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69 それぞれの思惑③

 私はダンジョンから帰還すると早速配下に服を持って来させた。


「我が君! 今回は一体どんな無茶をされたのですか?」

「そう言うな、サリナ。私の祝福がどんな物かお前も知っているだろう。無茶をしなければ意味が無い祝福なのだ」

「それはそうですが……」

 

 サリナは私が魔王になった恩恵を受け、成人魔王種並みの実力者であるのだが、教育係の時の癖がなかなか抜けず、傍から見ると付き人にしか見えなかった。


 私は自らの祝福を発動させると、いくつ『模倣』出来たか調べる事にした。


【解。呪文<火球><誘導火球><炸裂火球><分裂火球><爆炎><炎舌><稲妻><紫電><雷撃><排撃><撤廃><浮遊><念動><魔法抵抗><物理抵抗>を習得しました。秘術<紫電の扇><魔力増強><魔法暴走>を習得しました。能力<魔法耐性><物理耐性><火炎耐性><稲妻耐性>を得ました。作成<闇爆弾>を覚えました】


 ふむ、流石はリッチといった所か。

 単純な攻撃呪文以外にも、幾つか目に見えない所で使用していたらしい呪文が獲得できたのは正直嬉しかった。


 私の祝福は経験・体験が直接昇華される≪完璧模倣≫しか今の所、顕現していない。

 しかし一番最初に顕現した祝福が≪完璧模倣≫であったのには驚いた。

 今までであればまずは≪強靭≫≪剛腕≫といった祝福が顕現し、≪完璧模倣≫は死ぬまで現れない事すらあったのだから。


 私はこれを好機と捉えた。

 ありとあらゆる呪文・秘術・体術・能力を模倣し、来るべきその時に備えるのだ。

 

 逆に言えば今はその時ではない。

 恐らく私の実力は歴代魔王の中でも最弱だろう。

 ゆえに危ない橋を渡り、様々な能力を吸収し、実力を付けてからでなければ話にならないのだ。


【解。祝福≪悪食≫を模倣しました】

「!」


 あのセイと言う男が使ったのは何と祝福だったのか。

 私は早速≪悪食≫を発動してみるが、あの男の様に蛇の幻影は出なかった。


【解析不能……解析不能……解析不能……】


 何度も試行するが、私の≪悪食≫は単にどんなものでも栄養に換えてしまう程度でしかなかった。

 だが、今はこれで良い。


 祝福持ちであるならば、あの男もまたこの世界の『火消』か『火種』のいずれかだろう。

 その内に出会うのは必至なのだから、焦る必要はない。


「サリナ、次はダイエアランに向かう。封印された霊廟ウルメランを狙おうと思う」

「死霊騎士ウルメランの霊廟ですね。では早速<偽装>で人の身に扮して向かいますか」

「ああ」


 私はサリナの<偽装>を模倣してしまっていたが、彼女から呪文が放たれるのを素直に待った。


「他の者はドゥアで情報を集めております」

「ああ」


 ドゥアに向かう道中、私はどうにかあの男をこちら側に引き込めないものかと考え始めた。


「気に入った」

「何か言われましたか? 我が君」


 私はその問いに答えなかった。


◇◆◇

 

 雷鳴と共に、私に告知が舞い降りた。


【候補:ギネメス=タウクーンが脱落しました。候補:オリヴィエ=ソランが脱落しました。残り候補は七名となります】  

 

 その告知には私、オリヴィエ=ソランの名前があったのだ。


「何故だっ!? 何故私が選から漏れた! 誰よりも鍛錬を重ね、血反吐を吐いて魔術の訓練に励んでいたこの私が何故だっ!」


 私は荒れ狂い、調度品を叩き壊し、カーテンを切り裂き、剣で持ってありとあらゆる物を切り刻んだ。


 私は血の涙を流し、咽び泣いた。


「何故だっ!? 答えろ! 『影』よっ!」


 しかし返答は無かった。

 

 当たり前だ。

 選から漏れ、『勇者の雛』で無くなった私に何の価値も無い。


「お、お嬢様!?」


 ノックと共に召使が入ろうとしてきたが、無理やりに扉を閉めて追い出した。


 私の今までの苦労は何だったのか?

 私の今までの時間は無駄だったのか?

