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96 奴隷都市レガリオス③

 翌朝皆で食事を摂ると早速段取りを決める。


「コモン達が売られるのは明日です。週に一回売りに出されるんです」


 その話の中でプルアさんが教えてくれたので、まずはメアが欲しがっていた家を買う事にした。

 結局俺とメア、イスティリとトウワは競売所に出向く事にし、ウシュフゴールとグンガル、それにプルアは留守番となった。


「ウシュフゴール。もし何かあったら無理せず逃げるんだぞ?」

「ええ。ですが戦士に魔術師、それに私ですから大抵の事は大丈夫かと思います。それより……」

「それより?」

「お土産を期待しております」

「分かった。期待しててくれよ」

「はいっ」


 俺はウシュフゴールに幾らか現金を持たせておいた。


 街の中心部に巨大な塔が建っており、そこから放射状に複数の青空市場ならぬ青空競売所があり、絵画や貴金属・動物・奴隷・嗜好品や香辛料……といった分類分けで幾つもの競りが行われている様子だ。

 更には高価な商品を一手に引き受ける上級競売所が、少し離れた所にある豪奢な建物の内部にあるらしく、そこでは技能を持つ高級奴隷や魔法の物品が取引されているらしかった。


 俺たちはまず塔の下にある受付に出向き、金貨五枚と引き換えに競売に参加できる資格を得て、割り印付きの木札を受け取った。

 この木札と引き換えに金貨は返却して貰えるそうだが、複数日に渡って競売に参加する場合はそのまま持ち帰っても良いらしい。

 

「さあ次の商品はレガリオス近郊の別荘だ! 上物は築二年。シガ材で作られた木造だが作りはしっかりしている。何たって技巧印を持つドワーフ建築家マトの作品さ。さあ興味のある方は寄っといで、青図面も見れるし、立地に関しての詳細も羊皮紙に網羅してある!」

「セイ、あそこが建物の競売をしているようですよ?」

「みたいだね。よし、行ってみよう」


 イスティリはいつの間にか串に刺したイカ焼きを沢山購入しておりモグモグ食べていた。

 トウワは調理済みの魚介類でも大丈夫なのか、イスティリからイカ焼きを貰っていて、無くなるとしきりにイスティリの袖を引っ張っていた。


 建物の競売を覗きに行くと、受付の人が規約を書いたパンフレットのような物をくれた。

 俺は分からないので代わりにメアに読んでもらった。


「要約すると即金のみ。落札後に値段交渉不可。落札後に痂疲が無いのに代金を支払わない場合は裁判となる。レガリオスの市民権を持たない外国人のみ土地は五十年の借地契約となる。の四点でしょうか」

「なるほど。まあ欲しいのは上物だけだしね」

「ふふ。土地は良い所にありますからね」


 セラが少し大きな音でカコン、と鳴った。

 

 メアは先程呼び込みが大声を張り上げていた別荘を気に入った様で、早速入札していた。


「んー、八百!!」

「千!!」

「千二百」


 等と大声を上げて頑張っていたが、結局豪商といった体の恰幅の良いドワーフにその別荘は落札されてしまった。


「もっと競っても良かったんじゃ?」

「いいえ、あれ以上は出せません。出したくありませんでした。お金は有限ですから」


 そう言っている内に次の競売が始まり、メアは詳細を見に行ってしまった。


「メアは真面目だなぁ」


 振り向くとイスティリが今度はリンゴに似た果物に噛り付いていた。

 そうこうしている内にメアは近郊の家を落札し、ホクホク顔で戻って来た。


「セイ、小さいけれど良い物件を手に入れました!!」


 そう言って俺の元に駆け寄って来て頭を差し出した。

 俺はメアの髪をくしゃくしゃにすると盛大に褒めた。


「ふふっ。セイに褒められちゃった!!」

「良いなー。ボクも何か落札してセイ様に撫でて貰おっ」


 ちょっと趣旨が違うんじゃないか、イスティリ?

 そう思ったが、誰かが俺の肩を叩いた。


「旦那様。契約書をお持ち致しました。どうぞ、そちらのテーブルにお掛けください」

「あ、ああ」


 競売所の従業員が案内してくれた先で、俺はメアに誘導されるがままにサインし、支払いを済ませた。


「ええっと……クズーセイチロー様はレガリオス市民ではございませんで土地のみ五十年契約となります。その点だけ再度確認させていただきます」

「ええ、構いません。早速昼過ぎにでもその家に案内していただきたいのですが?」

「勿論です。人を手配しましょう」


 俺はまた後で来ます、とだけ伝えてその場所を後にした。


 当初の目的は達成できたので、軽く昼食にしようと思い、競売所をウロウロした。

 競売所は露天や屋台も多く、軽食なら手軽に食べることが出来たので良かったが、旨そうな麺類に似た料理を頼んで啜っていると、メアはどこかからパンに具材を挟んだのを買って来て横で食べ始めた。


