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神様に捧ぐ  作者: 古代いせき
第一章 白き者
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第8話 : 予感


「さて、どうしたもんか」


くるりと裾を翻し、少年が床にしゃがみこんだままの俺とへっぽこへと振り返る。

小学生5年生くらいか?よくわかんねーけど。

俺よりもずっとちっさい少年が俺たちを見下ろしている。もっさりとした子供らしい自然な黒髪が振り向いた拍子にサラリと揺れた。


背筋を、脊髄を、皮膚を、肉を、幾多の虫が這うようおぞましさ。

激甚なる危惧が背中を撫でる。ほら、まただ。悪寒、恐怖、懸念、畏怖。

正体がわからない感情が今度は少年の瞳ではなく、俺の奥底を駆け廻り生まれ弾けて消えた。


目の前の黒い瞳に捕えられる。

光が、ない。

少年の瞳は、まるで幼さが削ぎ落ちた深すぎる淀みを纏っていた。

むちゃくちゃ気持ち悪いのに、意味わかんねぇ。どうしてか目が、離せない。


「説明を願いたい」


隣で落ちた声に、はっと意識を戻す。へっぽこの目は色素が薄いのか、ライトのせいか、少年よりもずっと茶色く明るい色に見えた。


「説明、ねぇ。いいぜ、おまえらなにが知りたい?」

「……、それではま」

「まず、てめぇは誰だ」


少年が面白そうに口を引き上げる。へっぽこが、余計なことすんな!このおたんこなす!と言いたげに顔をゆがませている。知ったことか!お前だってぜってー気になってんだろ!?


「俺はつい数刻前に忠告したぞ。知ったら最後、戻れなくなる。爆弾みたいな事柄がここには無造作に転がってんだ、いいのか?」

「いいも糞もへったくれもあるか!知ったことかよ。てめぇだけ状況把握しやがって胸糞悪い。こちとら訳も分からず追いかけ回された挙句、知らねーやろうから一方的に指示されて、んなところまで走らされて、いい加減腹立ててんだよ!ゼロから百万百兆までぜんぶ説明しやがれこの口悪がきんちょ野郎!!」


静寂が広がる。しーん。


「くっ」


少年が顔を崩し、吹き出す様に笑う。


「っあはははは、これまた活きのいいぼうずが来たもんだなぁ」


後ろからコツコツと重い足音と共に豪快な笑い声が近づいてくる。

がしっと頭を掴まれて、わしゃわしゃと髪をかき乱された。

はぁ?……はぁああ!!?


「てめぇも誰だよ!!?」


どっから湧いてきやがった。頭上の手を叩き落とす。

振り返れば降参だというように両手を上げるひとりの男が立っていた。

背丈は俺と同じくらいだろうか、体格のいい年配の男は、学ランのような黒い制服に身を包んでいた。警察の制服、というよりも、むしろ先ほどまで目にしていた軍人と似た格好。機能性に加えて所属を表すことに特化したような服。

何らかの威信が秘められているものに、それは見えた。ただし殺気をあふれさせた先ほどの男たちとは違い、笑うと目じりには皺ができる表情豊かな様子は、その辺の気のいいおっちゃんにしか見えない。

俺に叩かれた手を楽しげにホールドアップしていた男は、息を漏らして笑うと、床にしゃがむ俺に目線を合わせるように膝を床につく。一度目を閉じて再び開いたその男は、穏やかでありながらも鋼のような精錬さをこちらに突き付けていた。


「俺は“かの者の傍にあるもの”佐伯 添司(さえき そうじ)”。所属に関して言えば、警視庁公安部匿秘課にて命を承けている」


俺は顔をしかめ、へっぽこは微かに息をのむ。

前半は俺に対して、後半はへっぽこに対して、佐伯という男は明瞭に述べた。

俺たちの様子を、黒い瞳が人懐こそうに見つめている。

少年とは対照的に、年齢の割に潤いをもつ若々しい瞳だった。


佐伯の視線が流れるように少年へと向く。つられて目線が動き、三者の目が少年に集まる。

先ほどの衝撃はなんだったのかと思うほどに、少年はやけに人情味あふれる様子で肩を竦めた。

黒い瞳は多少隈を作っているように見えるが、別に寒気を感じるほど異質なものじゃない。

なにたじろいてたんだか。さぱりわかんねぇ。少年は鼻の頭をぽりぽりと掻く。


「そーだなぁ、簡単に言えば俺はこの中で一番偉い。おら、敬えお前ら。苦しゅうないぞ」

「「………」」


よっ、日本一!なんてノリノリで合いの手を入れる佐伯。俺とへっぽこの気持ちは一緒だったに違いない。


今日は本当にサイアクな一日になりそうだ、と。


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