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別の作品「見習い薬師の冒険」と同じ世界観です。(時系列はこちらがあとです)


 穏やかな秋の陽ざしが、屋敷の外の銀杏の葉を黄金に輝かせ、シャンパンベージュ色の色彩で統一された日当たりのいいティールームの中に淡い黄金色の空間を作り出す。


 光のどかに輝く暖かな空間に、深緑のドレスがひときわ目立つ。

 ドレスを着ている少女の容姿を現すのなら、絹糸のような真っ直ぐな黒い髪、海を越えた大陸の南方の海のように真っ青な瞳は長く濃い黒いまつげに縁どられ、上品な筋の通った鼻と滑らかな真珠のような肌と血色のいい朱色の唇・・・・・・なんて宮廷の楽師たちなら表現されたこともあるけれど、そんなの、絶対嘘っぱち。

 だって私はこのウィンバー王国の中でも五本の指に入る名門貴族ハートリー公爵家の若き当主レナ・キャロライン・ハートリーなのだから、絶対に、家名と権力に目がくらんで取ってつけた美辞麗句を並べているだけ。

 実際、確かに私の黒髪はまっすぐだけど、こんな黒髪の女の子はハートリーが治めるルーム島にはどこにでもいるし、目の色だって青色はいっぱいいるし、鼻だって良く言えば「貴族的」だけど、私の場合「お高くとまってそう」とか「高慢」な印象を与える鼻筋だし、肌と唇に関しては健康優良児の賜物ですよ、きっと。

 身長は多分、他の十七歳の女性と変わらないか少し低いくらいだけど、横幅は最近甘い物を食べすぎたのと、食欲の秋で、若干輪郭が丸くなって来て困っているかな。

 だけど私が内心秘かに自画自賛しているのは見た目じゃなくて中身。

 この国でも女性が大学を卒業するのも珍しくなくなってきたけれど、普通ならこの国の成人年齢十八才で修了する大学を、ここ数年で有名になった国内の大学で十五歳で卒業した何人かの一人となり、しかも国王陛下の覚えもめでたい優秀な成績だったため、特別に優秀な学生に贈られるメダルを頂いたことが唯一の自慢。

 だからこそ、二年前、両親が馬車の事故で他界した後、ハートリー家の財産を狙う親族から家を守って、周りに有無を言わせず、昨年社交界デビューと同時に国王陛下から父親の爵位を継ぐことが出来た。

 でも、そのお陰で本人の希望とは関係なく当時世間で「少女公爵」とか「お子様公爵」とか陰口に近いあだ名で呼ばれることになったけど。

 この名はきっと成人するか、誰かと婚約を交わすまで呼ばれるんだろうけれど、今恋の話が全くないこの私が結婚なんて想像もつかない。それを考えると若干溜息が出る。

 この国の貴族の婦女子の結婚適齢期は十六から二十三。まさに今の私の年齢なのだ。


「お茶を淹れなおしましょうか?」


 ずっとティールームで控えていたメイドの一人の声で物思いから現実に戻った。

 彫細工が施されている花梨素材の円卓の上には、白磁のカップの中に差し出されてからかなり時間が経ったお茶が冷めていた。


「このままでいいわ。せっかくの新婚旅行のお土産に、こんなに珍しい物を頂いたんですもの。飲むわ」


 そう、このお茶は、先ほどまでここにいた数少ない友人のハネムーンのお土産のお茶。お茶は早速封を解いて頂いたけれどお菓子はそのまま、まだテーブルの上で包装も解いていない。

 テーブルの上の銀の包み紙にレースのリボンで可愛く結わえられた菓子箱の中身はおそらく隣の大陸の高級なチョコレート。

 この大きさだと箱がいくつかありそうだ。


「お二人とも幸せそうでしたねぇ」


 来客のティーカップをさげに来た、メイドのマギーは私とは正反対の心持で夢見心地のうっとりとした表情。彼女達は私と年は同じで勿論未婚女性。同じく夢のような結婚に憧れを抱いている。


「次はレナ様ですよ。頑張ってください」


「マギー、結構難しい課題を言うね。学問なら簡単だけど、人が相手の恋愛は難しいよ。

 第一、私の評判知ってるでしょう」


「何を仰いますか! レナ様はこの国で国王陛下の覚えもめでたい方ですよ。

 噂に負けてはだめです」


 恋の話題が事欠かない社交界で、私は、とある事情で「縁遠い娘」と評判だ。

 幸せのおすそ分けと貰った土産に複雑な心境で溜息をつきながらメイドの目の前で包装紙を丁寧に解いていく。


「きっと、先ほどいらっしゃったご友人もレナ様にも幸せを味わって頂きたいんですよ」


 私のどこか複雑な心中などお構いなしで、マギーに力説されてまたもや深い溜息が出る。


「恋愛に関しては従兄、あいつのせいでこの一年出会いは潰されているのよ」


「そんな大きな溜息つかないでください。

 大丈夫です!」


 ――現状を知らないから言えるのよ。 


 これ以上マギーの力説が聞きたくなくて、目の前の土産の大きな箱を渡す。


「チョコレートみたいね。あげるから皆で早く分けなさいな」


 マギーは主人に同じ年頃の少女の恋について語ろうという意志は、ベルガエ王国のマークが入ったチョコレートによってかき消された。

 今あのチョコレート口にしたら、きっとコルセットがさらにきつくなるのよね。

 そんな私の悩みなど気が付かず「ありがとうございます」と特上の笑顔で受け取り、片した来客分のカップと共に部屋から出て行ったマギーにまたも溜息がこぼれた。


「恋人が簡単に出来たら私も苦労しないわ」


読んでくださってありがとうございます。

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