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65 ダンジョン探索⑤

 俺は白黒ゴーレムの部屋から全く別の部屋に移動していた。

 さっきの部屋の十倍はありそうな大きな部屋だったが、所かまわず光の玉が浮いていて視界は確保できた。


(わー、びっくりしました! わたくし転移って初めての体験です)


 ポケットに居たセラは俺と共に『転移』できたらしい。


 俺が移動したのは部屋の端であったが、中央では漆黒の法衣を身に纏った骸骨と、赤い髪の少女が戦っていた。


【解。リッチ。魔術の秘儀を極めようと不死者へと堕ちた魔術師である。死者となってからも研鑽を積み、より高みを目指す孤高の存在】


【解。魔王種】


 少女は魔王種であるらしかった。

 年の頃は十二歳くらいだろうか? 真紅の髪をポニーテールに結わえて、真っ白な肌は戦闘の為か紅潮していた。

 瞳の色はイスティリと同じ金色で、軽快な足捌きでリッチの放つ稲妻や火炎の球を避けては手に持った細い剣でリッチの体を切り裂いていた。


「ハハハ! やるな、小娘。ではこの秘術が避けれるかな?」


 リッチはそう言うと、放射状に広がる紫電を少女に放った。

 少女は避けずに素早く詠唱すると、リッチの呪文はバチッという音と共に搔き消えた。


「素晴らしい! 魔王種とはいえその年でいとも簡単に秘術の一つを打ち消すとはな」


 そう言った後、リッチは俺の方へ素早く『飛んで』くるとカカカッと笑った。


「何とも不思議な日である。同じ日にライネスの子孫で無い者が二人も現れるとは。少しは楽しませてくれよ」


 その骸骨はそう言うと俺に火の玉をぶっ放してきた。

 俺は横に飛び退ってギリギリ避けるが、明らかに骸骨は小手調べと言った様子だった。


 そこに少女が突撃してきて俺にグーパンを入れた!


「おい、お前! どこから来たのかは推測できるが、あれは私の獲物だ! 横取りするんじゃない!」

「いってえな! 挨拶も無しにいきなり殴りかかるとは、お前の養育係はどういう教育をしてんだ!」

「なっ!」


 そこにリッチが容赦なく火の玉を連続で飛ばしてくる。

 俺は泣きそうになりながら走った。


 チラリと少女の方を向くと、彼女はハイレアの結界の様な防護幕を自身に張り、火の玉を受けきる所だった。

 

 俺は助かったと思って走るのを止めて、ここからどうやって逃げるか考えようとした。


 しかしそんなに世の中は甘くなかった。

 火の玉が三つ、俺を追尾してきていた!


 仕方なく≪悪食≫を発動する。


「出てこい! ル=ゴ!」


 すぐさまル=ゴは反応し、火の玉目がけて蛇たちが食らいついた。

 無数の蛇たちが宙を舞い、うねる様にして一つの生き物と化して火の玉を飲み込んでいったのだ。


「なんだと!?」


 リッチは驚き、俺に向けて長い詠唱を始め出した。

 そのリッチに少女は容赦なく背後から剣を付きたてた。


 詠唱を止められてしまったリッチは、手に形成されつつあった巨大な火の玉を取り落とし、その火の玉は大爆発を起こした。


 少女はすぐさま先程同様結界を張るが、その結界は即座に割れてしまった。

 

 彼女は無理をし過ぎた。

 左手を中心に裂傷が走り、ダラダラと流れた血が床を濡らす。

 

「わざと取り落としたな!」

「カカカ。こればかりは不死者の特権よ」


 リッチは容赦なく少女に複数の火の玉を投げつける。

 少女は結界を張りそれを受けきると、すぐさまリッチを切り付ける。


 ボタリ、という音と共にリッチの腕が落ちた。


「……なるほどな。これでは大呪文を詠唱できぬ。その冷静さに敬意を」


 リッチはそう言うとその部屋に響き渡る声で怒鳴った。


「兄上! 兄上! 侵入者の排除にご協力を」

「なに!?」


 うわー、あの骸骨倍に増えんの?

 と思っていたら案の定骸骨がもう一体転移してきて俺は嫌な汗をかいた。


「ふむ。魔王種の幼子にヒューマンが一人。何故私が呼ばれたのか理由が分からん。弟よ、私の研究を邪魔した理由を述べよ!」


 慌ててもう一体のリッチが飛んで行って弁明を始める。


 俺は今の内だ! とばかりに出口か無いか見て回った。

 と、その時、俺の方へ魔王種の少女が駆けて来たのが見えた。


「おい! そこのおっさん! 流石に今の私ではリッチ二体は無理だ! 共闘しよう」

「いや、俺は出来れば逃げたい……」

「あのリッチを倒せば出口が出るんだよ! 私は何時でも<転移>で脱出できる所を、共闘しようって言ってんだ!」

「うわー、最悪だ」


 俺は絶望した。

 共闘と言っても俺は≪悪食≫を使わなければただのおっさんである。

 

