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66 ダンジョン攻略⑥

「さっき言ってたボクの<敵対種族感知>が役に立ったんですよ! セイ様」


 イスティリはそう言いながら俺に飛びついてきた。

 何でも俺が消えてすぐその呪文を唱えて、真下に人の気配を感じたので俺だと確信したらしい。


「セイ。わたくしも飛びついて良いですか?」

「なんだ? 遠慮するなよ」


 メアが飛びついてくると、彼女の肩に乗っていたイズスは俺の肩に乗り移った。


「やはりここが落ちつくのう」


 そのやり取りを見ていたゴモスはウンザリした様子で俺に問い質してきた。


「おいおい。惚気るのは後にして、ここで何があったか教えてくれんか?」 


 俺は先客の魔王種がリッチと戦って居た事、それから二人でそのリッチを倒したことを伝えた。 

 要はリッチが一体であった事にして、俺は嘘を付いたのだ。


「なるほど。あの骨片はそのリッチの名残か。しかしセイは全く役に立たんかっただろう?」

「失礼な。俺は囮になって逃げまわったんだよ。リッチはここまで来たからには凄腕だろうと思ったのか、その陽動に引っ掛かったのさ」


 嘘に嘘を重ねるがゴモスやベルモアは納得したようだった。

 が、イスティリやメアの視線が突き刺さる……。


 俺は彼女たちにコッソリ耳打ちした。


「あ、あとで話すよ」

「本当にぃ? セイ様また≪悪食≫使ったりしてない?」

「……」


 俺はリッチより二人の冷たい視線のほうが正直怖かった。

 これ、イスティリ……歯をカキンカキン打ち鳴らすのはやめなさい。

 いや、本当に……勘弁してよ。


「って事は、もしかしてその魔王種にお宝持ってかれた!?」


 ハリファーが悲痛な声を上げるので、俺はその魔王種は鍛錬の為にダンジョンに来たのであって、財宝目当てで無かった事を伝えた。

 俺のその一言で場の空気は和み、ハリファーは意気揚々とそのフロアを探索し始めた。


 程なくして彼は隠し扉を発見すると、そこには大きな宝箱が三つ置いてある小部屋を見つけた。


「流石にここに置いてある宝箱に罠は掛けないか」


 罠が掛かっていないか確認した後、ハリファーがそう言いながら宝箱を開封していった。

 箱の内一つは金貨が詰め込まれており、残りの二つ内一つには短剣、それに護符と指輪が入っており皆を喜ばせた。

 最後の一つは角笛、それに本が七冊入っており、特に角笛を見たイズスとメアが大興奮していた。


「なんと! こんな所に『角笛』が! なんの角笛じゃろう? キマイラかの? ヘルハウンドかの?」

「すまん。俺達にも分かるよう説明してもらえんだろうか?」


 ゴモスの問いかけにイズスは興奮冷めやらぬ様子で答えた。

 何でもこの角笛を吹くと作成時に指定された魔獣が呼び寄せられて、角笛を吹いた人物に服従を誓うのだという。

 

「なるほどな。普通は馴致しない魔獣が使役出来るとなればかなりの物だな」

「そうじゃ! 『角笛』は全部で九種類しか存在せぬ上に、幾つかは消失しておると言われておるからな」


 と言う事は……とばかりにゴモスとハリファーは顔を見合わせてにんまりと笑い出した。


「ハッ! これだけあれば妹を徒弟に出した上に俺様ものんびりできそうだな」

「お金を積んでまで徒弟に出すのですから、余程高名な魔術師なんでしょうか? ドゥアの高位魔術師ならわたくし多くの方を存じておりますけれど」


 メアの一言が波乱を呼ぶ。


「ええっとな……ガル……ガルベイ……」


 何か嫌な予感がするぞ。


「そうそう! ガルベインだ! 何でも親に勘当されて食うに困って徒弟を募集している」

「ちょっと待て! そんな奴に妹を預けるのか!? それにガルベインはボンクラも良い所だぞ!」

「え……ちょっと待ってくれよ。仮にも二級<魔術師>なんだから腕は確かだろ?」


 俺たちは口を揃えてガルベインは三級<魔術師>だ! と吠えた。


「マジかよ……俺様が騙されるなんて……」


 ベルモアは頭をガリガリ搔きながら困った顔をしていた。

 そうは言うが、ガルベインに騙される程度なら誰にだって騙されるぞ、と思ったが刺されても怖いので黙っておいた。


「……良かったら私がその子の面倒を見てやろうか? 試験こそ受けてはおらんが、基礎魔術から応用魔術まで習得して居るし、秘術も七つ覚えておるぞ?」

「マジかよ! イズスだっけ? お前の強さはこのダンジョンで見たから分かるぜ! ようし、ここを出たら妹に会ってみてくれ!」


 イズスがどういう意図でその提案をしたのかは分からなかったが、それでもベルモアの妹をガルベインの徒弟にするのは気が引けたので良かったと思う。

 そしてイズスの下でベルモアの妹が素質を開花させていくのは、もう少し先の話だった。


 所で秘術ってのは呪文とはまた違うのか?


