61 ダンジョン攻略①
俺はル=ゴの≪悪食≫を使い家具を飲み込んだ。
家具は一旦エネルギーへと変換された後、以前得たエネルギーとは別にプールされたのが感覚的に分かった。
これらの家具を取り出すのは後にして、その日はハイコラスも交えてハイ一族の屋敷で食事を取ってから岩石採掘亭に戻る事にした。
「セイ様、オグマフさんの屋敷食べちゃたんだよ!」
「うんうん。その話は俺っちも聞いてる。しっかし実際見てみると凄いよな! 確かにギルド長が情報収集に躍起になる訳だわ」
ハイコラスはそう言いながらこんがり焼いた丸鶏にナイフを入れる。
イスティリは好きな部位をハイコラスに伝えると、彼はその要望に応えて大きく切り分けてくれていた。
「肉を切り分けるのって家長の役割なんだけど、俺っちにそれが回ってくるとはなぁ。まあ代行だけどさ」
そう言いながらも彼は楽しそうに鳥を俺達に振舞ってくれた。
◇◆◇
宿に戻るとゴモスとハリファーが来ていた。
何でも明日の打ち合わせに来たらしい。
よく見るとベルモアも居たのだが、彼女はテーブルで酔い潰れて魚のフライを食べるでも無くつついて居た。
「は~ん。お酒美味しいですわね~」
誰だ、お前。
ベルモアは尻尾を振りながら変なイントネーションで話しかけてきた。
「放っておけ。明日二日酔いなら置いて行く」
「ベルモアは酔うと『お嬢様』って言われてる。人が変わるんだ」
ゴモスとハリファーはそう言いながら別のテーブルに付いて書面を広げ始めた。
「これが今回のダンジョン探索の許可証だ。この探索で得た利益の一割が領主オグマフに入り、更に一割が別途税金として差し引かれる代わりに、ダンジョンの正当な所有者が権利を申し立てて来ても俺達が不利益を被る事が無い」
「なんだ、オグマフはこの紙っきれ一枚で二割も取るのか」
「まあ、そういう事だ。しかしお墨付きがあるってのは良い事でもある。誰も俺達を盗人として告発できんからな。本来なら後ろ指刺されても仕方ないのがダンジョン攻略だ」
「いっちゃあ何だけどさ、やってる事は盗掘だかんなぁ。ははは」
なるほどな。
ダンジョン攻略と言っても色々しがらみがあるもんだな。
「所で。今回の攻略で来る筈だった魔術師がセイの名前を聞いた瞬間ブルってしまい来なくなった。代わりが居らんので仕方無いが<魔術師>無しでの攻略となるかも知れん」
「セイなんて単純な名前この世の中に五万と居るのにな。人違いだよな? 神託なんて俺は初めて聞いたよ」
人違いじゃないんだけど、ハリファーの言葉を都合良く利用して俺は曖昧に返事をした。
イスティリはと言うと、自分の財布をゴソゴソとテーブルに出し、給仕に腸詰め肉を注文をしていた。
さっき食ったばっかりなのにまだ食うのか、この子。
よそ見をしているとメアが俺の袖を引っ張って来た。
「セイ。ダンジョン攻略で魔術師が居ない。そしてここに居るのはわたくしです。これは天の采配だと思いませんか?」
「なるほど。……ゴモスにハリファー、聞いてくれ」
俺は事情があって魔道騎士メアと行動を共にしている事。
そして彼女は魔術師としての実力がかなり高い事を彼らに伝えた。
「実力はあるんだろうさ。何たって魔道騎士なんだろ。最低でも二級<魔術師>に三級<戦士>以上でなきゃ振るい落とされる筈だ」
「魔術師は後一人、最低二人欲しかったけどな」
ハリファーがそう言いながらも不安要素が解消した事で気が緩んだのかエールを頼み始めた。
そこにイズスが現れてテーブルに飛び乗った。
「良かったら私も連れて行ってはくれんか? 人間世界での試験を受けては居らんから何級と言うのは無いが、一応一通りの魔術は使えるぞ?」
「イズス殿、まだこちらに居られたんですな。本当に来てくれるんなら俺等としては願っても無いが」
「なら決まりじゃ。ちょっと羽が本調子ではないが、セイ殿の肩にでも乗って居よう」
イズスはそう言ってから葡萄酒を頼み始めた。
「明日の勝利を祝って祝杯じゃー。あ、セイ殿。支払いは任せた!」
俺は苦笑しながら自分の分のエールを頼み始めた。
それから小一時間程、打ち合わせと言うか飲み会と言うかをした後で、ゴモスらは帰って行った。
「皆さまー。ご機嫌ようー」
エセ淑女のベルモアは最後まで酔っぱらったままだった。
彼らが帰った後、女性陣は水浴みをするとかで二階に上がっていった。
