4 異世界へ
俺はミュシャとテマリの選んだ服を着込む。
まだ開けた事の無かったドアが開いて、誰も居ない小部屋が見えたのには助かった。
その瞬間ミュシャが「えっ」と声を上げ、テマリが舌打ちしした所を見る限り、シオが手配してくれたんだろう。
旅装、といっても過言ではない頑丈そうな衣服に、編み上げのブーツ。
良かった……テマリが良いと言っていたショッキングピンクの柄シャツじゃない……実用的な衣服だ。
着替えている内に、体に付着していた血も掻き消えて清清しい気分になった。
これもシオのサービスなんだろうか?と思いつつ元の部屋に戻ると、テマリがシオに絡んでいた。
「シオどのには分からんだろうが! わらわはセイが恥じらいながら着替えるのを楽しみにしておったのじゃ! くぅぅ~!」
おいおい、そこのフリーダム女神? あとミュシャも何故コクコクと頷く?
俺の冷たい視線に気づいた二人は、パッとソファに座ってお茶を飲んでるフリをした。
「おお! 馬子にも衣装じゃな! 流石わらわとミュシャが選んだだけの事はあるわ!」
白々しくこちらを向くテマリ。
頑なにこちらを向こうとしないミュシャ。
(これは背嚢です。中に路銀を入れておきますね)
助け舟を出したのか、間髪いれずシオが会話を繋いだ。
テマリは少しホッとした顔をした。
「セイ、これがウィタスでの通貨です。これが一スロン青銅貨、こっちが十スロン銀貨で、これが百スロン金貨。無駄遣いしなければ一年くらいは持つはずです」
しれっとミュシャが横に来て、背嚢の中にあった皮袋を開け、通貨の説明を始めた。
大体ウィタスの都市部で昼食が七スロン程であるらしかったが、皮袋が弾けそうな位の硬貨が入っていたので確かに一年くらい持ちそうだ。
金が尽きたら通訳でもしながら食いつなぐのが良いかな?
そんな事を考えているうちに、遂にその時が来てしまった。
(セイ。ウィタスへの門が開きますよ)
唐突に光の門が目の前に現れた。
それはウィタスへの門であり、未来への階段。新天地への切符。そして別れのポータル。
ミュシャは背嚢に皮袋をゆっくりと落とし込む。本当にゆっくりと。
背嚢の口を結び、俺の肩口にショルダーベルトを引っ掛けようと背伸びする。
俺は彼女を気遣って少し屈んだ。
ミュシャは素早く俺の頬にキスをし、少し照れたような顔をして離れた。
「……いってらっしゃい。セイ」
「ああ、行って来るよ」
「向こうでも元気でな! わらわはセイを信じておるので大丈夫じゃ」
「ええ、俺は津波になりますよ」
「その意気じゃ!」
(ウィタスに神が産まれたら、その神を通じてこちらと会話ができるようになりますよ)
「そうなれば、またここに来れますか?」
(ええ、もちろん。その時が来るまで、私はセイを待ちましょう)
俺は光の門をくぐり抜け、遂に異世界ウィタスへと辿り着いた。
細かい点を修正。
4話を3話に統合しなかったことを今更ながら後悔中。