【解。秘術は二神より種族ごとに与えられた特殊な魔法である。しかしあくまで学べば習得できる物も多い為、複数の秘術を学んだ者も多い】


 なるほどな。

 俺も魔法を学んでみたいな。


【解。ウィタスで二神より祝福を受けていない種は魔法を使用できない。よって知識は学べても発動することは叶わない】


 うーん、魔法が使えるようになれば≪悪食≫頼りで行かなくとも済むと思ったんだけどなぁ。

 しかしその考えで行くと、魔族が魔法を使えるのは何故だろう?


【解。魔族も二神からの祝福を受けているからである】


 うーん。

 二神が死んだ後に発生しただろう魔族が、二神の祝福を受けているのか?

 

【解。それは自身で探さなければならない答えである】


 珍しいな。

 回答を教えず、俺自身で探せとは。 

 

「よっしゃ! 魔法のポーチに最大容量まで詰め込んだ! 後はセイが運んでくれ!」


 えっ!? と思ったが俺は今回荷物持ちだった。

 半分ほどに減った金貨の上に残りの宝物を置いて、それにロープを巻いて引っ張って見た。


 お

 も

 い


(セイ? ずっと思ってたんですけど、少し真面目すぎではありませんか?)  


 セラがココッと鳴った。

 俺は宝箱を引っ張ったままセラの中に入り、手ぶらで出て来る。

 何だ最初からこうすれば良かったんじゃないか!


 ただセラを知らないメンバーには説明するのに四苦八苦した。


「セイ! お宝どこに隠したんだよ~!? まさか独り占めする気じゃないだろうな!」

「ハリファー、聞いてくれ。この子はセラ。信じて貰えないかもしれないけど天使なんだ! この子の中に置いてきた」

「意味わかんねぇよ! 信じられねぇよ! お前は何言ってんだ!?」


 俺は仕方なく皆を連れてセラの世界に入り、宝箱を見せた上で外に出た。


「……なあセイ? 最初からこれ使えばその背中の荷物でウンウン言わなくって済んだんじゃ?」

「うーん。セラにも『少し真面目すぎではありませんか?』って言われたばかりだよ!」

「はははははっ! 違いねえ。じゃあそのセラさんとやらに荷物持って貰って、帰還しますかー」


 ハリファーは上機嫌で俺の肩を叩いた。

 が、ゴモスは訝しげに俺を見て、ハイレアは硬直していた。


「すまん。セイ、お前は一体何者なんだ?」

「旅人さ。ただ他の世界から来たんだ」

「……変わった奴だと思っていたが、いわゆる異邦人という奴か」

「まあそうなるかな。ただ分かって欲しいのは、この世界に危害を加えるつもりは無いんだ」


 むしろ救いに来たんだけどな。

 そうは思ったが、さすがにそれは信じて貰える自信が無かったので飲み込んだ。


 ゴモスは沈黙した後で、俺の周りを見て納得したようだった。


「お前は変わり者だが女達には慕われている。俺は女に優しい奴は信用する事にしてるんだ」


 その言葉が本当かは分からなかった。

 ただゴモスはそう言うとハリファー同様、俺の肩を叩いてから「空の宝箱も売れるから持って行ってくれ」と言った。


 ベルモアは余り興味がなさそうだった。

 と言うより興味が他にあっただけの様だが。

 

 彼女はイズスを引っ掴むと、自分の方に乗せて熱心に話し込み始めた。

 最初はびっくりしたイズスだったが、次第に柔らかい笑みを浮かべてベルモアの話に付き合っていた。


 残るは……ハイレアだが、彼女はセラを凝視した後、貧血を起こしてフラフラと倒れてしまった。


「天使……まさか天使がこんな所に……」


 彼女はメアに介抱されていたが、その内に気絶してしまった。

 

 結局、ハイレアはダンジョンを出るまで意識を取り戻さず、仕方なく俺がずっと背負っていた。


「セイ様! 役得役得って顔でだらしないですよ!」

「まぁ! セイ! 私とイスティリという伴侶が居ながら妹にまで!?」


 メアは俺の頬を抓った。

 イスティリも逆の頬を抓った。


 しかし俺は耐えた。

 

 ハイレアは柔らかい。

 繰り返す、ハイレアは柔らかい。


 なお町でハイレアを下した瞬間、俺はイスティリに噛み付かれた。

 

「わたくしの分まで噛み付いて下さい!」

「まっかせてー!」


 いや、まっかせてーじゃないから、ね?

 俺は走って逃げた。


 しかし回り込まれた。

今後の予定。

ドゥア編→放浪編→戦乱編、と続いてから完結に向けて話を畳み始める予定です。



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