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62 ダンジョン攻略②

 ハリファーの指示で俺たちはまた階段上まで戻った。

 そうしてから樽を下す作業に入る。


 ゴトンという鈍い音があり樽が下り切ったのが分かると、ロープを持っていたゴモスにベルモア、それに俺は一息ついた。


 しばらくすると先程の扉に衝撃音がして、何本もの矢尻が貫通して止まっているのが見えた。


「ヒュー! あれが刺さったら間違いなく天国行きだ!」


 ベルモアが口笛を吹くのを横目で見ながら、ハリファーは扉まで戻ると半分ほど開けて中を確認し始めた。


「まあ罠はこれだけの様だな。少し進むか」


 俺は下まで降りると、何故罠はこれだけだと判断出来るのかを聞いてみた。


「簡単さ。最初で躓く奴らには罠なんて三つもあれば十分なのさ。そしてその罠を突破できる奴らには罠なんて幾つあっても無意味なんだ」

「そんなものなのか」

「そんなもんさ。次はもっと強力なのがくるぜ。ゴーレム系の魔法生物。スライムみたいな化け物も居ればスケルトンみたいなアンデッドも居るかもしれない」


 イステイリは早く戦いたいのか、その会話に耳にして斧をグッと握りなおした。

 彼女は鎧の類は一切付けておらず、ギルドで借りた厚手のレザージャケットを羽織ったくらいで、後は何時も通りの軽装だ。

 

 ゴモスはこのメンバーの中で最も重装備だ。

 チェインメイルという鉄の環を繋ぎ合わせた鎧の上から、さらに鉄の装甲で身を覆い、さしずめ重戦車だ。

 獲物は愛用の両手斧だが、金属製の棍棒みたいなのを腰に装備していた。


「これはメイスだ。金属の鈍器にしか過ぎないが、両手斧だけでは用途が限られるからな」


 そう言われても俺にはその用途が全く分からなかったが、後でそのメイスが役に立つのだった。


 ベルモアはと言うと、最初に出会った時の皮鎧を身に纏い、いつもの槍を携えていた。

 彼女はそれ以外に投げナイフを隠し持って居るはずだ。


 イズスは「ピリオル」と彼女が名付けた魔法の杖を持って俺の肩に座っていた。


「なあ、イズス。何で魔術師たちは杖が無いと魔法を使えないの?」

「使えなくはないが、杖無しで魔法を『大失敗』してしまうとその魔法を忘れてしまうんじゃ。頭の中からスコーンと抜けて、また一から学んで習得せねばならん」

「はー、なるほどな」


 メアはイズスの言葉に激しく頷いていた。


「わたくし、一度前提呪文の一つを『忘れて』しまって、その呪文より上位の呪文が不安定になって大変でした」


 メアはそう言いつつ、オグマフから借り受けたハイネと名付けられた魔法剣の柄を握りしめた。

 彼女は鎧こそ付けて居ないが、事前に屋敷の使用人に持って来させたミスリルの糸を織り込んだという高価な外套を纏い、衣服にも防護呪文が複数掛けられているらしかった。

 

