表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/8

4

「花影くんって、何でもできるんだね。かっこいい!」

そうかな。

「花影、お前は将来の期待の星だ」

うるさい。

「花影ってほら、先生のお気に入りだから」

うるさい、

「いいな、なんでもできるチートは」

うるさい!!

「奏汰、すごいな!」

、、、、。


こんなもの(才能)に拘束された将来なんて、僕はいらない。

 2,3日過ごしてわかったことがある。

個人としてのスキル、は相手のままであること。つまり、花影が元々できたことは、俺が中身に入ってもそのままできるということ。逆に、できないことは、そのままできないということ。


「奏太、移動教室だよ、行こ」

 模範的に制服を着こなした、いかにも好青年、といった男子高校生数人が、俺に話しかけてくる。

「うん、行く」

「どうしたん?なんか考え事?」

「違うよ~」

「今日は持久走だから、嫌がってるのかと思った」

「そ……うだね、すごい嫌だ」

「正直じゃーん」

 青年の一人……カズはくすくす笑う。

「しょうがないな、一緒に走る?」

「女子か」

「それで、最後一周で裏切るの」

「女子か」

「何々?女子と遊ぶの?カズくん」

「いいな~」

「違うわ!」

「俺を裏切るって話だった」

「「「!?」」」

「……何だよ」

「奏汰、反抗期?」

「へ?」

「何でもな~い」

「何だよ!」

 カズが肩を組んでくる。あぁ、懐かしいな、この感じ。この、周囲に友達がいて、飾らずに話ができる、この感じ。

「なぁなぁ、もうすぐさ、文化祭じゃん?」

「そうだな」

 文化祭、っていうワードがまず良いよな。俺、めちゃめちゃ楽しんだ記憶がある。

「俺さ、有志でお笑いしたいんだわ」

 男子生徒の一人、利人がとんでもなく楽しそうなことを言いだす。

「どうぞ~」

「すごい、いいじゃん~!」

「ちがうわ、お前らの中で一緒に!」

「え~はずいじゃん~」

「僕は嫌だよ~恥ずかしいじゃん~」

「奏汰はアレでしょ、ピアノ練習で忙しいから、難しいよね」

「え、俺……」

「いや、それは不平等だわ~」

「じゃあ、この持久走でドベになった人が、利人と一緒に組む、ってどう?」

「「「賛成~」」」

「え、そんなにみんな嫌なの?」

「さっ、まずは持久走行かないと!遅れちゃうよ~」

「ちょっ、カズ~?」

 カズを追いかけ、更衣室まで行く。正直、お笑いステージとかは、花影のキャラじゃないな……。ステージに立つ花影を想像すると、場違いすぎて思わずにやけてしまった。とりあえず、持久走頑張ろう。


 この後、持久走で上位5人へ食い込むカズと、序盤でゴールを迎えた男子生徒数人を傍目に、中の下あたりで彼らの盛大な応援を受けながら、ゴールを迎えたのは、また別の話。

「奏汰、頑張れ~」

「花影、遅いよ~文化祭でコンビ組むの決定な~」

「花影くん、運動嫌いなの可愛い~」

「いやいや、俺の方が可愛いだろ」

「カズ、男同士が可愛さで競うのはどうかと思うな」

「うはははは」

……あいつら、好き勝手、言いやがって。っつーか、まじで、こいつ、体力ない……肺に空気が入って……いか、ない……はぁ……。

 花影の体力を恨みながら、全力で、残り一周を走った。


「花影って、俺って言ってたっけ」「俺も初めて聞いた」「まぁ、そういう気分だったんじゃない?」

 ……持久走を走り終わったカズ達が、こんな会話をしていたのも、また別の話。





「花影君じゃーん」

「……誰?」

 昼休憩時間。記憶にない、いわゆる初対面の男子生徒数人が、俺の元へやってきた。襟元の青いバッジ……上級生か。真面目な学校のためか、ぱっと見不良、には見えないが、このご時世でもこういうものってあるのか、と逆に感心してしまう。

「遊びに付き合ってよ~。天才君」

「お~い、聞いてるのかよ~」

 視界の隅で、カズがこちらを向いているのがわかる。他のクラスメイトの、動揺も伝わってきた。ただ、よくある光景なのだろう。一人の生徒が、職員室へ教師を呼びに行こうとした、その時。

