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35 冒険者ギルドにて

 ゴモスは両手を大きく広げて熱弁を奮い始める。

 

「ギルドの人員を割いて焼けた厩舎の床を剥がしてみた所、実際封印が施された扉があったのだ。封印の仕様から言って第二十二王朝の物だと思われる」

「二十二王朝。魔王に対して徹底防戦で対応して大失敗した王朝だよな」

「ハリファーの言う通りだ。勇者が降臨するまで守りきれば良いと考えて篭城作戦を敢行した所、魔王軍に兵糧攻めにあって内側から瓦解した間抜けな王クワナの時代だ」


 何でも魔王到来時には様々な戦略や戦術で対応するのだが、時には失敗して余計な死者を出す場合もあるのだとか。


「そのクワナの治世では防戦の中で資産を地下に秘匿するのが大変流行したらしく、今でも時々こうやってその当時の財宝を隠したダンジョンの二割がクワナ統治の時代だ」

「ハッ。流石は本職。詳しいねぇ。で、ラビリンスの可能性は無いのか?」


【解。ダンジョンは資産隠しの意味合いが強い。持ち主あるいはその子孫が必要に応じて開封し資産を取り出すまでゴーレムなどの魔法生物に守護させる。内部は入り組み複雑化して侵入者を阻む。それに対してラビリンスは偽ネストである。ダンジョンを模した入り口の中にはネストもどきが形成されれており、侵入者を殺す罠や怪物が配置されている。当然勇者側の戦力を削る為だけに存在しそれ自体が罠である】


「それは開けてみなくちゃ分からんが、最悪ラビリンスでもドゥア領内のラビリンス撲滅ともなれば報奨金が出るぞ。報奨金なら下手なダンジョン攻略より美味いし、場合によっちゃ市民権や年金が貰えるぞ」


 ゴモスは以外に手堅い生活を夢見ているのかもしれないと思った。

 それにしても普段は沈着冷静という言葉が似合う彼がこれだけ興奮気味に話すのは珍しい。


「一応ダンジョン攻略ともなるとギルドを通して申請を出さなきゃならんし、俺達だけでは無く後何人か人も欲しい。特にこの面子だと魔術師が居ないのが痛いからな。予定では三日後から攻略開始となる予定だ」

「分かった。所で俺みたいな素人が行っても大丈夫なのか?」

「セイは実際戦力にはならんだろうな。だがセイが来なくちゃイスティリが来ない気がするんだが?」

「ははは、正直だな。なるべく迷惑をかけない様に頑張るよ」

「セイ様はボクが守るので大丈夫です!」


 こうしてダンジョン攻略は三日後の朝にまたここに集合してから改めて、となった。


「ハッ。抜け駆けされんように俺様のダチ二人に見晴らせてる。信用出来る奴だし、攻略に成功したら少し分け前をやってくれ」


 ベルモアが最後にそう付け加えて、その日はそれでお開きになった。


「セイ様、ご飯にしよう!」


 その言葉にハイレアが「私もご一緒していいですか?」と合流してきた。


「昨日の決闘でイスティリちゃんが始めに出た時はハラハラしたんですが、杞憂でした。実力に天地の差があるって言うのはああいうのを表すんですね」

「ボクは一年三七二日ずっと戦闘技術を磨いていたからね。誕生日以外は休み無しなんだよ!」

「イスティリちゃんの次の誕生日はいつ? 幾つになるのかな」

「うーんとね。ウルの月の三だから後二百日くらいかな? 次で十五だから成人だよ!」


【解。ウィタスでは種族によるがおおよそ満十五歳で成人として扱われる。これは魔族側も同様であり、成人に達した魔王種が魔王になった場合例外なく強種となる為警戒される】

 

「所でセイ様。これはボクが頂いても良いんですか?」


イスティリが現金の入った皮袋を差し出してくる。


「ああ。それで好きな物を買うといい。正当な報酬さ」

「分かりました。じゃあ今日のお昼はボクが奢ります!」


 俺たちはイスティリに奢って貰った昼飯を食べながら少しゆっくりした。


「ええっと、イズスとトウワには金貨二枚ずつ渡しておくよ。必要なものはこれで買いなよ」

「なんじゃ!? セイ殿は本当に優しい御仁だのう。ありがたく頂いておくぞ!」

(偉く気前がいいな。しかし俺の体じゃ持てん。セイに預けておくからよろしく)


 それからイスティリが武器屋で鋼鉄製の斧を選ぶのを見て、イズスが魔術用に杖が欲しいと言うので魔術用品の専門店に行った。


「うむむむ。セイ殿! 一番安い杖で金貨三枚じゃ! 恥を忍んで、あと一枚融通しては下さらんか?」

「俺の世界には『安物買いの銭失い』という言葉がある。そっちの金貨九枚のやつにしたらどうだ?」

「確かに安いやつはそれなりの性能でしかないが……あの九枚のやつはこの店で一番高い奴じゃぞ!?」

「あの真っ黒な宝石の付いた杖。きっとイズスに似合うと思うよ」

「そ、そうか。磨かれた黒曜石が付いておるな。わ、分かった、これはセイ殿に借りておく」


 イズスは頬を紅潮しながら杖を手に取ると、杖はシュンと小さくなって彼女の手に収まる大きさになった。


「おおっ。流石は金貨九枚。魔力の流れが綺麗じゃ。この子に名前を付けよう! お前は今日から『ピリオル』じゃ」


 杖に名前を付けて頬ずりしながら、イズスは定位置となりつつある俺の肩に留まって「ありがとうな、セイ殿!」と軽くキスをした。


「むむっ。イズスさんまでボクの敵に!?」

「あっ、いやいや。これは感謝の印じゃ。深い意味は無い」


 イズスは何故か焦りながら弁明していた。


「そう言えばオグマフの晩餐会に出るんだった。そろそろ帰るか」

「え? セイも晩餐会に出るんですか」

「ハイレアも出るのか?」

「いえ、私では無く姉さんがお呼ばれしています」


 おお、メアも晩餐会に出るのか! とは思ったが顔には出さずに置いた。

 

 なんせイスティリの奴が眉を吊り上げて怒るからな……と思ったら気配で察したのか彼女に足をガスっと踏まれてしまった。


「セイ様。今鼻の下……一瞬伸ばしませんでしたか?」

「伸ばしてなんかいない伸ばしてなんかいない伸ばしてなんかいない」


 必死な弁明が逆にアダになって、俺はもう一度足を踏まれてしまった。

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