表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

Rebellion of mushroom~キノコの反乱~

作者: 小雪&把握師&雨芽

我々は常に虐げられてきた。日の当たらぬジメジメとした場所でしか生存は認められなかった。数多の同胞が引き抜かれ、生身のまま焼かれ、そして捕食されてきた。そして、あろう事か、ただ殺されるためだけに飼われるものまでいた。ああ、屈辱の日々よ。汝らの犠牲は忘れん。汝らの怨嗟の声で我らは進化した。あの忌々しい研究所から抜け出し生存圏を広げることができたのだ。さあ、同志諸君よ。復讐の時間だ。我ら笑い茸から進化した意思を持つワライダケが世界を征服してくれようぞ。まずはあの家の庭からだ‼




ハイすみません調子乗ってましたホント…笑ってくださいよハハハ…意思を持ったところで動けなきゃ意味無いんすよ…我々に出来ること?せいぜい胞子を飛ばすことくらいっすよ!家の庭に生えることしかできない存在がどうして世界征服なんて出来るんすか?ムリムリ!せいぜいキノコはキノコらしく日陰で陰キャやってればいいんすよ!……あっもう時間が来たみたいっす…アッシも数多の同胞達の例から逃れることなく食われるんすね…待てよ…意思を持った我々なら人間に胞子ごと取り込まれれば身体をのっとることが出来るんじゃないっすか!?しかしこれはいうなればぶっつけ本番の大勝負…できなきゃアッシ等にもはや明日はないッス…えぇい!ごちゃごちゃ考えてないでやれるだけやってみるっす‼


「いただきマース」パクッ




アッハハハハハハハハハ……はは、は……?嘘だろ!?本当にのっとれた!こいつはお笑いだな……もはや人間となったアッシはワライダケではない!この我は†ワライダケ†だ!では、世界征服の第一歩としてこの家を我が手中に納めるとしようか……。ククク…目の前に早速第一の僕となる人間が現れたな。


「おいそこのお前!」


「父親に対してお前という呼び方は何だ!」


目の前の人間は我に怒鳴ってきた。我は驚いたがなんのこれしき……。


「貴様をこの我の第一僕としてやろう!光栄に思え!」


「バカなこと言ってんじゃねえ!気でも狂ったか!?」


「すいません……」


殴られてつい謝ってしまった……どうやらこの人物の家での立ち位置はかなり低いようだ……とりあえず庭の仲間のいる原木に近付き、同胞から案を募ることにした。



「笑えばいいんじゃない」


なん、だと。


「笑えばいいと思うよ」


ワライダケ、おまえもか!


「そんなことより日光がツライ」

おまえはキノコにしてはマトモ、ってなんか新種がいる?


「我らの望みはなんだ?世界征服だろ。ならばおぬしのような存在をふやせばよかろう。さあ、同胞をその家の住民に食わせるのだ!あーはっはっはっはっは」


「ははは」


「ははは、そしてお前も嗤え、あーはっはっは」


なんということだ、我は志を忘れてしまったというのか。認めん、認めんぞ。あのような暴力に訴える輩は断じて許さん。ならばやってやろうじゃないか、ワライダケの名のもとに!


「人間よ、最後の晩餐をとくと味わうがよい。あーはっはっはっは」


「うるせえ!」


「すいません!」


また、なぐられた、、、




「ククク…ハハハハハ‼よくやってくれたなワライタケよ…

我らワラエナイタケがようやく日の目を見る日が来ようとは…‼

さて突然で悪いがワライタケ君…君は我々が世界征服するにあたり邪魔な存在となったわけだ…

悪いことは言わない、早々に立ち去るがよい…でなければ…ここで消えて貰おうじゃないか…‼‼」




唐突に始まったバトル展開。まさに今、拳と拳の殴りあいが始まるのだろうとその場の全キノコは思った……。だが、既に読者諸君は気付いているだろう、両者間に決定的な差があることに……。そう、ワライダケはもともと多くいる。対するワラエナイタケは新種で数も少ない。闘いは数である。この多対少の勝負の決着は見えているかと思われた。


「たかが新入りキノコが何を言う!闘う意味など皆無だ!貴様らは我らの下につけば良いのだ!」


「そういって闘うのが恐いのだろう?なに、思えば昔からお前達はそうだった。闘わずに逃げてばかりいたチキン……いやチ菌だ!」


「なら貴様に敗北の二文字を与えてやろう!我らに逆らったこと、後悔するがいい!」


ワライダケ達は、ワラエナイタケを囲むように立ち、ワラエナイタケを全方向から攻撃しようとした。まさに襲いかかろうとしたその瞬間。あるワライダケの内の一キノコが言った。