 メアの妹ハイレアはと言うと、柔らかい純白の僧服にメイスといういで立ちで、いつもと違うのは胸に下げたペンダントだけだった。


「あの護符一個で町が買えるぜ? 防護呪文の比じゃない。≪加護≫だかんな」


 ベルモアがこそっと教えてくれるが、相変わらず豹娘はハイレアが気に入らないらしい。


【解。≪加護≫は使用者の不運やミスを自動的に軽減する極めて上位の魔法である。おおよそ十人の詠唱者が不眠不休で三日間作成に従事するが成功例は少ない】


 不運やミスを自動的に軽減って凄いな。

 ただハイレアはその護符とやらを余り好んでいる様子ではなく、時々嫌そうにジャラジャラと手で触っていた。


「私だけいつも……」


 彼女は不満を口にしたが、ハッとして口をつぐんでしまった。


 さて、俺はと言うといつもの服にメイスだけ借りて、後は……背中に全員分の食料や備品を詰め込んだ大きな鞄を背負っていた。

 ベルモアは俺の事を『荷物持ち』と言ったがまさしくその通りだ。


 とは言え、かさ張る荷物を一手に引き受けて仲間が動きやすい状況が作れるなら、俺はその『荷物持ち』とやらで十分だ。


 話を元に戻そう。

 最初の部屋に全員が入ると、先に入っていたハリファーが長い棒で床を叩いて、落とし穴を発見している所だった。


「セイ様。落とし穴の底! すっごい沢山のトゲですよ! 落ちたら痛いだろうなー」


 痛い所で済めば良いけどな。


「よし。罠無し」


 ハリファーが奥にある扉を工具を使って開けると、下に続く階段が見えた。

 その階段を下ると今度は大きなフロアの入口が見えた。


「さて、戦士諸兄の出番だね。中に入らない様にしながら確認してくれ。左右に三体ずつ、計六体の彫像が立っているだろう」

「うむ。ゴーレムか?」

「近いね。リビングスタチューだ。あの形は二十二王朝の工房パルガリ型だな。一番量産された奴だから分かりやすい」

「ええと、ボクはどうすれば? そのリビングスタチューってのは戦ったことが無いです」


 ハリファーは「最初に見た奴を追っかけ回すから、一人中に入って付いてきた奴を他が叩くと楽なもんさ」とイスティリに言った。

 あとは「足の関節を狙う事」「武器を持つ側の手を潰す事」の二つを優先的にやれば単なる鉄くずでしかないらしい。


「では、行こうか。ベルモアが入ってすぐ入口まで戻る。付いてきた彫像を俺とイスティリで叩く」


 ゴモスが指示を飛ばし、作戦は決行された。


 ベルモアがフロアに一歩足を踏み入れると手前の二体がノコノコと付いてきたが、彫像はゴモスとイスティリに見向きもせずベルモアを追い掛けて階段まで来た。

 左右からゴモスとイスティリが彫像に襲い掛かり、まずは足を叩き壊してから剣を持つ手に斧を叩きこんだ。


 そうしてから念の為に残りの手足も捥いでしまうと、ハリファーの言う通り鉄くずにしか過ぎなかった。


「ハッ! 簡単すぎて寝ちまうぜ!」


 ベルモアがもう二往復すると、そのリビングスタチューという魔法の護衛はあっさり始末されてしまった。


「順調だな。所で全然宝物らしきものも無いが、最深部に全部詰め込んでるのか?」

「恐らくそうだろうな。この調子だと期待できそうだぜ? なんせリビングスタチュー六体配置できるんだ。潤沢な資金があったって事だろう」


 ゴモスとハリファーは顎を摩りながら取らぬ狸の皮算用をし始めた。


「この攻略で得た資金で武器屋を開店させて利益を出そう。そうして出た利益で次の店を……」

「まず借金を返すだろう? そっからギルドの支部の株を買って支部長の座を……くふふ……俺にも運が来たぜー」


 その様子をベルモアは白けた様子で見ていた。


「なあ、ベルモアはこの攻略で得た資金で何をするんだ?」


 俺は何故か興味を持って彼女に聞いてみた。


「俺様には一人だけ妹が居てな。魔術師の才覚があるんだとさ。俺様は妹がある魔術師の徒弟になれるよう、そいつに金を積むんだ」

「意外に家族想いなんだな」

「ハッ! 意外にって何だよ。意外にって!」

 

 俺たちが話し込んでいる間に現実に戻ったハリファーがフロアを探索し終えたらしく、次の扉を開けて俺たちが来るのを待っていた。


「セイ様! ボクはね! ボクはね!」

  

 イスティリは高い料理屋に入って好きなだけ食べるらしい。

 俺は彼女の髪をくしゃくしゃにしてやった。

 メアも俺の胸に頭をコツン、としてきたので髪をわしゃわしゃしてやると、二人で顔を見合わせて『フヘッ』と笑った。


 イズスは見ないふりをしていたが、ハイレアは目をまん丸にしてその光景を見ていた。 

何時も読んで下さる皆様に感謝を。

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