『我が君。今こそ儂の出番ではございませんかな?』

「モーダス、お前は黙ってろ」


 とは言え、この窮地を抜けるためにはそれも視野に入れなければならない。


「どっちなんだ! 私と共闘するのか、それとも共闘しないのか!」

「わ、分かった。一緒に戦おう」


 そこにリッチ達が連続で火の玉を飛ばしてくる。

 俺は≪悪食≫で片っ端から飲み込むとその負荷がどれくらいの物か測った。


 じわり、と≪悪食≫の中に居るあの骸骨の様な小男のイメージが沸き上がり、彼が少し元気を取り戻したかのような錯覚に陥った。

 なるほど、特に指定が無い場合は、あの小男の取り分となるのか……。


『おおお! 我が君! このモーダスの力であればもっとたやすく飲み込むことが出来ますぞ!』


 いい加減黙れよ、このガマガエル。


 少女は俺をガン見した後で、ゴクリと唾を飲み込んだ。


「な、なんだ!? その力は! いや、それは後で良い。援護しろ! 片腕の無いほうから潰す」

「わ、わかった」


 俺は妥協して≪悪食≫を使う事にした。

 リッチたちが放って来る攻撃呪文を片っ端から吸い込むと、動揺したリッチ達の懐に少女は飛び込み、弟リッチを一閃した。


「ば……ばかなぁぁぁ!?」


 リッチは断末魔をあげながら……大爆発を起こした。

 少女は避けきれず爆発に巻き込まれ、血塗れになって膝から崩れ落ちた。


「ハハハ。弟の躰に仕込んでおいた<闇爆弾>がこんな所で役に立とうとはな」


 リッチが詠唱を開始する。

 意識が朦朧とした少女には避けれる筈もない。

 

 俺は少女を助けに走った。

 そうしてあのリッチを呪文ごと喰うためには、モーダスの力が最適だと理解してしまった。


「出てこい! モーダス!」


 モーダスが出て来ると、巨大なガマガエルの幻覚が呪文ごとリッチを丸飲みにした。


 ザコッ! という音と共にリッチは飲み込まれ、彼は自身が敗北した事を理解できぬまま、俺に消化された。


 だがその力の範囲は広い上に、意図的にモーダスは少女ごと喰おうとした。

 しかしながら、今の俺にはそれ位は読める様になっていた。

 モーダスの≪悪食≫が発動する前に、彼女をその範囲から引き摺り出すと身を挺して庇った。

 流石のモーダスも俺ごと喰う訳にはいかないだろう。


『わ、我が君ぃぃ!? その女も儂の取り分でございます!』

「うるせえよ! 次こんな事したら容赦せんぞ! モーダス!」

『……』


 モーダスは腹立ちまぎれにゲコッと鳴いてから大人しくなった。


 俺は床に少女を寝かせると、ポケットからシオに貰ったメダルを取り出して歯で割り、その欠片を少女の口に押し込んだ。


「回復の石だ。ゆっくり噛んで飲み込め」


 虚ろな目で少女は頷くと、ゆっくりと咀嚼し始める。

 俺はその間に荷物の中から水筒を取り出し、カップに注ぐと彼女に渡してやった。


 飲みやすい様に支えてやりながら、少女がシオの薬を飲み込むのを俺は見ていた。

 スゥと少女の出血が止まると、その裂傷や火傷が見る見るうちに搔き消えた。


「あ、ありがとう」


 少女は俺の支えをやんわりと外すと、恐る恐る立ち上がった。

 そうしてから二度三度ジャンプして痛みが無い事を確認してから、俺に向き直った。


「ありがとう、助かったよ。私の名前はガイアリース。見ての通り魔王種だ」

「こちらこそ、共闘を申し込んでくれてありがたかった。俺はセイと呼ばれている」

「セイ? お前はセイと言うのか? あの『世界の声』のセイか」


 俺はどう答えるか迷ってしまった。

 しかし、その迷いが答えとなってしまった様子だった。


「……まあ、余計な詮索はしないでおこう。その代わり、お前も私について余計な詮索はしないと誓ってくれ」

「分かった。誓おう」


 俺がそう言うと、ガイアリースはペタンと座り込んでニヒっと笑った。

 俺も座り込むと、二人で少しの間休憩した。 


 壁の方から轟音がし、上りの階段が二つ現れた。


「さて、私は目的も達したし、帰還することにするよ。私の傷を癒してくれてありがとう、セイ」

「こちらこそ、一緒に戦ってくれてありがとう。でも君も財宝を探しに来たんじゃないのか? このまま帰るのか」

「私は自分の鍛錬の為にダンジョンに潜っていただけで、別に財宝が欲しい訳じゃないんだ」


 そう言いながら、彼女は少し黙って思案している様子だった。


「……その、なんだ。もし財宝の取り分が私にも発生するなら、それを放棄する代わりにお願いを聞いては貰えないだろうか?」

「なんだ?」

「先程飲んだ薬をもう一欠片だけでも貰えないだろうか?」

「そういう事か。ここで知り合ったのも何かの縁だ。持って行きなよ」


 俺はメダルを渡すと、小指の爪位の大きさで一回分だと説明し、歯で割って貰った。


「す、少し大きい様に思うが良いのか?」


 俺は笑って許した。

 彼女は大切そうにその欠片をポケットに収納すると、俺に改めて礼を言った。


 微かに階段から声が聞こえる。


「セイ様ーぁ。どこですかーぁぁぁ!? ボク泣いちゃいますよー!」

「おーい! こっちだー!」


 俺が大声を張り上げると、ガイアリースは俺の手にキスをしてから詠唱を開始した。

 詠唱が終わると、彼女は俺に手を振りながら別れを告げた。


「じゃあな、セイ。また何処かで会おう!」

「ああ、またな。ガイアリース」


 彼女は転移してしまったのか姿を消した。

 

 俺が彼女、ガイアリースと初めて出会ったのはダンジョンの最深部だったのだ。

何時も読んで下さる皆様に感謝致します。


イスティリ=ミスリルストームやボルグ=シャドウファング、のようにガイアリースにも二つ名はありますが、現時点では明かされていません

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