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57 シオからの使者③

「さて、これでわたくしの今日の任務は後一つで終了です」

「あと一つ?」

「はい。セラが貴方の『一つ目の試練突破』を世界に宣言するのを見届ければ帰ります」


 その言葉にセラは(あっ)と小さく声を上げてから高らかに宣言した。


(セイが第一の試練を突破した事をここに宣言します)


 その言葉は全ての者に聞こえたのが何故か感覚的に理解できた。

   

「これで今日の任務は終了です。これより帰還に入ります」

「ちょっと待ってくれんか!」


 <南の白銀>の帰還を止めたのは以外にもイズスだった。

 彼女は焦った声色で天使長を制止すると恐る恐る質問した。


「私はセラ殿の最初の『宣言』の際、彼女の中の世界に居った。仲間のトウワもそうじゃ。これはセイ殿の試練にとって瑕疵とならんか?」

「……なりえますね。ただ、どの様にその事柄が響いてくるかはわたくしにも分かりません」

「やはりそうか……セイ殿! 誠に申し訳ない!」


 俺はイズスが狼狽えるのを不思議に思った。

 彼女に危険が及ばない様にセラの中で待機して欲しいと伝えたのは誰でもなく俺だったのだから、イズスやトウワに何ら落ち度は無い筈だ。


 俺はそう思ったままをイズスに伝え、それから更に言葉を繋いだ。


「そういう訳だから、もし万が一にもこの試練が未達成と言う扱いになるんだったら、俺はもう一度最初の試練から受けなおしても良いし、追加で試練を受けても良いと思うんだ。だから気にしないで欲しい」

「セイ殿はいつも優しいの……。私なら自分が生死の境を彷徨う試練など幾つも受けたくは無いが」

「そうそう! ボク達が居るんだからセイ様の試練が後一つ二つ増えた所で大丈夫だよ! イズス!」

「わ、わたくしも協力します!」


 そう言いながらイズスはイスティリの肩にちょこんと座ると、俺に向けて杖を振った。

 彼女の鱗粉が杖の指し示すままに舞い、それから俺の服に浸透していった。


「これは、ダーク・フェアリーの秘術であり、私ことイズス=イズン最大の魔術。≪夜のとばり≫じゃ。セイ殿は夜の間だけ直観力が向上する。夜目の聞かぬヒューマンのセイに取って少しでも役に立つじゃろう」

「ありがとう、イズス」

「これで私は当分飛べぬ! なのでイスティリ嬢かセイ殿の肩で移動するかの!」


 イスティリはイズスと顔を見合わせて「任してっ!」と元気に伝えていた。

 俺もイズスの為なら肩くらい何時でも貸すよ、というような事を伝えた。


 ふと見やると<南の白銀>はモリスフエの体から抜け出し始めていた。


 モリスフエはそのままベッドに向かうと靴を脱いで毛布を被って、何故かスヤスヤと寝始めた。


「お父様、セイ様が来たら起こしてください。むにゃ」


 俺はここに居るんだがな、と思いつつも今起きられても面倒なのでそのままにしておいた。

 <南の白銀>はと言うと帰り支度を始めたのか、歪み始めた空間にその四角い体の角の一つを埋没させ始めていた。


(ではわたくしは帰ります。二人とも苦難に負けず頑張って下さいね。宣言が聞けなかった者が居た件は何か分かったらまた来ます)

「ありがとうございます。<南の白銀>。シオによろしく伝えて下さい」

(ありがとうございます! 天使長さま!)


 こうしてシオの使者<南の白銀>は去り、俺の手元にはシオからのメダルだけが残された。


「いやー、来て良かったねコー。まさか別次元の天使、それもかなり上位の存在を目の当たりに出来るなんて」

「しかしシォミルウレー? 四次元の神様とセイ殿が繋がっているのも凄い! セイ殿! 俺は魔道騎士コー。ハイ=ディ=コーです!」

「わっ、ずる~い。セイさん? 私は魔道騎士ダレン。ハイ=ディ=ダレン。そこのコーとは双子。私が姉、コーが弟よ。そしてメアは私達の姉です」


 メアの言っていたコー卿、ダレン卿が双子の姉弟だったんだと今知ったが、よく見ると髪型こそ違うが二人はハイレアとハイコラスに良く似ていた。

  

