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73 旅立ち 上

 俺は熊人間、ロダリエ=エコドにお茶を出して椅子の代わりにベッドに座って貰った。

 彼は当初立ったままで居ようとしたが、俺の「疲れただろう?」の一言で彼はゆっくりと座るとため息をついた。


「ありがとうございます。私はロオスの領主カルガより伝言をお持ち致しました。是非ともお聞き頂けましたら」


 彼はそう言うと俺たちに頭を下げ、お茶を啜った。

 

 そこにトウワが戻って来て俺の肩に手を置いた。


(よう! ダンジョンはどうだった? 俺は最近美味いもんばっか食べさせて貰って太ったぜ)

「やあ、ダンジョン攻略は大成功だったよ。また美味いもん食べような」


 彼は触手を振り回しながら喜んだ。


 イスティリとメアは仲良く同じベッドに腰かけて、ゴスゴの持ってきたお茶を飲みながらお互いの髪を梳いてのんびりしていた。


「イスティリは本当に強いのですね。あの巨漢が赤子の様でした」

「エヘヘッ。ボクはセイ様の『盾』だからねっ! ボクが守るんだ」


 何とも心強い限りだ。


「じゃあ、話を聞こうか?」

「はい!」


 俺はロダリエに話を振ると、彼が仕える領主の話を聞いた。

 何でもロオス近郊の村にラビリンスが発生し、そこを冒険者が攻略したまでは良かったが、その後に問題が発生したらしい。


「問題?」

「はい。ラビリンスの主が冒険者によって討伐されたまでは良かったのですが、その魔物は村の畑まで逃亡し、そこで死んでしまったのです」

「ふむ」

「そしてその死骸が腐敗し、畑と言わず周辺を汚染し始め、村は大慌てでその死骸を処理しようとしたのですが、余りの毒素に処理が進まないのです」

「なるほど。そこで俺の出番という訳か」

「はい」


 ロダリエは領主からの正式な依頼であるのでしっかりとした報酬を支払う事と、俺とその仲間の身分は保証すると確約してくれる事を説明してくれた。


「分かった。行こう」

「本当でございますか! ありがとうございます」

「所で俺の話ってどれくらい世間に広まってるのかな?」


 ロダリエはあくまで一介の使者が知って居る事は少ない、と前置きしたうえで語ってくれた。

 どうやらセイという異邦人が、何でも食べてしまう能力を使い<試練>を突破していっているのだと噂され、その能力欲しさに様々な人物が動き始めているのだと言う。


「……結構知られている感じかぁ。とは言えロオスの領主は俺の力を悪用するつもりもなさそうだし、俺としてもそう言った依頼で能力を使う分にはやぶさかでは無いかな」

「そうですね。これから旅をしていく中で、セイの行いが未来を創るとわたくしは考えます。ですのでこの依頼で得られるものはお金ではなく、もっと計り知れないものだと思います」

「メアの言う通りだと思う。みんな、明日ドゥアの人達に挨拶して、明後日にでも旅立とうと思うがどうかな?」


 彼らは快諾してくれ、こうして俺たちはドゥアを離れ、様々な地域を巡りながら赤龍エルシデネオンを探す旅をスタートさせたのだった。


 ロダリエは俺の手を取って挨拶してから、近くに取っているという宿へと帰っていった。


「じゃあ、明後日の朝に一度伺います。ご予定に変更などございましたら、その時にお伝えください」

「ああ、悪いな」

「とんでもないです! では、また」


 それから下に降りてみんなで食事にした。

 珍しくセラが(お腹が空きました)とポケットから出てきたので、お店にあった桃を剥いて貰った。


「セラの世界に次は桃が生るのかな?」


 イスティリがワクワクしながらメアに話しかけていた。

 しかし、葡萄にしろ桃にしろ、季節関係なく色んな果物が常時ある気がするのは気のせいだろうか?

