見せようとはしない。
市民は本気でこの国を変えようとしている。
だが、この道から広場へ向かう軍人もいなければ、この道を越え、王宮へと向かう市民も見られない。
そんな中、俺達は道を歩いている。
この道こそが、王宮へと続く道。
このような道がなぜ、王宮と繋がっているのかこ通りに入ってすぐ、わかってしまった。
この通りには、妖艶な色の看板が飾ってある。
その看板にはヒトの絵が描かれており、体のラインから、女性らしさを感じられる。
この通りは、きっと男女が入り乱れ交わる場所。
「風俗街」だ。
この場所は、かなりきつい。
人っ子一人もいなければ、薄暗く気味が悪い。
市民の変化を求める声が永遠と聞こえ、いつ、この通りに市民、軍人が来るかわからない恐怖が俺にはある。
俺は、早くこの通りを抜けたい気持ちでいっぱいだった。
なのにこの少年は、見る向きを変えずただ、前を目指している。
その瞳に写っている光景は、本当に俺と一緒なのかと疑いたくなるほど、まっすぐに進んでいる。
「スラー・シャロン二。彼について教えてくれないか?」
ヤヨイは、この静寂に包まれたこの場所で、口を開いた。
きっと、この空間を紛らわすための与太話だろう。
そう思う。
ヤヨイがどんな人生を歩んで来たのかは、全く分からないが、一つ言える。ヤヨイは、このような場所に行くようなヒトではない。
だからこそ、この話を振った。
それだけが、俺の確信
それでなければ、あの写真であそこまでの笑顔には、ならないだろう。
少年は少し嫌そうな顔をしながら、口を開いた。
「スラー・シャロン二は、僕の兄ちゃんだ。」
俺は、驚きはしなかった。
少年がスラー・シャロン二が生きていると、知った時の顔。
あの彼は、あいつの妹そっくりだった。
あいつには、四つ下の妹がいた。
妹は元気一杯で、いつもニコニコしている顔。
その笑顔は、見ているこっちまでもが笑えるよう顔。
その彼女が一番の笑顔だったのが、あいつの前だった。
だから、覚えている。
あいつの死後の彼女の代わり様も、俺を恨む顔も。
全てを奪った奴を、憎む顔を。
その顔と少年は瓜二つだったから、俺は驚かなかった。
だから、少年に聞きたくなった。
「なあ、スラー・シャロン二にには、お前との間に何があったんだ?
何もないならば、俺達を連れて行く必要なんか全くないし、お前がスラー・シャロン二と離れる必要はないだろ?」少し気になり、少年へ尋ねた。
少年は黙り込む。
少年はきっと、答えるのは嫌だろう。
少年にとって、辛い思い出であるのだろう。
少年は、この話の時、ずっと嫌そうな顔をしている。
少年は黙り込んでいる口を開いた。
「お兄ちゃんは、お父さんとお母さん、Sardの皆んなを殺した。だから、僕は、お兄ちゃんが、大嫌いだ。」少年は地面に座り込んで、泣いた。
俺は、少年の触れてはいけない所を突いてしまった。
俺の興味が、少年の嫌な記憶に触れた。
こんなこと、絶対ダメなのに。
「す、すまない。」
ただ謝るしかない。
「き、気にしないでよ。ほ、本当に言いたいのは、こ、ここからなの。」少年は、ヒトが変わった様に、口調が変わった。
無理して喋る所までも、あいつの妹そっくりだ。
「ごめんね。僕が嫌な事を聞いちゃって。この話は後にしようか。先に君の場所へ、案内してくれるかな?あと君の名前、教えてくれるかな?」
ヤヨイは謝った。
とても優しい声。
ヤヨイは子供に慣れている。
俺とは違う、全くの別物だ。
「アルダンテ、・シャロン二。」少年は鼻を啜りながら答えた。
「じゃあよろしくね、アルダンテ君。僕はヤヨイ、こっちの彼が、カゲアキ。僕達はイバスバードから来た、君のお兄さんを知っている。アルダンテ君が落ち着いたら、また話してくれないかな?お兄さんのこと、この戦争のことを。」
「うん。」アルダンテは承諾してくれた。
少年は思ったよりも幼く、純情だった。
少年が過ごした環境、それが関係しているのだろう。
衝撃だった。
アルダンテはスラー・シャロン二が、Sard隊員を殺したと述べた。
最初、ナーバスに助けられた時、ナーバスは人員不足と言っていた。
俺は戦争で死んだと思っていたが、彼が殺したのかもしれない。だが、この少年にはまだ話がある。
その話に真相があるかもしれない。
俺はアルダンテを泣かせてしまい、嫌ない思いをさせてしまったが、でもまだ少年には聞きたいことが山程ある。
そう思いながら、また歩き出した。
もう日は完全に沈み、三十分ほど歩いた後。
少年はある建物を見ると、足を止めた。
その建物の入り口には看板があり、そこには、日本語で、「幼子」と書かれている。
どう見ても、如何わしい店にしか見えない。
「どうしたの?」
ヤヨイは尋ねる。
「な、なんでもない。」
「そう、何かあったら言っていいからね。」
アルダンテは何事もなかったかの様に進み出した。
進み続け、もう王宮の塀が見える所まで来ている。
かなりの長さを誇る風俗街を抜け、街頭が多くなり、かなり雰囲気は良くなっている。
