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152 鉱山都市ラザ ②

 いきなりの出来事に俺は唖然としたが、すぐさまコモン隊が壁を形成する。


 剣を抜いた騎士の中には一人だけ兜に青い角が付いていたが、どうやらそいつがコイツらのリーダーである様子だった。

 そいつが剣の切っ先を俺に向けて口上を述べた。 


「貴様がクド=セイチローだな!! 我らはデリアガル騎士団。貴様を拘束する。おとなしく縛に付けっ」

「まあ、落ち着けよ。拘束する理由は何だ?」

「何様のつもりだっ。反逆者が!!」


 反逆者と言われてもな。

 俺はメアに食事の支払いを頼んだ。

 毎度の事ながら、俺はつくづくこういう輩に気に入られるようだ。


「おいっ。動くな!!」

「いや、支払いをして貰ってんだよ。じゃあ何か? お前達がここの支払いをしてくれるって言うのか? それとも、俺にここの代金を踏み倒せ、と?」

「……口の回る野郎だ」


 イスティリやコモン達は、そのやり取りを見て、俺が事を荒立てるつもりが無いことを察知した。


「支払いが済んだら、一緒に行ってやるよ」


 その言葉を挑発と捉えたのか、騎士の一人が俺に挑もうとした。

 が、レキリシウスがあっさりその騎士の剣を叩き落とした。


「貴様っ」


  青角野郎が吼える。


「セイ。支払いが終わりましたよ」

「そっか。じゃあ行こうか?」


 唖然とする騎士団であったが、それでも抵抗する様子が無い事で、剣を収める者も出始めた。


「失礼。武装を解除させていただいても?」

「拘束の理由は何なんだ?」

「内乱罪でございます。これ以上のご質問は、お控え下さいますよう」

 

 内乱罪?

 今さっきラザに到着したばかりの俺たちに、内乱罪?


 俺はしきりに頭を傾げたが、とりあえずコモン隊に、異能<思念伝達>で抵抗しないよう伝えた。


『ひとまずは様子を見よう。各自、危険だと判断したら、セラの中に逃げ込むように。コンキタンの兄妹とヘラルドにも、今許可を出した』


 コモン達は俺の思念伝達をはじめて聞いたが、動揺する様子も無く、指示に従ってくれる。

 彼らはしぶしぶといった体を装い、武器を手放していった。


 コンキタンの兄妹とヘラルドも、コモン隊に合わせて杖を置いてくれた。

 シンが短剣をホルダーごと投げ捨てる。


 ウシュフゴールもスカートに手を突っ込み、短剣を取り出して置いた。

 そう言えば、俺はウシュフゴールが短剣を欲しがった所までは記憶していたが、結局買った事を知らなかったな。

 彼女は太ももにベルトを着けて、そこに短剣を隠している様子だった。


「今、下着が見えたっ。とか思ったでしょ、セイ様?」

「そんなに俺は変態かっ。イスティリ」

「やーん。そんな事、口が裂けてもボクの口からは到底いえません!」


 いや、今言いましたよね? 

 俺はアーリエスに助けを求めたが、彼女はフマをまだ食っていた。

 一心不乱にフマを飲み込みながら、時々様子見に頭を上げていたが、テーブルにおいてあるフマを、全部食べてから出るつもりらしい。


 俺に礼儀正しく声をかけてきた男は、赤い房飾りの兜だ。

 彼はしきりに恐縮している様子だったが、同時に、俺たちが武器をあっさり放棄した事に安堵した様子でもあった。


 メアはコモン隊と違って武器を渡したくない様子だった。

 俺だってオグマフから貸与された神器を手放せとは言いたくなかったので、セラの中に投げ込むかと思っていたら、彼女は驚きの方法でそれをやってのけた。


「メア、右手が……」


 なんと、彼女はセラの世界に片手だけ突っ込んで剣を置いてきたらしく、右手がスコッっと消えていた。 

 当の本人もびっくりしていたので、咄嗟に思いついた神業なのかもしれない。


「ね、念じながらやったら、出来ました」

「そ、そうか……」


 イスティリが慌てて同じ事をしようとしたが、彼女は斧を振り回しているだけで、一向に消える気配は無かった。


「えっ、ええ~い!!」


 ブンブン!!

 ブンブンブンブン!!


