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176 復権 ⑩

 ユノールザードと名乗った戦士は、外壁から跳躍するとフロストキンの首領マーダットの元へと舞い降りた。


 俺は異能<思念伝達>を解放し、トーラーの作戦を皆に伝える。

 戦士達は声に出さず、その作戦を遂行するために散開し始めた。


「ユノー!! 貴様、ワシの体にいったい何をした!! 何だ!! この力は!?」


 マーダットは俺たちから視線を外さずに怒鳴り散らした。

 そのマーダットの言葉にユノールザードは呆れた、という顔をした。


「あら? 本質的には理解しているんでしょう? 貴方は同胞を糧に異能を覚醒させた。それだけよ?」

「何故だっ!! 貴様はワシの味方ではなかったのか!?」


 隙を伺っていたペイガンがマーダットにクロスボウの矢を放つが、その矢はユノールザードによって鷲掴みにされてしまった。

 俺は思い切ってモーダスを使おうかとも考えたが、スヴォームと結託して反逆してきたあの一件を考慮するなら、彼を使うのは得策でない事ぐらいは理解できた。


【第二層神格:モーダスは現在貴方様の命令を如何にして曲解するか、を模索しております。現在ですと『指定範囲をより多く取り味方ごと飲み込む』、もしくは『指定範囲外に繰り出し、盛大に誤爆する』事を画策しております】


 やはりそうか。

 そしてスヴォームは危険すぎる上に、瞑想中のディバを除くことになるから、俺が使えるのは現時点ではルーメン=ゴース一柱だけとなるのだった。


「ええ。私は貴方の味方よ」

「では、何故だっ!!」

「ここを生き残ったら教えてあげるわ」


 じりじりと包囲網を敷く中、フロストキンの首領は深いため息をつく。

 そうして、意を決したかのように、「分かった」と呟くと斧頭を下に向け、石突の上で両手を組む。


「では、ワシはお前が戦うのをここで見ておる。お前がワシの味方だと言うのならば、ここをお前一人の手で突破してみせよ」

「はははっ!! マーダット!! 貴様言うようになったなァ! 何に感づいたのかは知らないけれど、それがここを突破する一番簡単な方法よねっ」


 ユノールザードがグンガルに突撃した。

 グンガルは辛うじてその攻撃を両手斧で防いだが、肩が脱臼してしまったのか、苦しそうに右手をダラリと下げた。

 そこにユノールザードの追撃がくるが、コモンが割り込んで、グンガルは後方に下がった。


 イスティリがユノールザードを背後から切り付けるが、当たらない。

 更にはフィシーガがその片手槍を繰り出したが、穂先を握り込まれてしまった。


「わわっ!?」


 ゴリリッと異質な音がしたかと思うと、槍の穂先はユノールザードの手の中で粉々になってしまった。

 イスティリがチラッとこちらを見る。

 俺は軽く頷くと、トーラーを少しずつ前進させた。


『時間を稼いでくれ。この人の持つ聖水をマーダットに振り掛ければ彼は異能を失う』


 俺の下した命令を彼らは決死の覚悟で遂行してくれる。

 その中で、俺もまた、ルーメン=ゴースの蛇たちを密かに呼び出すと、彼らを乱戦の中に散らしていった。


 俺の袖を掴むようにしてリーンが震えていたので、彼女にセラの中へと戻るように指示したが、彼女はかたくなにそれを拒否すると、目に涙を溜めながら戦いを凝視していた。 


 イスティリが奮戦する。

 それを援護するようにコモン隊が駆ける。

 だが、一瞬の隙を突いてユノールザードがその包囲を脱した。


「待て!!」

 

 唐突にシンが俺の前に出る。

 俺の眼前にはユノールザードの斧が迫っていた。

 シンが彼女の二の腕に切り掛かるのと、彼女の斧が俺の眼前に振り下ろされるのはほぼ同時だった。


 俺は潜ませていたルーメン=ゴースの蛇たちを、ユノールザードに飛び掛らせた。

 彼女の斧の柄は捥げるようにして掻き消え、斧頭は俺の頭の上を轟音を立てながら飛んでいった。

 