 俺はメアにその疑問をぶつけてみた。


「本来、ウィタスは豊穣の大地でしたので全ての果物や穀物が季節問わず収穫できましたが、今は『荘園』と呼ばれる魔力の多い土地以外では季節に応じた物しか収穫できません」

「なるほど。逆に言えばその荘園とやらは豊穣の大地が残っているから季節関係なく色々収穫できるんだな」


 メアは魔道騎士であると同時に、ハイ一族の当主として王より下賜された荘園の管理をしており、その利益の一部を税として納めているのだと教えてくれた。


「ですので、わたくしの荘園に行けば、新鮮な果物を沢山食べることが出来ますよ」


 その言葉に桃に噛り付いていたセラが反応し、メアの周りを一周廻ってからテーブルに戻った。


「あはは。セラは果物が好きなんですね。いつかわたくしの荘園で果物を食べましょうね」


 その後、メアはオグマフとの定期連絡を入れていた。

 どうも俺の話は色々と出回っているらしいが、その情報はオグマフから王都へ行き、そこからどういう経路かは分からないが漏れたらしく、しきりに俺に謝っておいてくれ、と言っていた様子だ。

 ただ王からの伝言は「セイと言う人物は存在しない。よって何ら対応も必要としない」とあったらしい。

 オグマフが言うには俺は結果として誰にも束縛されず自由に行動出来ている点から考えてみれば、王には何かしらの意図があっての事だろう、と話していた。


 夜、いつも通りセラの木の実を食べに行くと、案の定葡萄の近くに新しい木が生え始めていた。

 イスティリはメアと木の実を一個ずつ食べると、その木に水を掛けていた。


「セイ様っ」


 呼ばれたので行ってみると、彼女は水を掬う手を見せてくれた。

 欠損していた手は少しずつだが再生し、今では手の平の半分程度までになっていた。

 

「結構再生して来たね。これなら成人までに回復するかな?」

「覚えていてくれたんですね! そう、ボクは後190日位で成人です! その時は……」


 彼女はメアと目くばせした。

 メアは軽く頷くと、俺に微笑みかけた。


「そうか。ならその時は誕生日パーティを盛大にしなきゃな」

「誕生日パーティ?」

「俺の居た所じゃ、生まれた日を盛大に祝うんだよ。美味しもの食べて、贈り物をするんだ」

「やったー!」


 メアも俺に自分の誕生日を教えてくれる。


「セイ、わたくしの誕生日はオウテの月の四です。しっかり覚えておいてくださいね!」

「分かったよ。メアの誕生日も盛大に祝おうな!」


 俺は二人の髪をかき回すと、その日はセラの世界で三人毛布を並べて寝る事になった。

 彼女らは寝る前に井戸の水を使い体を洗い、それから俺にもタオルを渡してくれた。


 俺が水を使ってから二人の所に戻ると、彼女らは幸せそうに寝息を立てていた。


 翌朝、世話になった人物に挨拶回りをした。

 

 冒険者ギルドに行き、ベルモアに約束していた葡萄を持って行き、イズスの場所を聞いた。


「おおっ。ちゃんと持ってきてくれたか! ありがとうなっ!」

「ゴモスとハリファーは?」

「二人ともどこか分からねぇ。多分ゴモスは土地を探しに行ってる。ハリファーは本当に知らねえ」

「そうか。じゃあ二人にはよろしく言っておいてくれ」

「分かった分かった」


 それからイズスは郊外の森に出てパネに薬草学を教えているので二日ほど開けると教えてくれたので、彼女とも先日の会話が最後となってしまった。

 とは言え、今生の別れでもないだろうし、俺はイズスにもよろしく、とだけ伝えてオグマフ邸に向かった。


 後々、イズスは俺たちに会いたくなくてドゥアから離れていたのが分かるのだが、それはもっと先の話だ。

何時も読んで下さってる皆様に感謝いたします!

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