 私は一体何の為にこの十年を費やしたのか?


 答えの出ない袋小路。

 私は、私自身でその答えを見つけ出して見せる。

 

 いや……違う。

 答えなどどうでも良い!


 私は……『影』に……復讐したい!

 私を虚仮にした『影』に復讐をしたい!!


 お前が私を獣にしたのだ。

 覚えて置け、『影』よ!


 私はその夜の内に王宮を抜け出し、出奔した。

 

「全ての『勇者の雛』を抹殺する」


 私はその日、<復讐を誓う虎>となったのだ。


◆◇◆


 俺たちはスルクル神殿という所に来ていた。

 何でもこの世界の銀行は神職の特権であるらしく、荘厳な石造りの神殿内部は窓口があり、数人の僧侶たちが接客をしていた。


【解。スルクル学派は『神は最早帰還しない。世界は我等の手に委ねられた』が教義の根幹である。少数派ではあるがその職務からか発言力は強い】


 そこでハリファーが割り印を使い『預金』を引き出すと、別室で報酬の分配に入った。


「私は今回立ち会わせて頂きます、オグマフ様の事務官ペルイと申します。よろしくお願いします」


 ペルイは四十過ぎのオーク女性で、普段は会計を担当しているのだが、オグマフの命でわざわざ来てくれたらしかった。


 そのペルイに手伝って貰って均等に分配した後、ゴモスが端数を俺にくれた。


「本来なら情報提供者のお前に多く渡したいところだがな……」

「いや、別に気にしないでくれ。俺は正直荷物持ってただけだし」


 横からイスティリとメアが俺の太ももを抓った。


「嘘おっしゃい。リッチを食べた方がよくもまあ!」

「セイ様って結構、サラっと嘘つくよね?」


 コソコソと耳打ちしてくるが、ゴモス達には聞こえない様にはしてくれていた。

 そう、俺は彼女らにだけ真実を話したのだ。


「よければ我がスルクルにて預金をなさいませんか?」


 そうセールストークをしてきたのは僧服に身を包んだ銀行頭取と言った風体の男で、この神殿の金融関係のトップなのだと言う。

 俺はセラの中に置くつもりでいたので気にも留めなかったが、イズスとベルモアは預金すると言い出した。


「私はこのナリじゃからのー。少し残して後は預けておくことにするかの」

「ハッ! 俺様も留守が多いからな。妹だけの家に大金は置けねえ」


 ハイレアは屋敷に持って帰って保管するのだと言うが、メアとイスティリは俺に預けてセラの中で置いておくつもりらしい。


「セラの中って許可された人しか入れないんだって! ボク、セイ様が今までセラの中にお金置いてたの知ってるし。凄く安全なんだと思うよ」

「じゃあ、わたくしも」


 ハイレアはその会話をコッソリ聞いているらしかったが、意を決して俺に聞いてきた。


「あの……その、セラさんの『召喚時間』ってどれくらいなんですか? ええっと、呪文での召喚ですよね?」

「ん? セラは呪文で呼び出したんじゃないよ。俺のポケットが定位置で見える所に居ないだけで、ずっと居るよ。そもそも俺は魔法を使えないよ」


 その言葉にハイレアは何故かショックを隠し切れない様子だった。


 ゴモスは早速武器屋を開店させるための土地を探すらしい。


「ハッ! まさかゴモス。これを機に引退する気じゃないだろうな!」

「ああ、そうだ。俺ももう三十だ。これだけあればもう死と隣り合わせで暮らさずに済む」

「チッ!」


 ベルモアはゴモスの答えを聞いて気分を害したのか、外に出て行ってしまった。 

 だが、後々知るのだが、ベルモアもゴモスの引退を機に第一線から退いてしまい、時々彼の店でエプロンを着て店番をしているのだった。


 ハリファーは鼻歌交じりで魔法のポーチに自分の取り分を入れると、颯爽と出て行ってしまった。


「じゃあな! お前たち! 俺は今から盗賊ギルド長になる為に頑張ってくるぜ!」

「またな」


 それから残ったメンバーで軽く食事という流れになったが、そこからまた一波乱あったのだった。

主人公がラーニング系ではなく、魔王側がラーニング系となります。

おかしい点をいくつか修正しました。

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