その塀の近くに、一人の女性が立っている。
茶髪の少し小柄な女性。服はかなり綺麗で、市民ではないというのが、すぐわかる。
その女性は、こちらを見ると、向かって来た。
「アルダンテ!こんな時間まで何処へ行っていたの、、、って其方の方は?」
「ご、ごめんなさい。お義姉ちゃん。こ、このヒト達は、お兄ちゃんの居場所を知っているらしい。」
「ほ、本当?!良かった、スラー様は生きているんですね。」彼女はとても嬉しいそうに喜んでいる。
「アルダンテ君、こちらの方は?」
「ランシー・ベデサール様、お兄ちゃんの、奥さんです。」
「奥さんがいたとは初めて知りました。彼、結婚していたんですね。」
ヤヨイは少し驚いている。
俺もかなり、驚いている。
スラーが最初言っていた、軍の知り合い。それが彼女になのかもしれない。
スラーは一人身を起こし、任務に当たっているとなる、それなら素晴らしい話だが、でも俺は、アルダンテの言葉から、妻を置いて逃げた、そう考えてしまった。
彼の知っていると聞いた時の顔、それは安心そのものだった。
彼女と、連絡は取っていないのかもしれない。
彼は、軍に知られることを恐れている。
だから、俺らに兵士を殺して欲しくなかったのかもしれない。
「貴方達、ここまで遥々ご苦労さまです。今、革命軍が引いています。さあ、今のうちに参りましょう。」
「ありがとうございます、奥様。」
サディールド帝国 王宮内
「進路遥々ご苦労様です。こちら、菓子になります。」彼女は王宮内にある客間に案内してくれている。
この王宮内は焦りに焦っている。
シャロン二邸へ向かう最中、何度も軍人とすれ違う、軍人達の顔は、とても疲れている。
それもそのはず、この軍人達は市民の鎮圧に精を出し尽くしている。
この国に忠誠を誓った者なのだから、当たり前かもしれないが。
「では改めまして私は、ランシー・ベデサール、シャロン二家十二代目当主、スラー・シャロン二に様の妻にございます。スラー様を知る、貴方方のお名前、教えて頂けませんか?」
「Sard部隊員、ヤヨイにございます。」
「同じく、Sard部隊員、カゲアキです。」
僕達が名乗った時、彼女はとても驚いた顔をした。
「やっぱ、軍人じゃん。」
アルダンテは小声でボソッと呟いた。
俺は少し、アルダンテを騙してしまった罪悪感があるが、まあ大丈夫だろう。
彼女は勢いよく、こちらに応えてくる。
「Sard!貴方達はSardの部隊員なの?、それは、本当?」ランシーは腰を乗り出し、こちらに尋ねた。
少しびっくりするぐらいの、食いつきだった。
「はい、僕はスラー・シャロン二から直々に、部隊へ招待して頂きました。」僕が問いに返すと、ランシーの顔は少し険しい顔になった。さっきまでの飛び跳ねそうな顔から、途端に険しくなるので、本当に驚いてしまう。
「アルダンテ、少しこちらへ。」
「どうしましたか?お義姉さま。」
ランシーはアルダンテを呼び掛け、密かに話し合っている。
少し、声が聴こえる。
「お義姉さま、そこまで話すのですか!?」
「話さなくてはなりません。スラー様が報われているのならば。アルダンテ、どうか許されよ。」
「そ、そこまでお義姉さまが言うのなら。」
話しが終わり、ランシーはこちらを向いた。
その顔は威勢が良く、まるで女帝の様な眼をしてこちらを見ている。
「ヤヨイ様、カゲアキ様、お願いがあります。私達は、スラー・シャロン二について、私達が知っている限り、全てをお話します。そこで、貴方達が知っているスラー・シャロン二にについて、全て教えてくれませんか?その中にはきっと、貴方達が気になっていることが、いくつかはあると思います。」
ランシー・ベデサールから直々のお願い。
この話を飲めば、この戦争の発端を知る鍵になるかもしれない。
何故、アルダンテがスラーを嫌うのか、ランシーを置いて去ったのか、僕達を簡単に部隊に入れたのか、そして、早くに追い出したのかを、全て知ることが出来る。
「分かりました。では、僕が知っているスラー・シャロン二について、全て話します。」
「私は何度も何度も、自分の責任から逃げるのか。本当は、ダメだとわかっている。なのに、何度も何度も逃げている。あの二人は私を庇ってくれるが、もう辛い。あの時私が、情報を聞き漏らさなければ。」
ドアが開く音がした。
「隊長!大変だ。帝都にて革命が起きているのと同時に、スガーナ王国の兵がこの国に向けて進行を始めている。早く向かわはなければ、国の命はないぞ!」
「誰だ。誰が率いている。」
「革命軍の指導者はまだわかっていないが、スガーナの兵を率いているのは、アルト・ジョーリックだ。」
「そうか、やっと俺は、出来るのか、皆の命を奪ったあいつを、俺の、力で。」
(今に見ていろ、アルト・ジョーリック。今度こそ俺は、自分を示す。)
この話は、未来を決める。
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