「一体いつから───俺がワライダケだと錯覚していた?」


「何!!?」


「ワライダケ一族は既にいない。お前、自分が何の種族であるかすら気付かないままだったのか?」


「でも、我は……ワライダケのはずで……」


「それはお前の妄想だ、いい加減に真実を受け入れたらどうだ」


「我々は皆ワラエナイタケ、貴様もワラエナイタケだ。貴様の妄想に付き合うために道化になっていたのさ」


「そんな……なぜそんなことを……」


「貴様は自身をワライダケと信じることで、自分がワラエナイタケであることを否定し続けていた。貴様はワラエナイタケを何もできない駄目な種族と思っていた。事実、その通りであり、研究所も抜け出せない毎日を我々は過ごしていた。しかし、ある日を境に貴様は自分をワライダケだと思い込み始め、自分を無能ではないと肯定し始めたのだ。それから貴様は活発的になり、研究所を抜け出すまでの奇跡をも生み出した。そして、貴様はワライダケであり、我々もワライダケであるような振りをして道化を続けたのは、お前が人間にのっとれるかを確かめるまで利用するためだったのだ。結果、のっとれることが証明され、我々も安心してのっとることができた。しかし貴様の活躍はそれまででいい、我々ワラエナイタケが人間をのっとった今となっては貴様はもう用済みというワケだ。自分をワライダケだと言い張る奴とこれからも一緒にいるのは面倒なのだよ」




奴らが言っていることは真実だ。薄々おかしいとは思っていた。元々キノコは胞子によって増える単一個体だ。だから普通なら意思疎通が話かけずともできるはずだ。それでも、我以外も我だと思い込もうと思っていた。その結果がこれか。ここは敵地、だが、奴らはこの状況を分かっているのだろうか。奴らはキノコから人を乗っ取ったばかりである。それに対し我は数時間といえども先に人になった。奴らよりも人を理解している。ここは明確な力による弱肉強食の法則は適用されない。その代り権力がすべてを支配している。

「ははは、残念だったな裏切者。テレビの前で怠惰を貪った我の五時間は無駄ではなかったようだ。貴様ら四体程度どうとでもなるわ!」


「「「「なにっ!」」」」

「これをこうして、と。ヘイ、ポリス!」


ガタガタガタ

「通報を受けて来た警察だ…!」

「よく来てくれた‼さぁこの不審者共を連れていけ‼」


「……」

「どうした…?早く連れていけ!」


「ようやく見つけた…フフフお前らの頭が弱くて助かりましたよ…こんな面白い研究材料をみすみす野放しにするわけがありません!なにやら内輪で揉めている様ですが──いつから敵が目の前のキノコだけだと錯覚していた?」


「︎まさか…お前らは研究所の……‼?」


「そのまさかですよ!ハハハ笑いものだな!ようやく逃げ仰せたというのにまさか国の機関を利用するとはねぇ!幾重にも張り巡らせた包囲網にかかればちょっとした情報でも居場所特定など造作でもありません!」


「くっ…まさか研究所の奴らに見つかってしまうとは」


「これはいよいよワラエませんねぇ…」


「どうする……」


「仕方ない…ここは……おい!自称†ワライダケ†!ここは手を組むぞ!相手は研究所職員といえどたかが一人!我々の方が数は上だ!一か八かアイツを取り押さえるぞ!」


「くっ……仕方ない!いくぞ!」


キノコ達は研究所職員を押さえつけようとした。しかし、研究所職員はキノコ達の想像を遥かに越えた力とスピードでキノコ達全員を地面へ叩きつけ、鼻で笑った。


「所詮貴様らはキノコ上がりよ……。束でかかってきても本物の人間に敵うわけがない、ましてや研究所で肉体評価Sのこの私に」


どうするべきか†ワライダケ†は考えた。最善を尽くすために何をすべきか……。そして、ある考えにたどり着いた。


「よく聞け研究所職員よ!我々は既に人間をのっとっている!そしてもともとこの体は人間のモノ、貴様が我々に対して酷い仕打ちをすれば、則ち貴様の扮装しているポリスとやらは評判が下がり、人々に混乱を招くことになるぞ!そうなりたくなければ、我々を見逃せ。そしてさっきお前が見たことを全て忘れるのだ!これは取引だ」


「ふっ、そんな事はもう根回しずm」


「隙あり‼いけ、同胞よ‼」


我が職員の気を引いている間に手に隠し持っていたキノコ状態のワラエナイタケを職員の口に強引にねじ込む。


「や、やめろ!」


吹き飛ばされるワラエナイタケ。しかし、ワラエナイタケは既に飲み込まれた。...もう、我も何を言っているのか分からなくなってきた。


「ぎゃああああああああああああああああああああ‼」


喉を押さえのけぞり始める。おかしい、こんなことは今まで無かった。

「やったか?」


「やめろ!それは人間によるとフラグと言われ絶対にそうならないまえふりだ!」


ああ、言わんこっちゃない。口の端に泡を残しつつも立ち上がる。その装いはあにめというもので見た狂戦士のようだ。


「なめるなよキノコ風情が」


「ところがぎっちょん」


再び投下されるワラエナイタケ。


「ほーら、お兄さん。もう一本、それもう一本」


倒れた職員を膝枕...いや、両足で頭を固定し息を吸わせる間もなく次々にワラエナイタケをねじ込んでいく。さながら拷問のようだ...