 急にリーンが俺に力いっぱいしがみ付いた結果、俺はバランスを崩してしまった。

 ほんの少し前まで俺の頭があった場所で、盛大に空を切るユノールザードの鉄拳。


 ユノールザードはその拳が当たると信じ込んでいた節があった。

 驚きの表情を見せる彼女の、その上体が泳いだ所に、メアが剣を突き入れ、シンが短剣を薙いだ。


 だが、致命傷には至らず、ユノールザードは大腿とアバラ辺りに傷を負っただけで素早く反転し、距離を取った。

 距離を取る瞬間に、彼女は斧の柄をトーラーに投げ込んだ。

 しかし、シンが短剣を投擲すると、短剣は見事に斧の柄に突き刺さり、草むらへと飛んでいってしまった。


「チッ!!」


 ユノールザードはシンに狙いを定めた。

 彼に鉄拳を叩き込もうと振りかぶった所に、イスティリが追いつき、その鉄拳に斧を合わせた。

 斧は鉄の手甲に覆われたユノールザードの拳を捉えた。

 

 ユノールザードの手甲はバラバラに砕け、その拳は血に塗れた。

 その血を彼女はペロリと舐めると、「良いねぇ!! これでこそ戦いだ!! 私が求めているのものだ!!」と満面の笑みを見せた。

 俺はその笑顔にゾッとした。


 イスティリは容赦なく更なる追撃を加える。

 ユノールザードが難なく回避して見せる中、彼女の目にアーリエスの空飛ぶ金貨が突き刺さった。

 右目から血とも何とも言えない液体を滴らせながら、ユノールザードはイスティリの斧を側面から無傷なほうの拳で叩き壊した。


「ゴーレム使いかっ!! 中々の精度だが、いかんせん威力は蚊ほども無いな!!」


 ユノールザードはまだ目に刺さっていたらしい金貨をアーリエスに投げた。

 アーリエスは予測していたのか、それを回避する。

 合わせるようにレキリシウスがユノールザードの背後からフレイルを振りかぶった。


 イスティリがユノールザードに体当たりする。

 組み合いになるが、上を取ったユノールザードはイスティリに前蹴りを食らい、初めて苦悶の表情を浮かべた。

 双方が立ち上がった所で、新たな告知が俺たちの耳に届いた。


【告。マーダット=ラ=キルギに与えられた異能<同属吸血>は、所定時間内に生贄が規定数に到達しませんでした。よって、これにより生じた不足分を充填するため、この区域で最も近辺に居るフロストキンを強制的に徴収致します】

「なっ!?」


 驚いたのはマーダットだ。

 彼は自身の頸を自身の手で絞め殺しに掛かり始めた。

 ……なんと、この区域で最も近辺に居るフロストキンにマーダット自身が含まれてしまうのか。


「なんだとっ!!」


 これはユノールザードにとっても不測の事態だったのだろうか、彼女は踵を返すとマーダットの頸に掛かったその手を、力で引き剥がしに掛かり始めた。

 そして、その隙を見逃すイスティリ達ではない。

 彼らがユノールザードに向かおうとしたその瞬間、轟音と共にマーダットとユノールザードに青白い雷電が叩き付けられた。

 

「ぐ……。ここで来るか、ガリアス」

「ええ、まあはい。今、美味しい所ですよね?」

「……」


 ガリアス、そう呼ばれた男は魔術師ローブを着た青年で、微笑を絶やさぬまま門を悠々と抜けて歩み寄ってくる。

 彼はその笑みを貼り付けたまま、先ほどの雷電を更にユノールザードとマーダットに放つ。


「メア卿!! あれは!? 見たことも無い呪文です!!」

「わ、わたくしも、初めて見ます」


 ヘラルドがメアに駆け寄るが、魔術に長けた彼らが知らない魔法であるらしかった。

 

 ユノールザードはその雷電の中でマーダットを救出することを断念したらしかった。

 彼女は悔しそうな顔をしながら、外壁まで飛んだ。

 

 遂にマーダットは自身の頸を、その腕で、捻じ切った……。

 痙攣を起こしながら頭を失った彼の体はフラフラと数歩歩いた後、ピタリと立ち止まった。


「いかん!! 悪魔が出てくるぞ!! 聖水を!!」


 トーラーが駆け出し、マーダットの体に瓶の中の水を振りまいた。

 それをユノールザードは怒りを抑えきれない様子で見下ろしていた。

 変な時間ですが一話UPします。

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