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54 モリスフエ襲来

 俺は夢を見ていた。

 それはまさしく悪夢であり恐怖の塊だった。


 その夢の中で俺はイスティリを喰い、メアを喰い、そしてそのまま<<悪食>>に誘導されるがままに付近に居た全ての生き物を食べたのだ。

 

 最後に残ったのはセラだけであった。


(私を食べなさい、セイ)


 悲しそうに彼女は俺に語ると、その身を差し出す様に口元まで寄って来た。


「セラを食ベル訳無いダろ? 俺ノ仲間ナんだカら……」


 その言葉は全くもって空虚であり、現実味が無かった。

 俺はそう言いながらも震える手でセラを掴むと口に運び入れたのだ。


 ガリゴリという咀嚼音は甘美な音色。

 砕けていくセラの体は甘い甘い砂糖菓子の様に感じられた。


 自然と笑顔が零れ、嚥下するのを躊躇い、口の中でゆっくりと擂り潰す……。


(やめろ! やめてくれ!)


 俺は気が狂いそうになった。

 肉体は完全に<<悪食>>の支配下に置かれ、俺は悪食の為に存在しなくてはならない受け皿にしか過ぎなくなっていた。


 そうして、セラを飲み込むと俺は次の獲物を探し出した。


(これ以上、これ以上はもうやめてくれ……)


 声に嗚咽が混じるが、歩みは止まらない。

 俺は、いや<<悪食>>は人の気配を感じると猛然と駆け、即座にその者を餌食にする。


「ハハハ。ナント言ウ美味サダ。神話ノ時代ヨリ受ケ継ガレテキタ我ハ、ヤハリ人ノ身デハ収マラン。コレヨリコノ世界ヲ全テ喰ライ尽クスマデ我ハ止マラン!」


 <<悪食>>はそう言うと俺の体を動かし更なる獲物を探し、疾駆した。

 

 次々と飲み込まれていく人々。

 俺はその様子をただただ見ているしかなかった。


 遂にはドゥアに繰り出し、まさしく<<悪食>>の名の通り、全ての者を、物を飲み込み……町一つを飲み込んだ所で体がバチン弾けた。


 最早かつて俺であった肉体は、無数の口と無数の手を持つ醜怪極まり無い巨大な肉塊へと変容し、手に触れるモノ全てを口に運び入れる、ただそれだけの存在へと成り下がった。


 俺は<<悪食>>を制御出来無かったのだ。

 

(もう、見たくない……)


 しかし執拗に<<悪食>>は俺に固執した。

 俺の精神は崩壊もせず、かと言って気が狂う事も出来ぬままに、<<悪食>>がウィタスの全てを飲み込むまで存在し続けた。


 受肉し続けるためには俺が必要なのだ。

 

 かつてウィタスが存在した空間を彷徨いながら俺は考える……。


(次ハ……何ヲ食オウ?)

(次ハ……何処ヲ喰ラオウ?)

(次ハ……ドノ世界ヲ飲ミ込モウ?)


 俺はウィタスの事を考える。


( 美 味 カ ッ タ ! )


 世界を救おうと語った男は、逆にその世界を滅ぼしたのだ。


「!!!」

 

 そこで、俺は唐突に目が覚めた。


「今のは……夢……なのか?」


 余りにもリアルな夢に俺の体はびっしょりと汗まみれで、心臓は今にも爆発しそうなくらいバクバク言っていた……って、あれ?

 俺はよく考えたら心臓を破裂させて死んだよな?

 胸の辺りを触るが、空洞はおろか傷の一つも無ければ痛みも無い。


 フーッっとため息を付いてから、記憶を遡ってみようと努力してみる。

 と、その時、俺の左右から聞きなれた声で囁かれた。


「……おはようございます。セイ様」

「セイ……お帰りなさい」

「うおっ!?」


 俺はびっくりして毛布を跳ね除けた。

 

