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「あ、あれは・・・・・・なんだ?」
「軍部だ!」
「なんでだ?
銃器隊と特攻?さっきの銃声で警察じゃなくて軍なぜが出てくる?」
さっき発砲した音で誰かが警察に通報したのだろう。
だが、いきなり現れたのは銃器隊と特攻隊と呼ばれる部隊。
彼らは凶悪なテロリストもしくは大量殺人を行いそうな犯人を捕獲する際、警察の要請もしくは軍上層部の命令無くしては普段出動しない。
「警察を飛び越えて軍が動くことなど、滅多にない」
その言葉を目で確かめるために窓に駆け寄ったオブリーは歯軋りした。
外には肩に長い銃刀を構えた五十人ばかりの兵隊と急所部分に防具を付けた特攻部隊が建物を取り囲み、様子を見物する人だかりが遠くの方で騎兵隊に止められている。
「なんでだ?
ブラックバーン伯が警察に誘拐届けを出した知らせは今朝はまだ無かったはずだ。
軍と言うことはまさか、貴様らあの男の従兄妹のハートリー公爵家にいたのか!
ええい、こうなったら計画変更だ。人質を盾にして逃げるぞ」
自分の計算が狂ったオブリーが寝室の方へ足を向けた瞬間、腕を縛られていたはずのハイトが優雅に縄をほどき、素早く前に進み長官に解いた縄を絡ませた。
縄に気を取られたオブリーの横顔を思いっきり殴りつけたハイトは、目も鮮やかに殴ったオブリーの腕を後ろにねじあげ、銃口から自分が狙われないようにオブリーを締め上げ、彼の身を盾にするように移動した。
だが相手も大したもので、ハイトの反撃にも関わらず咄嗟にサラが寝室の王子の許へ駆け寄る。
「お父様を離しなさい。
でないと王子は眠ったままあの世に行くことになるわよ」
「ふん、わしを盾にとっても王子が人質では手も足も出まい。
ヒース、王子の脚でも撃て」
――親子揃ってサド?
相手は銃を持っているし何とか下の軍を呼ぶ方法ないか?
「どうぞ。あなた方が攫った王子を撃つならお好きなように」
だが、ハイトはその挑発に乗ることもなく余裕の微笑みのままで、王子の身の上など我関せずの血も凍るセリフを吐き、さすがの敵三人もあんぐりと口を開けた。
そんな周囲の反応など気がつかないのか、私の縄を気にするハイト。
「この男の腰にある剣で腕の縄を切れますか?」
「いえ、それよりも外に分かる様に窓ガラスを割ってください。
彼らに指示を出しますから」
ハイトは私の目線の先を追い、ふっと笑った。
そして再び無表情に戻ると締上げているオブリーが帯刀している剣を後ろから抜き取り刀の柄を思いっきり窓に叩きつけた。
「な、何するんだ!」
眠っている王子に銃口を突き付けているヒースに一瞬隙が出来た瞬間、窓枠に残った割れたガラスで縄を切り、眼鏡と帽子を外して自分の顔をさらし、下の軍隊に「最上階に踏み込め」と叫んだ瞬間、オブリー親子とヒースが顔色を青くした。
「も、もしかして、
ま、まさか、ハートリー公爵本人かッ?」
「その通り」
長い髪を結い直し、銃を持ったヒースの前に危険を覚悟で立ちはだかった。
特攻隊が駆け上がってくるまでの間、彼らがやけを起こし王子に何かしたりしないよう何とか捨て身で時間稼ぎするしかない。
「銃を下ろしなさい。
彼らが入ってき時、銃を持っていたら撃ち殺されても文句は言えない立場よ。
彼らは例え人質を取っていても、上司命令では相手を撃つように訓練されているから」
私の言葉にヒースは真っ先に今の自分にとって一番の策は何か、頭を働かせ始めたようだ。
「まずい相手に喧嘩を売ったぞ。
この状況じゃ俺ら殺されても文句が言えねえ」
「サラ、こんなことに加担してあなたはジュリアンとの結婚どころか下手すれば一生監獄ね」
他国の貴人を誘拐して、戦争を引き起こす可能性をおこす事件を巻き起こしただけでなく、更に国際的な犯罪者と手を組んでいるのだ。それなりの重罪となる。
その時、キャアッ、という叫び声に振り向くと、金髪のあどけない表情の王子がいつの間にか目を覚ましていたようで、枷の嵌った両腕でわたしに気を取られていたサラの銃を奪い、彼女をしっかりと捕まえた。
「ええい、長官、俺は抜けた。
非常階段から逃げるぜ」
ヒースが身をひるがえし扉に向かった。
たが一足遅かった。怒涛のように登ってきた特攻隊とジュリアンがドアを蹴破って侵入し、真正面から向き合ったヒースは一瞬のうちにジュリアンによって銃を撃ち落とされた。
「レナ、ハイト、助けに来たぜ」
踏み込んできた特攻隊達によってオブリー父娘とヒース・オービックは逮捕された。
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