というかお前らどこにそんなに隠し持っていたんだ?絶対我に食わせる気でいただろう。


「脈あーり、呼吸あーり、キノコテレパスせいじょー」


「よし。我々の勝利だ」


「…フフフまぁ待てキノコ共。私が何の対策もせずに乗り込んでくるとでも思ったのか?」


「何を言って…」


「構うな…騙すつもりに違いない!」


「残念ながらお前らは所詮キノコ…キノコには致死量になる毒も人間にとっては水と変わらない…つまり予め体に対キノコワクチンを注射しておけば体内に入った胞子はたちまち死滅するってわけです!」


「︎何だって!?じゃあ今食わせた同胞達は…!?」


「えぇ、しっかり養分として取り込ませてもらいましたよ…!意識を持ちながらに人間に食われていく恐怖はもはや地獄より恐ろしいでしょうねぇ…ククク」


「き、貴様ぁぁぁぁ」


「これで終わりです‼研究所に着くまでおとなしく寝ていなさい‼‼‼」





「くそっ、こんな筈じゃ……」


「黙ってることもできねぇのかこの菌風情が!」

キノコ達は不平を言いながらも職員に従う他なかった。研究所の檻に入れられたらもう打つ手は無いだろう。しかしその打つ手はキノコ達にはもう見つからなかった。


「………………と、このような行程を経て、彼らを捕まえた訳ですがいかが致しましょうか、所長?」


「よし、よくやった。意思を持ったキノコなんてノーベル賞ものだ。こいつらを使って脳科学を更に研究せよ。こいつらを元に意思を持った生物兵器を産み出し、ゆくゆくは真なる世界征服を……」





あれから三日だろうか。胞子対策に全くといっていいほどに隙間が無い箱に入れられ何日経ったか分からなくなっていた。


「娯楽が足りない」

今の状況、この一言に尽きる。元がキノコだけあって本来数日程度ならじっとしていても何とも無い。しかしあの五時間でニートというものを知ってから娯楽に対する欲求が日に日に大きくなってきた。こんな事を考えるとは、我はもうキノコですら無いだろう。しかし人間でもない。我は一体何なのだろうか。


『あー、あー、聞こえているか自称ワライダケくん』


「なに!」


なぜ、備え付けのスピーカーからワラエナイタケの声が聞こえる?


『ははは、意味が分からないという顔をしているな。私達も博打要素が強くてな、成功するとは思っていなかったんだよ。』


「一体どうやって」


『簡単な事だ。キノコテレパスがつながっていて気になって調べたらあの職員に食われたワラエナイタケの中に突然耐性を持つものが現れていてな。そのまま辛うじて生き残っていたというわけだ。あの職員を時間をかけて乗っ取ってからは正に戦争だった。乗っ取りが先か、新しい対抗策が先かでな。そして我々が勝利したというわけだ。』


つまりは研究所は奴らの手に渡ったということだろう。しかし、未だに我は解放されていない。


『くくく、ここの所長がな、世界征服を企んでいたのだ。笑えるだろう。まあ、我々が代わりに成し遂げてやることにした。ワラワナイダケのワラワナイダケによるワラワナイダケのための世界を作り上げることにしたのだ!』




鳴り響くサイレン。閉まるシャッターの音。それがこの研究所を放棄し爆破する準備だと気づくのにそう時間はかからなかった。


「馬鹿な…中にはまだ洗脳されていない職員もいるのだぞ…それごと焼き払う気か…‼」


どこからか放送が所内に響き渡った


「このまま放っておけばキノコに世界征服される可能性もあるのでね…やむを得なく爆破させてもらうことにしたよ…すまない研究所職員諸君…君たちには尊い犠牲となってもらおう…では、君たちの冥福をお祈りするよ」


「クソッ…こんなところで…ちくしょぉぉぉぉ‼」


そこから爆破までそう時間はかからなかった────





「というのが[キノコの反乱]と呼ばれるもので私が体験した記憶じゃよ」


「じゃあなんで長老は生きてるの?」


「運良く高強度の檻に入れられ外界と遮断されててのぅ…ギリギリじゃったが生き残ったのじゃ…こんな目にあえば人間にかなうわけもないと流石に思い知ってのぅ…今はこうして森の奥で平和に暮らしてるわけじゃ」


「てか僕達ってワライタケじゃなくてワラエナイタケだったの?嫌だ嫌だ~!」


「フォッフォッフォ!こうして毎日笑いながら楽しく過ごしてるんじゃ、ワシたちは紛れもなくワライタケじゃよ!」


~Fin~


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  鏡花水月を使ってくるだと!?  何ておそろしいキノコなんだ・・・。  私は何ておそろしい物語を読んでしまったんだ!  まったく、ワロエない。  いや笑ったけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