「さあて、セイ殿も起きた事だし、皆でちょっと葡萄酒でも飲みながら内緒話と行こうかの?」


 そう話を切り出したのはオグマフだった。

 イスティリのお腹が「キュ・キュー」と鳴った。

 オグマフは「もちろん、食事にしたいものは言ってくれ」と優しく言うと先に部屋から出始めた。


 モリスフエはそのまま寝ていた。


「遭遇戦は相手がセイ様からの奇襲を受けて意識不明となった為、ボク達の不戦勝」


 イスティリは意味の分からない事を言っていた。


「所でセイ様? さっきボクより先に死のうとしたら容赦しないからって言いましたよね」

「え? う……うん」


 彼女はカキン・カキンと犬歯を打ち鳴らした。

 俺はその様子に嫌な気配を感じ取り、少しずつ後じさりした。


『頼むっ! 俺がセラの手助けがあって初めて生き返る事が出来たってんなら、今ここで死んでみせよう。だからっ! セラのその4,000年の罰則だけでも取り消してやってくれないか? 頼むっ! この通りだ』


 イスティリが俺の声真似をした……。


「かっこいいとは思います。うん。ボクはそんなセイ様が大好きです。でも『今ここで死んでみせよう』はちょっとボク、意味が分かんないです」


 俺は脱兎の如く逃げようとしたが、案の定彼女に『首筋に』お灸を据えられてしまった。


「ギャーァァァ!?」


 メアは助けてくれなかった。

 むしろそうなって当たり前だ、という顔をして呆れていた。 





 俺たちはオグマフ邸の庭にある東屋で簡単な食事をしながら『内緒話』をしていた。

 

「あの魔王種の配下が持っていた魔法の品々は、悪いが屋敷の修理費に充てさせて貰うぞ、セイ殿?」

「ええ、もちろん構いません。なんたって俺は貴方の屋敷を食べてしまいましたからね。本当にすみません……」

「よい、よい。屋敷を喰わなんだらあっさり死んでいたんじゃろう? なら仕方の無い事じゃ」

「そう言って頂けると助かります」


 使用人がサンドイッチに似た調理パンを持って来たので、そこで一旦会話は中断した。

 イスティリは歓声を上げてそのパンに噛り付き、メアは上品に口に運び始めた。


 オグマフ達は食事は済ませたとかで、葡萄酒の水割りらしき物で口を湿らせながら寛いでいた。


 俺はと言うと食欲が沸かず、かと言って不調という訳でもなかったので不思議に思っていた。


【スタックされたエネルギーが膨大過ぎますので、負荷を掛けない程度にお体に戻しております】


 そうなのか?

 しかし≪悪食≫側はしゃがれた男性の声なのに、このアナウンス側はミュシャとミュシャ人形を足して二で割った感じなんだよな。


【私は≪悪食≫の能力を貴方様が理解しやすい様にと作られた疑似人格ですから。≪悪食≫の第一層神格とは全くの別物です】


 第一層神格とはまた難解な言葉が出てきたな……。


【≪悪食≫には第十層神格まで存在します。より深層に居る神格ほど危険な神格です。なお貴方様が試練を突破した事により現在、第四層神格までが覚醒しております】


 うーむ。その情報は聞きたくなかった気もする。

 俺が脳内で妄想チックに疑似人格と会話していると、オグマフが改めて俺に質問してきた。


「おおよそイズス殿より聞いたのじゃが、セイ殿はこの世界に『神を創る為に来た』異邦人という事で相違無いな?」

「そうですね。そこまで知ってくれてるんなら話は早い。ウィタスは滅びる。それを阻止する方法がウィタスから神を産み出すという事なんです」

「サラリというが正直見当もつかんな……」

「俺も手探りですからね。とりあえずはエルシデネオンに会うつもりです」

「とりあえず、で赤龍に会おうと言うのか……」


 オグマフは脂汗を滲ませながら俺の言葉を聞いていた。

 ダレンは思いのほか食いついてきて、顔を上気させながら聞いていたが、コーは不安そうにメアを見ていた。


「で、ここからは相談なのじゃが、セイ殿に、その……お目付け役をつけたい。≪悪食≫の力を危険視する者も多い。そこで咄嗟に対応出来る者をセイ殿に付けたいと考えている」

「構いませんよ。俺もそれで少しでも警戒を解いてくれて自由に動けるようにしてくれたほうが、何かとやりやすいと思いますし。で、どなたを付けるんですか? コー卿ですか?」

「うむ。魔道騎士の会議でメア卿を付ける事となった」


 オグマフの言葉は珍しく歯切れが悪い気がしたが、俺に『監視』を付けたいと言うのだから歯切れが悪くなって当たり前か、と考えた。

 

 そのオグマフの言葉にメアが顔を真っ赤にして興奮し始める。


「オグマフ様っ! わたくしがセイに付いても宜しいんですか!」

「まあそうなるかの。あくまで会議で決まった事じゃし、メア卿が嫌なら別の誰かにその役目を与えるが」

「いえっ! わたくし、やらして頂きますっ!」


 メアは鼻息荒くテーブルに乗り出すと、興奮しすぎたのかダレンのカップを倒してしまった。

 慌てて皆で拭くが、メアの零れんばかりの笑顔を見て、誰も怒る気にはならなかった。

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