「セイッ。何てお行儀の悪い! ミーは音を出さずに食べるんですよ!」

「えっ。ゴメンゴメン。地球じゃ麺類は旨そうに啜るのが礼儀だったんだよ」

「そんな分かりやすい嘘を付いて!!」


 うーん……。

 俺は尻に敷かれた旦那のようにモソモソと麺を口に運ぶ。

 ミーとかいう麺の屋台商は俺をクスクスと笑っていたが、少し同情しても居るようだった。


 イスティリは串に刺した肉の塊を頬張り、口の周りをタレでベタベタにしていた。

 トウワはさっきのイカ焼きが気に入ったのか、またイスティリに買って貰っていた。


 食事が終わった頃、屋台の裏手にあったらしい奴隷競売所からどよめきが上がった。


「さあさあ、目玉商品をチラっと見せるよ!! 祝福≪完璧記憶≫持ちのフォーキアンの少女。明日の大競売の目玉!! 是非とも明日はリリオス様主催の大競売にお越しください!!」


【解。フォーキアンは狐の耳と尾を持つ獣人種族。元々魔族であるが勇者側に寝返り、ヒューマンと混血してゆく中で種として固定していった。主要十二部族では無い】


 いやいや、そこじゃないだろ?

 俺はウィタスで自分以外に祝福を持つ人物に出会った事が無かったので盛大に慌てた。


「おい! ウィタスにも俺同様に祝福を持つ者が居る理由を教えてくれ!」

【解。ウィタスには、主の物を除いて九つの祝福が存在し、人や動物、あるいは魔族などが所持していると推測されている。これは二神が保持していた物の約半数に相当するが、恐らくは二神が死亡した際に流出した祝福が、紆余曲折を得て生物へと定着していったものと思われる】


 な、なるほど。

 そんな経緯でこの世界に祝福が伝播していったのか?

 俺は興味を持ったので奴隷競売所を覗きに行った。


 そこには木製の雛段があり、その上でスクワイが六、七歳の少女を触手を使って器用に持ち上げていた。

 その少女が≪完璧記憶≫を持つフォーキアンであるらしく、スクワイの触手の上でプルプルと震えながらも両手をビシィっと天に向けてカッコを付けていた。


「あたしの名前はアーリエス! アーリエス=フォーキリ=スエア=エマ四世!! 祝福を得て四度の転生で記憶を保持する美少女にして天才軍師!! 明日より開催される大競売の目玉商品よっ!」

「ワタシはアーリエス様の従僕、スクワイのヒリスシンと申します」

「シンはあたしを購入した時に『オマケ』として付随するわっ」

「左様でございます。こう見えてもワタシは双剣を使わせれば天下無双の剣豪。オマケというには大変惜しい人材でございます」

「あたしはこんなナリだけど、記憶を保持している年数を合算すれば百七十年よっ。酸いも甘いも経験したし魔王にも勇者にも二度ずつ遭遇しているわっ。あたしを買ったら絶対に役に立って見せるわよっ」


 そんな人物が奴隷にまで落ちているには訳があるのだろうけど、明日の競売での開始値を聞いて愕然とした。

 俺の有り金を全部引っ張り出しても、開始値に足りるかどうか怪しかったのだ。

 

 惜しいが、諦めよう。

 そう思った矢先、そのフォーキアンが耳を疑う様な言葉を使った。


「この世界は『出来レース』よっ。その真理に到達したあたしの力を、意のままに使える御仁がこの中にいるのかしらっ?」


 出来レース?

 明らかにウィタスにそぐわない地球の、それも日本でしか通用しないような単語が出て来て俺は驚いた。

 慌ててギャラリーをかき分けて彼女の前まで躍り出た。


「ちょっと待ってくれ。君は今、『出来レース』って言ったよな?」

「さあ? この言葉が分かる偉い人があたしを買ってくれるのを待ってるわっ!!」


 フォーキアンの少女は満足したのかスクワイの触手からヒラリと飛び降りる。

 彼女は俺を一瞥すると、近くにあった天幕に引っ込んでしまった。

 後を追うようにスクワイも消えていった。


「おう、兄ちゃん。今の『デキレース』ってなんだ? 何語だ?」

「に、日本語だ……」

「ニホンゴゥ? わかんねぇなあ……」


 俺は愕然としながら誰かの問い掛けに応えていた。 


「セイ? どうしたのですか?」

「い、いや。ちょっとね」


 メアは小首を傾げたが、それ以上は何も言わなかった。


「おい! 今のは何だ!?」

【解……。解答不能……解答不能……解答不能……。何故に……?】


 その後、疑似人格は長い間沈黙してしまった。

 それが何を意味するのか?


「……メア、明日あの子を買いたい」

「セイ、あの開始値を聞いたでしょう? わたくし達の全財産を投入しても競り落とせるとは思いませんよ?」

「それでも、俺はあの子に聞かなくっちゃならないんだ」

「……どうしてそこまで?」

「あの子は俺の元の世界の単語を使った。その意味を知りたい」


 『出来レース』という言葉を知る祝福持ちのフォーキアン、アーリエス。

 俺はリリオスの魔剣を売り、金を工面できないかすら考え始めた。 

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