「いいよ。何する?」

 俺の口から、挑発に対する肯定のような言葉が飛び出した。

「えっ……?」

 明らかに周りの空気が変わった。

「いいじゃん、今日はノリが良いな」

 先輩は逆にノリ気で、声が生き生きしていた。

「その変わり、他のクラスメイトは今から昼食です。周りを巻き込む非常識なやつにはなりたくない。音楽室、に行っても良いですか?あ、でもリンチとかだったら話は別ですね。ベタに体育館裏とかどうですか」

「お前、何言ってんの?そんな生意気なこと言ってただですむと思ってんのか?」

「先輩たちこそ、目撃者はこれだけいるのに、よく飽きずに毎回脅しに来られますね」

「お前……」

 先輩の一人が手を挙げる。やばいな……。花影の運動神経は、さっきの持久走で体感してしまったからな。避けられる反射神経も期待できない、というか受けるのにこの()()()手は使いたくない、あいつに悪すぎる。一発殴られるか。花影、ごめん。覚悟して目を閉じた時。

「いい加減にしろ、またお前らか!」

 タイミングよく生徒指導が入ってきたところで、先輩たちは撤収され、この事態はお開きになった。見守っていた他のクラスメイト達も、動き出す。声をかけてきた先生に「大丈夫です」と笑顔で返し、俺は弁当片手に席を離れる。途中クラスの優等生グループには、盛大に睨まれた気がするが、「迷惑かけてごめんね」とスルーしておいた。


「奏汰……僕は寿命が1年縮んだ気がするよ」

「そうか?」

 カズがお弁当片手に詰め寄ってくる。

「そうだよ!まさか反論するとは思わなかったし」

「え……」

「何で今日はいつもみたいにやり過ごさなかったのさ」

「えっと……」

「……まぁ、良いけどさ。何もなくてよかったよ。っていうか、奏汰、音楽室、って、あのままだったらピアノ聴かせてくれる感じだったの?」

「いや、そっちの方が早く黙るかなぁ、って思って」

「それがあの先輩たちに通用すると思ったのがすごいよね」

 ガキ相手だからな……と悪態をつきつつ、俺もしがない高校生であったことを思い出す。

「うーん、確かに」

「何それ~勝算あるのかと思ったじゃん~」

 けたけたとカズは笑う。カズはよく笑う。傍にいると、心が安らぐ。彼の周りにはいつも人が絶えない理由がわかる気がした。


「でも、僕奏汰のピアノ、聴きたかったな~」

「いやいや、人の演奏聴いてもおもしろくなくない?」

「おもしろいかそうじゃないかは、僕が決めるんだよ~!それに、プロの演奏を身近で聴けるんだよ?超贅沢じゃん!奏汰、そうやって一回も聴かせてくれないけど」

「いざとなったら、N○Kで聴けるぞ、年に数回」

「生で聴きたいんです~」

「でもカズ、放課後部活じゃん」

「奏汰だって、放課後は帰っちゃうでしょ~」

「音楽室は、吹奏楽部が使うからな」

「じゃあ、今の昼休憩!」

「今は弁当が食べたい」

「じゃあ、食べ終わったら!」

「今日はありえないほどゆっくり食べる気分なんだ」

「なにそれ~奏汰、最近意地悪だよ~!」


 この守られた空間。味方もいて、気軽に笑い合える友達がいて。ほどよく敵?みたいな人もいるけれど、建前なく素で過ごすことができる。やっぱり楽しい。そう、この気楽さとノリ。余計な上下関係や損得を考えずに、話ができること。日々、ちょっとしたことでわいわいできる感じ。懐かしいな。おまけに、将来有望で、才能も周りに認められている。ただ、こんなに楽しいと、少し花影に対して罪悪感が芽生える。楽しいあいつの青春の時間を、今、大人である俺が奪ってしまっているではないか。……いや、そもそも最初に交換条件を言ってきたのはあいつなのだが。少し、思考の中でひっかかる。

 こんな楽しい時間、花影は嫌なのか?早く大人になりたいのか?問題が、奴の思考が、わからない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