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46 ハイ一族の双子、コーとダレン

 オグマフはメアからの緊急の連絡を受けてすぐさま行動を開始した。

 早馬に詳細を書いた手紙を持たせて出し、近隣の魔道騎士に会議の日程変更を知らせる。

 間に合いそう無い者には<遠声>と呼ばれる念話で説明した上で出来る限り早く来るように伝えた。


 小一時間もすると二人の魔道騎士が馬を駆って彼女の屋敷に現れた。


「会議は明日だというのに、お前達はもう来てくれたのか? コー卿、それにダレン卿」

「はい。少しでもお役に立ちたく参上いたしました」 


 コー卿は右の頬に切り傷のある青年で、亜麻色の髪を短く刈り込んでいた。

 対するダレン卿はコー卿の後ろに控えて眠そうに欠伸をしている女性で、長い亜麻色の髪を銀の環で束ねていた。


「コーは真面目さんだから。私は戦場に火が灯るまで本気になる気はないです」


 ダレンはまた一つ欠伸をしてから呟いた。


「ははは。相変わらずダレン卿は気ままじゃのう。それでも来てくれた事に感謝するぞ」

「双子だから揃って行動する必要はないんだよ。コー?」

「そう言うな、ダレン。メア姉上の情報から察するに、ゼルウィが証拠隠滅を図る前に彼の自室を調べるべきだと思ったのだ」


 その言葉にオグマフも頷く。


「私もそう考えていた所だ。しかし罠が張られている可能性も考えて、躊躇っておった」

「なら早速行きましょう! 三人で補いあえば罠などあって無いような物です!」

「そうじゃの、では行こうか」


 彼らがゼルウィの自室前に到着するとコーが杖を取り出し、詠唱を開始する。

 内部に人が、敵対する人物が居ないか精査する呪文を唱え、人が居ないことを確認してから報告する。


 次にダレンが詠唱を開始する。

 彼女はその部屋に物理的・あるいは魔法的な『罠』が張られていないかを検知できる呪文を唱え、何も無いことを確認してから無造作にドアを開けた。


「罠は無い、人も居ない、鍵もかかっていなかった。完全に逃げたんじゃないかな?」


 室内に入ると、全ての調度品が破壊され床に散らばっていた。


「なるほどな。私の得意とする呪文<仮初の命>もこれでは使えん」

「オークの秘術……見てみたかったなぁ」


 ダレンが残念そうに呟くと、コーは引き出しを開け、床に這いつくばって証拠品を探し始めた。

 そうして彼がベッドシーツの下から短剣を見つけ出すと事態は進展した。


「恐らくは護身用でしょうが、これだけは破損もせず忘れ置かれたのでしょう」

「ふむ。さすがはコー卿。では早速<仮初の命>を使うとするか」


 オグマフが詠唱を開始するとダレンは興味津々で短剣を見つめ始めた。

 

「短剣よ……短剣よ? お前の主人ゼルウィはどこに行った」

(冥府へ旅立った)

「どういうことじゃ?」

(耳長と仲間割れをした。我が主は独り逃げようとしたが叶わず、我を使う間も無く死んだ)

「シーツの下に居ながらにして分かったと申すのか?」

(我は主の魂を与えられた魔道具であるゆえ、主の死に関しては敏感である。仲間割れ云々は漏れ聞こえた声のみであるから信用しなくとも構わない)


 ふーむ、とオグマフは思案する。


「確かゼルウィはエルフの使用人を一人抱えておったはずじゃ。おそらくはそのエルフが鍵を握っていそうじゃな」

「となると、エルフに魔族は居ないので……<変身><憑依>辺りで潜伏していたか、あるいはゼルウィ自身が<隷従>で駒にされていたか……」

「コー、そのエルフが寝返った可能性もあるのよ」

「とは言え、ゼルウィはもう殺されている、と考えたほうが良さそうじゃな。仕方あるまい、野心の代価じゃ」

  

 それからオグマフはため息をついた。


「我が屋敷に魔王種が出入りしておったなど、恥ずかしくて死にそうじゃわ。防犯体制を見直さなければ」

「恐らく、ゼルウィの使用人という立場を最大限に利用していたのでしょうね」

「コーの言う通り。ゼルウィが手引きした上での事だから……」


 オグマフは少し沈黙してから「お前たち一族は心優しい者が多い」と微笑んだ。


◇◆◇


(セイ、起きてください。朝ですよ?)