イスティリとメアは交互に水を使い、必ずどちらかが俺に付く形を取っていたのが不思議だったが。
夜半にはセラが音を出して木の実が生った事を教えてくれた。
(うふふ。毎日食べれますね)
俺はこっそり木の実を取りに行ったつもりだったが、戻ってみると女性陣はソワソワしながら俺の帰りを待っていた。
トウワは相変わらず木の実に興味が無いのか部屋の端っこで寝ているらしかったが。
◆◇◆
「さあ、開けるぜ?」
ハリファーが俺達に伝える。
遂にダンジョンの封印を解いて中に入る時が来たのだ。
「ハッ! 勿体ぶらずに早く開けろよ!」
豹娘ことベルモアはもうお嬢様では無くなっていた。
今回このダンジョン攻略に来たのは、ゴモスにベルモア、それにハリファーの三人に、俺・イスティリ・メア・イズス、それにハイレアの計八人と割と大所帯だった。
「姉さん……私ダンジョンは二回目なの」
「レア、何事も経験です。痛い思い、怖い思いをして人は成長するのですよ」
そうこうしている間にハリファーが観音開きの扉を開けた。
内部は真っ暗だが、日の光が当たる場所には階段が見えていて、下に続いているらしかった。
メアとイズスが掌にピンポン玉程度の光の玉を出した。
一つは俺たちの頭上に滞在し、もう一つはゆっくりと階段を下り、行き先を照らし始めていた。
「さっき打ち合わせした通り、第二十二王朝のダンジョンは罠が多い。そういうのが流行ってたんだ。だから俺が良いと言うまでは勝手な行動は慎んでくれよ」
ハリファーが長い棒を取り出すと、カツン・カツンと階段を一つずつ調べながら先頭を歩いた。
階段を下り切ると扉があり、ハリファーが腰に巻いてある皮の工具入れからピック状の物を取り出すと扉を調べ始めた。
ハリファーは行動を制限されるのが嫌なのか鎧の類は一切付けず、武器は短剣一本と至ってシンプルな装備だった。
その代わりありとあらゆる場所に、盗賊ツールとでも言うべき工具類やロープ、薬品の瓶が詰め込まれているらしかった。
「鍵自体は簡単な代物だが、開けた瞬間紐で吊るされた樽が落ちてくる罠が張られているな。樽の中は可燃性の油だろう。<魔術師潰し>だ、一時流行ったんだ」
「魔術師潰し?」
「昔は火炎呪文が主流だったからな。『罠だ!』『樽が来る!』『私の火炎魔術で吹き飛ばしましょう!』からの全滅さ」
そう言いながらハリファーは別の工具を素早く取り出すと扉に付けられた鍵を開き、少しだけ扉を開けた。
その隙間から光の玉がすり抜ける様に入ると内部を照らす。
「ほら、見てみろよ。あそこに樽が見える。扉を全部開けたらフックが外れて樽がドカンと来る訳さ」
彼はそう言うと扉の内側に片手を伸ばして何かをロープで結んだ。
それからベルモアにロープの先端を渡し、ゴモスと一緒にしっかり持っているように言った。
「今から内部のフックを外す。そうしたら樽の荷重が一気に来るが頑張ってくれ。それからゆっくりと継ぎ足したロープで樽を地面近くまで降ろすんだ」
「ハッ。いきなり樽爆弾かよ。先が思いやられるぜ」
ハリファーが合図をし、それからフックを外したらしかった。
ゴモスとベルモアがゆっくり樽を下していく。
「よーし、そこまでだ。多分あの樽を置いたら別の罠が発動する。そのまま宙に浮かせて少し待っててくれ」
「面倒くせぇなあ」
ハリファーは扉を今度は半分ほど開けると内部に侵入し、先程同様棒で地面をコツコツ叩き始めた。
ガコン。
ガコン。
棒で叩いた床が数か所、崩れ落ちた。
そうしながらハリファーは樽に近づくと、樽下の床を見始めた。
「ハリファー! まだか! これ結構重たいぞ!」
「そりゃそうさ。中身は全部油だからな。よし、方角はこっちか!」
彼はそう呟くと素早く戻って来た。
「樽を置くと扉に向かって矢か何かが飛来する。それも時間差でな。だから一旦階段を上がり、樽を置いたら少し待つぜ」
「わ、わかった。セイも手伝ってくれ!」
ゴモスに言われて俺も手伝う事にした。
しかし、最初の扉でこの調子なのには正直驚いた。
俺がダンジョンの怖さを知った瞬間でもあったのだ。
ハリファーが使っているのは「10フィートの棒」あるいは「棒(木製)」とか言われる例のアレです
彼は3フィートを3本使って、ジョイントで伸ばすタイプなのでオリジナルには程遠いですが。




