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神様に捧ぐ  作者: 古代いせき
第一章 白き者
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第19話 : 嘆願

腕の中に舞い降りてきた亡骸は、覆い隠すこともなく愚直なまでに死それだけを伝えてきた。


「あぁああああああああああぁあ」

「き……っ!!まさかっ!!おい、木戸!!!!」


あぁ、死んだ。

死んじまったんだ。


ばあちゃんの影はいつの間にか胸の中から消えていた。

じゃあ夢だったんじゃないのかって?俺の沈んだ思考が幻覚を見せたんじゃないのかって。

そうだったならどれほど良かっただろう。けど、ちげーんだよ。違げーんだ。

死んじまったんだよ。


口から捲き出る絶叫がどこか他人事のようだった。

だって頭の中はこんなに静かではっきりしてんのに。

俺、なんでこんなに叫んでんだろう。

いくら叫んだところで逝ったやつは還らない。そんなこと今どき、小学生だって知っている。

無意味で、無様で、なんて無価値。なのに声は止まらなかった。


喉が痛い。

頭がキンキンする。

鼻はつんとして息も吸えなくて、肺が酸素を求めて胸が跳ねる。

あぁ、胸の奥がひんやりとして、でもこんなにも熱くて。


どこもかしこも、痛くて、痛くて、痛くて、止まらねぇんだ。


遠くで流三郎が、空気が軋むほど声を張り上げなんか言っている。

珍しく焦っているのか、怒鳴り声にも近い声も、生憎いまの俺には虫の声ほどにしか聞こえない。


胸を押さえてしゃがみ込んだ足先から、風が吹き出し俺の周りを包んでいた。

俺の周りを円形に吹き荒れる風は、いつしか周りの炎を巻き込んで、太い火柱となって天窓を突き、登る。


「ああああああっ、あ、ああ、あ、……かはっ」


胸の痛みに息を吐くことさえ許されず、あまりの苦しさに縋るよう俺を取り囲む火柱の壁へと手を伸ばす。

火の粉を飛ばし熱さから周りの景色を蜃気楼のように歪ませる炎であるにもかかわらず、触れた手は熱さを感じられなかった。


――……綺麗だ。


火って本当は、こんなんなのか。


引きちぎれそうな思考の中で思う。

信じられないかもしれないが、触れた炎は意外にも滑らかな肌触りが感じられて、艶やかな無数の糸が指の隙間を滑る感覚。もっと言えば、家の台所に掛けられた古っ臭い糸の暖簾に指を指し込んだみてーだった。

指も手も腕も温度は感じない。ただただ胸がポカポカして一杯で。零れ落ちて、しまいそう。


ぴんっ、ぴきり。ぱちっ、ぴきり。

関節が鳴る音とはまた違う、聞いたことのない捻撥音が胸から走る。

心臓に張り巡らされた血管が細い針で剥がされ伸ばされ弾けて切れる、そんな音。

音と共に痛みが凄まじいほど跳ね上がり、目は飛び出ちまいそうなほど開き切り、乾燥が目の縁を犯す。

炎に浸かる指先は痙攣し、硬直し、ピンと伸びて反ったまま小刻みに震えていた。


肋骨が捻じれ、胸筋は抉られ、肉がぐちゃぐちゃに掻き回されて、今にも内臓が飛び出してしまいそう。

薄っぺらい戯言じゃなく、リアル物理的に。


昨日よりも、ずっと長く深い激痛だった。

終わらない痛み、終わらない激痛、終わらない意識。昨日の波がある痛みに反して、休ませる気がない激痛。

いっそ気を失わせてくれりゃあ楽なのに何て残酷。なんて酔狂。痛てぇ痛てぇ苦しい痛い痛い痛い!!




あぁ、あぁ!!

なぁ、おい、頼むから。


――……助けて、神様。






いるかどうかも分からない、名前も知らない神様へ。

祈るのはいつだって、自分のためだった。


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