「「きゃっ」」


 俺は目をひんむいて驚いた。


「おおおお俺はまだ夢を見ているのか!? いやこれは夢に違いない!」

「んもー、セイ様。ぼく達のハダカ見たくらいで動揺しすぎ! セイ様だってハダカなんだよ!」

「うおっ!? 何で俺まですっぽんぽんなんだ!?」

「そりゃボク達がひん剥いたからです!」

「ボク達?」


 その言葉に毛布を搔き集めて肌を隠そうとしていたメアがあわあわして両手でジェスチャーしながら弁明し始めた。


「こっ、これはっ。そのですね。あのですね……イスティリが……」

「えーっ!? メア、ボクを売るのっ!? そんな事をする人はこうだっ!」


 イスティリはメアの毛布を引っ掴んで奪うと自分の体に巻き付けた。


「ひゃ!?」


 ばるんばるるん。

 涙目になりながらメアが胸を隠すが零れ出る……零れ出てる。


「俺は何を見てるんだ……でっかい……」

「ギャー!? 逆効果だー! さ、セイ様。ボクのも堪能してくださって結構ですよ!」


 対するイスティリも毛布を置いてドヤ顔で胸を反らすが……。


「……なんかゴメン……」


 その瞬間、イスティリにガブリと首筋に噛みつかれた。


「あだだだだだ!! ちょ、痛い痛い痛い!? 千切れる! 肉が千切れるから!?」


 俺は泣きながらベッドの上でその拘束を外そうともがいた。


「むうふふんんうぬうに?」

「はいっ! もうそんな事は口が裂けても二度と言いません!」


 俺は僅か数秒で敗北した。

 イスティリは仕方ない、という風に離れるとキシシッと笑った。


「良かったー。いつものセイ様だ」


 そういうと抱き着いて来て俺の胸元で頭をグリグリとした。

 後ろからメアも抱き着いてきて、肩口にポタリと涙を零した。


「セイ。わたくし信じていましたよ……」

「みんなに迷惑かけてしまったようだな。ごめんな」

「ふふっ。ここに居る者はセイの為なら命など惜しくもありませんよ」


 メアはそう言うと俺の頬にキスをしてから離れた。

 イスティリは俺の胸元にゴッゴッと頭を当てて催促していた。


 俺はイスティリの髪を念入りにくしゃくしゃにしてやると、彼女もやはり俺の頬にキスしてから離れた。


「まー今回はこれで許してあげるかな! 今度ボクより先に死のうとしたら容赦しないからね!」

「悪かったよ、イスティリ」

「はいはい。次は行動で示してください! <<悪食>>なんかに負けずにボクと生涯を共にするのです!」


 メアが一瞬ジトッとこちらを見た!

 

「イスティリ? どさくさに紛れて抜け駆けしようとしませんでしたか? 今」

「そ、そんな事ななないよ? やだなーメア」


 そこに何処からか現れたセラが来て俺の頬にぶち当たった。


(セイ。お帰りなさい。わたくし、本当に何もかもがギリギリ過ぎて心臓が破裂するかと思いました!)

「ごめんな、セラ。次はもっと死なないよう頑張るよ」

(うふふ。もし次そうなってもわたくし達がまた助けますよ!)


 セラは少し何かが変わった様に思えた。

 具体的に何が変わったかと聞かれれば答えようがないのだが、何か心境に変化があった様に思えた。


 と、考えていると「バーン!」と扉が開いて一人の少女が入って来た。


「ここにセイ様がいらっしゃるんですね! セイ様! セイ様ぁ! フエです! 貴方の許嫁モリスフエがお見舞いに馳せ参じましたよ!」


 真っ裸でベッドに三人、そこに現れる降って沸いた許嫁……。

 スクワイだからイカだと思っていたモリスフエは、真っ白な肌に真っ白な髪の毛の……少しイカっぽい容姿の「人間」に見えた。


「セセセセイ様? いいいいい許嫁? まさかまさか……」

「セセセセイ? いいいいい許嫁? まさかまさか……」

「落ち着け、イスティリ。それにメア。俺も今初めて聞いた」

 

 何でそこで見事にハモるのかは謎なんだけど、俺の一言で二人の誤解は溶けたのか、二人ともニコニコしながら下着をつけ始めた。

 

 そこに件のモリスフエがツカツカとやって来て、靴のままベッドに上がると俺を目いっぱいビンタした。


「まだ会っても居ないのに浮気とは良い度胸ですね! お父様に言いつけますよ!」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はあんたの事は手紙で知っているが、今日会うのが初めてだし、許嫁にした覚えもないんだが!」 

「それでも許嫁は許嫁です! 今日よりフエの許可なく人と会う事を禁じます!」

「うーん。勘弁してくれよー」


 イスティリとメアは面白そうに俺とモリスフエを見ていた。


(パッと出のイカ娘がボク達に勝とうなんて百年早い!)

(そうよそうよ! セイ、ズバっと袖にしてしまいなさい!)


 ……聞こえてるから、ね?


 俺は丸裸のままで思案していた。

 

 と、怒りが覚めてきたらしいモリスフエが俺を……上から下までゆっくりと見て……「ギャーッ」っと悲鳴を上げると泡を吹いて倒れてしまった。 


「うーん。勘弁してくれよー」


 俺は最早どうしていいのか分からなくなった。

 後少しでドゥア編も終了です。

 ここまで続けられたのも皆様のおかげです。

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