君と見る景色
春の心地よい風が吹く日、ボク達は綺麗な川の土手を歩いていた。
「サラ、今日もいい天気だね」と隣にいる少女に笑いかけると、彼女はただコクリと頷く。
光が彼女の黒髪に反射して、キラキラと輝いている。
そんな美しい姿を目に収めた後、何事もない様に歩いていく。
ふと彼女を見ると、そこには彼女の黒い長髪、か弱い四枝、
彼女の静かな足取りに合わせて揺れる白いワンピースがある。
そんな彼女がとてつもなく愛らしくて、ボクは思わず彼女に見とれてしまう。
ずっと見ていると、彼女がこちらに気づき視線が合う。
どちらからともなく笑みが溢れ、温かい空気が広がる。
そんなとるに足らない瞬間でさえ、彼女と一緒だと「特別」に変わる。
そのまま歩き続けると、右の方にタンポポやオオイヌノフグリ等、
ありきたりな雑草が生い茂っている小さな野原を見つけた。
光で輝いているその場所はあまりにも素敵で一休みするには最適だ。
ボクは彼女に問いかける。「ここで一休みしない?」
すると、彼女の目がパァっと輝きそこからは歓迎の意が読み取れる。
彼女の賛同が得られたことだし、ボクはそこまで歩いていき花を踏まないよう気を付けながら、静かに腰掛ける。
でも、彼女は座らず、ただボクから少し離れた所で佇んでいる。
ただ立っているだけなのに、彼女がやると何故か絵になる。
本当に素敵だ・・・
ボクは草原で微睡み、彼女は何処とも言えない方向をぼんやりと見つめ、立っている。
そんな穏やかな風景、いつまでも続くと良いなぁ…
・・と言うのは、ほとんど妄想で「サラ」は現実世界にはいない。
ボクは、無職で「サラ」を俺の嫁とか言って溺愛している一人のキモオタだ。
彼女はアニメの1キャラで、ボクは彼女のフィギィアと会話していたのだ。
因みにボクは実際に声を出して会話しているので、傍から見れば独り言をぶつぶつ言っている不審者だ。
最初から分かっていたさ、これは非常に虚しい事だって。
あぁ、分かっているよ。
さっきから周りの人が、基地外を見る目でボクを見ているコトくらい・・・
それでも、ボクが働いていないという寂しくて暗い現実を少しでも紛らわすために、
大好きな「サラ」とこうして散歩しているのだ。
でも、そろそろボクの心は限界みたいだ。
二次元と三次元の壁は思ったより、とっても厚かった。
あぁ、そろそろ現実見なきゃなぁ・・・
どこかで、良いバイト募集をしてないかなぁ・・・




