63 ダンジョン攻略③
俺たちは更に階段を下る。
どうも体感的に地面の下を斜めに降りて行ってる感覚だ。
「なあ、ハリファー。ダンジョンってこんな感じで一部屋ずつで下って行く物なのか?」
「いや、普通はもっと玄室と呼ばれる小部屋と、最奥の大部屋が通路で繋がってるもんなんだけどなぁ。ちょっと変わり種のダンジョンだ」
そう言いながらも次の部屋に辿り付く前に、ハリファーがピタリと立ち止まった。
彼は手で俺たちを制止すると光の玉をもっと階段下に送り込むよう指示した。
カサカサと音を立てながら無数の骸骨たちがフロアを抜けて上ってくる所だった!
と、同時に階段上でゴトン・ゴトン・ゴトン……と音がして大きな球体が転がって来て退路が塞がれてしまった。
「ハリファー! 何やってんだ!」
「す、すまねぇ! 後ろはゴモスで止めてくれ! イスティリさんはゴモスのメイスであのスケルトンを叩き壊すんだ! セイも手伝え!」
ゴモスは鼻息荒く後方の球体を止めに駆け上がった。
すれ違いざまにイスティリはゴモスのメイスを引っ手繰り、スケルトンを破壊していく。
確かに彼女の斧では小回りが利かず、この狭い階段では味方にまで攻撃を当ててしまっただろう。
ベルモアは槍の石突き部分を器用に使ってスケルトンを壊そうとしていたが、非常に苦心していた。
しかし彼女は槍使いとしての自負があるのか懸命に槍だけで対応していた。
俺もイスティリの横に立ちスケルトンに渾身の一撃を入れる。
ベルモアは俺たちの後方に下がり、俺たちの隙間を縫うように攻撃を繰り出していた。
が、その骨のモンスターは崩れたと思ったらまた再構築して俺たちに向かってくる。
そこにハイレアの詠唱。
彼女の唱えた呪文が何なのかは分からなかったが、二十体以上は居ただろうスケルトンの半数が塵になり崩れ落ちた。
すかさずメアとイズスも詠唱を開始し、後方でまごついてるスケルトンを<雷撃>で粉々にしていった。
「よし! 今だ! スケルトンを踏み砕いて進むんだ!」
俺たちはメイスを振り回しスケルトンを全て叩き潰すと、粉々になった骨を踏み、足蹴にしながら階段を駆け下りた。
「うおおおお!」
ドスン・ドスン・ドスン、とゴモスが駆け下りてくると、その後ろから球体がゴトン・ゴトン・ゴトン、と階段を降りてくる。
俺たちが階段を駆け抜けてフロアに出るとすかさず左右に分かれて球体から逃れた。
そう思ったら、球体は何とフロアの出入り口でつっかえて轟音と共に止まってしまった。
「退路が……」
愕然とするハリファーと、荒い息をしながら両ひざに手を置くゴモス。
「ハ、ハリファーらしくねえな……ハァハァ……まったく……」
「面目ねえ! 俺とし……ゴモス! 上を見ろ! ガーゴイルだ!」
その言葉に俺たちはギョっとしてフロアを見渡すと、石膏の悪魔像の様な生き物が翼を広げて上空から飛来する瞬間だった。
その数は五体。
【解。ガーゴイル。物理攻撃を全く受け付けない魔法生物。呪文や魔法の武器でのみ死に至らしめる事が出来る所謂<戦士潰し>である】
おいおい。
俺のメイスってもう役立たずかよ!