「おはよう、セラ。そっちは何も無かったかい?」

(ええ。お部屋には誰も来なかった様子です)


 俺はゆっくり起き上がると、イスティリは木の実の前で正座していた。


 メアは以外に寝相が悪く、毛布はおなか辺りでくしゃくしゃに丸まっており、彼女のドレスは大きく乱れてしまっていた。

 上下の肌着が薄いピンク……あ、いやいや、うん。

 俺は何も見ていない何も見ていない、そう言い聞かせつつ、丸まった毛布を改めて掛けてやると彼女はフニャっと寝たまま笑ってから寝返りを打った。


 もう少しだけ寝かしておくかと思い、井戸の水を飲んでからイスティリを見に行った。


「二個……半分ずつ食べるとして五人いるから……ボクが諦めれば……いやいや、ボクが一個食べて、残りを四等分すれば全員に食べてもらえる……」


 彼女はしきりにブツブツ言っていたが、自分が二個とも食べるという選択肢がない所が可愛らしい。


「イスティリ、おはよう」

「お、おはようございます! セイ様」

「木の実、もう食べれそうだね」

「そうなんです。なんでこの時に熟すんですかね? おかげでボクは究極の選択を迫られています!」


 彼女はそう言いながら斧の石突き部分をクルクルと回し始めると、石突き部分は脱落して小型のナイフに様変わりした。

 そうしてから木の実を捥いで二つに割り始めた。


「皆さんー、朝食ですよー」


 イスティリが大声を上げると草むらからイズスが飛び出してきた。


「まっ、まさか今ここで朝食と言う事は!?」

「そのまさかですよ」


 イズスは感激して声も出ない様子だった。

 トウワは寝ているのかフワフワと彷徨いながらゆっくり移動していたが、少しずつこっちに向かっているのが見て取れた。


「今日は一人半分ずつです!」


 イスティリがイズスと俺、そしてトウワに半分になった木の実を配ると、そのままメアの元に行って彼女を起こして木の実を手に持たせた。


「これは?」

「セラの世界で生る魔法の木の実! すっごくすっごく美味しいんだよ!」


 そう言うとイスティリは種を植え始めた。


「イ……イスティリ嬢の分は……?」

「……」


 イスティリは聞こえないフリをしていた。

 俺がそっと彼女に木の実を渡すと、彼女は少し躊躇った後で木の実を受け取って、満面の笑みを浮かべた。

 それを見たイズスは安心した様に木の実に噛り付いた。


(うーん。俺はやっぱ食わない。セイが食えよ)


 木の実はまた俺の元に半分戻ってきたが、それもまたイスティリに渡した。

 イズスはニコニコした後で「心優しい子が一番得をするのが真理じゃ」とイスティリに囁いた。


 結局イスティリが一個食べた所で、俺たちに照れ笑いをした。

 

 向こうでメアは木の実を食べた後で放心している様子だったが、意識を取り戻すと慌ててこちらに向かってきた。


「セイ! あの……あの木の実をもう少しで良いから食べたい。お願い!」

「もう無いんだよ。ごめんな」


 メアは心底落胆していたが、イスティリが彼女の元に行って何かを耳元で囁くと「ぱぁぁぁ」と笑顔になってイスティリの手をつかんで振り回した。


「さて、じゃあオグマフ殿の所に行こうか?」

「はい!」

「私はここで待っていることにするよ。用があったら呼んでくれ」


 今回もイズスは留守番ではあるが、セラの中での留守番なので緊急時には出てもらう事にするか。


「イスティリは今回セラの中で待機してくれるか? オグマフ邸までは俺とメアがトウワと蜘蛛を使い移動し、それからイスティリに合流してもらおうと思う」

「何を言ってるんですかセイ様? ボクはセイ様の盾ですよ!」

「そう言ってくれるのは嬉しいが、今狙われてるのはイスティリの可能性が高い様に思う。そのお前が相手から視認出来ないのはこちらの有利に働く」

「理屈は分かるけど納得出来ないです!」


 結局俺はイスティリを納得させることが出来ず、彼女は俺たちについて走ることになった。

 

(出来るだけ早く目的地に着けば良いんだな? まかしとけ!)


 しかし予想に反して特に襲撃も無く、俺たちはオグマフ邸に着いてしまった。


 着いた所でメアがモジモジとし始める。


「み、皆が来る前にオグマフ様に湯を借りよう。イスティリ『さん』も一緒に湯に入ろう!」

「イスティリで良いよ! セイ様! お風呂入ってきますー」


 どういう心境の変化があったのかメアはイスティリを『さん』付けで呼んだ。

 多分、木の実の件でイスティリが彼女に何か囁いたことが原因だと思うのだけど、その答えは彼女たちにしか分からないな、と思いつつ、俺はオグマフが来るのを別室で待っていた。

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