などと悠長に考えていると、ゴモスに飛び掛かったガーゴイルの一匹が彼の鎧に大きな傷を作った。
「なにくそっ!」
たたらを踏んでバランスを保ったゴモスが、そのままガーゴイルの足首を掴んで床に叩きつけた。
そのまま右に左にガーゴイルを振り回して更に更に床に叩きつける。
上空にメアとイズスの<稲妻>がほぼ同時に飛び交い、二匹のガーゴイルが落下するとそのまま砕け散った。
そして一匹のガーゴイルが翼をやられて墜落してくる所に、ハイレアが詠唱を合せる。
そのガーゴイルはハイレアから放たれた風の刃で切り裂かれつつも、彼女に襲い掛かって来た。
ハイレアは慌てて追加で詠唱を開始し、改めてガーゴイルに風の刃をぶつけると、ようやくそのガーゴイルは沈黙した。
イスティリは飛び掛かってくるガーゴイルを避けると、その皮膜の翼に斧を滑らせた。
一瞬だけ翼が裂けるがそれもすぐに元通りになる。
しかしその一瞬が命取りだ。
空中でバランスを崩したガーゴイルは壁に激突した。
そこにゴモスは合せる。
掴んでいたガーゴイルをハンマー投げの様にぶん回して、壁に激突したガーゴイルにぶつけたのだ。
すかさずメアとイズスが<雷撃>を連射した。
「ハッ! やるねぇ。俺様の出番が無かったぜ!」
俺も無かったよ、うん。
しかし魔術師二名欲しいって言ってたハリファーの希望が分かった気がする。
上空から突撃してくる物理無効の化け物なんて、どうやったら魔術師無しで対応するつもりだったんだろう?
一応ハイレアも攻撃魔法は使えるようだったけど、魔術師の<稲妻>とは比べ物にならない位、威力は低いよう思えたし。
「ボクも魔法を使えるんですけどね」
俺の考えを察知したのかイスティリが教えてくれる。
「そうなんだ。どんな魔法が使えるんだ?」
「ええっとね! <敵対種族感知>! これを使えば……魔族のボクは『人間』の居場所を特定できます!」
うーん。
イスティリは人間側と言うか俺の仲間になっちゃったんだから使う時が無いんじゃ?
「セイ様! この前、魔王種を見つける時には役に立ったんですよ。目の前に使用人が居るのにボクの<感知>に引っ掛かかってないなら、そいつは人間じゃ無いって事なんです」
ああ、なるほどな。
何事も一つの答えだけじゃなく、色んな応用があるもんなんだなあ。
「帰りは最悪このフロアの入口を壊して広げる。またスケルトンと戦う羽目になるが、まあセイでも対応できた位だから何とでもなるだろう」
あ、はい。
「とは言え、一旦は休憩としようか。軽く食事にして体を休めよう」
俺はてきぱきと鞄の中から硬いパンとチーズを出して皆に配り歩いた。
それからここに来る直前に摘んでおいたセラの葡萄をボウルに入れて、各自の喉を潤してくれるよう伝えた。
「うまっ! これはどこの店で買ったやつなんだ!? 俺様の妹は豹族のクセに葡萄が大好きでな。買ってやりたいぜ」
ピアサーキン自体は自らの事を豹族と呼ぶのか。
「個人的に持っている畑でとれたものだから、また機会があったら持って行ってやるよ」
「そうか! マジで頼むぜ! 一回で良いからさ」
ポケットに入っているセラが少し抗議の声を出した。
(畑……畑……。セイの晩御飯は今日からそこのガーゴイルにします!)
「ゴメンゴメン。分かりやすく説明しようとしたんだ」
「ん? セイ、何か言ったか?」
「あ、いや。何でもないよ」
休憩しながらゴモスとハリファーはまた財宝分配後の夢を語り出した。
そこにおずおずとハイレアが加わった。
「私、裁縫屋を切り盛りしてひっそりと暮らしたいです。毎日刺繍して、子供服を売るんです」
「何とも可愛い夢だな。実際やってみたらどうだ? 僧侶とは言え還俗すれば普通に暮らせるだろう?」
「ええ……。そう、ですね……」
ハイレアは夢を語った時と打って変わって歯切れの悪い答え方をしていた。
「さて、休憩は終わりだ! 進んでみて長丁場になりそうなら仮眠を取ろう。財宝まで頑張ろうぜ」
俺は案外このメンバーならあっさりこのダンジョンを攻略し、笑顔で財宝分配にあり付けると単純に考えていた。
実際、最終的にはそうなったのだが、俺はこのダンジョンの最深部で一人の人物と出会う事になる。
その人物の名はガイアリース。
俺はその名前を永遠に忘れないだろう。
運命の分帰路が、このダンジョンの最深部にもあったのだ。