「そこのお前っ。何をしている。後はお前だけだぞっ」

「ちぇーっ。駄目かー。今度練習しようっと」


 そこでメアが笑った。

 青角野郎が、イライラとした様子でそれを眺めていた。


 よく見ると、騎士達は二派に分かれているように思えた。


 一方は、俺たちが余裕綽々なのが気に入らないのか、嫌な顔をする青角派。

 もう一方は、丁寧に武装解除を要請してきた赤房飾りの一派で、彼らはどちらかと言うと、俺たちに同情的な顔を向けていた。


「さて、行こうか」


 青角が嫌そうな顔をして俺に口を開いたが、先手を切って赤房が大きな声を張り上げた。


「うむ。抵抗せんのは殊勝な心がけだ。これなら縄は使わないで良いだろう」

「はっ。モス様」


 赤房はモスという名であるらしかった。

 案外、青角とモスは仲が悪いのかもしれないと思ったが、後で聞いた所、俺以外の者もそう思っていたそうだ。


 俺たちは、宿の女将にお礼を言ってから出た。


「アンタら、悪い人だったの?」

「どうなんでしょ? フマ、ありがとうございました。あれって結構高い果物でしょ?」


 女将はその言葉に警戒を解いた様子だった。

 彼女は俺の背中をバシバシ叩く。


「誤解が解けたらまた食べにきな。今度は前もって伝えに来るんだよ。今日より腹一杯食わせてあげるからねっ」

「はい。ありがとうございます」


 こうして、俺たちは騎士団に護送され、鉄格子のはまった大きな岩屋に入ることになった。

 道中、街の住人に好奇の目を向けられたが、大半のものが、俺たちと目が合うと、目を逸らした。


「明日の朝、申し開きが始まる。それまでここにいろ」


 騎士団は、俺たちが全員おとなしく入ったのを確認すると、引き上げていった。


「いきなりで訳わかんねぇなぁー。セイ殿。これからどうされるおつもりで?」


 パルガが聞いてくる。


「俺も訳が分からん。だけど、情報を拾うまでは大人しくしていよう。最悪、俺が悪食で鉄格子を食うから、そこからセラに入って逃げよう」

「あー。よく考えれば、こんな鉄格子、セイ殿に取っちゃ蜘蛛の糸みたいなモンですもんね」


 俺の回答に、イスティリは眉を八の字にして泣きそうになった。


「ベリエスティリアス……。神斧大祭……。グスッ……」

「大丈夫だよ。今のは最悪の最悪の場合さ。それに、イスティリだけなら、メアの<変身>で姿を変えてもらえれば大祭にだって出れるさ」

「そっ、そうですよね。さっすがセイ様!!」


 ベソをかくのをやめたイスティリは、セラの中から沢山の毛布を抱えて出てきた。


「じゃあ、おなかも一杯だし、皆さん寝ましょう!! 毛布足したい人は言ってくださーい」

「そうだな。所で、リーンは?」

(揉め事が起きたら、赤の他人の振りしてたよ)

「まじか」


 トウワが教えてくれたが、リーンは以外に強かな部分があるようだった。


◇◆◇


 俺は妹と一緒に、始めてその神域に足を踏み入れた。


「わぁぁぁ!! きれいな星空!!」


 妹が歓声を上げる。

 美しい星空が広がるその世界は、セイ様に付き従う天使の中にあるらしかった。


 セイ様が先日、「セラの中で寝ようよ?」とコモン隊の皆に言っていた時、俺は正直何の事だか分からなかった。

 だが、俺達より先に雇われているコモン隊が断ると言うことは、俺も断っておいたほうが無難だと、咄嗟に「俺達も外で寝ます」と宣言してしまった。


 セイ様はしきりに残念がってはいたが、コモン殿は俺に軽く頭を下げた。

 彼は戦士団を率いる首領として、そういった上下関係を気にしている様子だった。

 

 少し遅れて、セイ様とヘラルドが降り立った。

 ヘラルドは驚愕を隠さず、遠くを見ようと<浮遊>を使い、失敗していた。

 彼は駆け足で大地を蹴って『世界』を見て回っていた。


「セイ様。この世界は……」

「ああ。ここがセラの管理する世界さ。エリーシャという神様が瞑想に使っていたそうなんだ」

「はあ……」


 俺は少し間の抜けた返事をしてしまった。

 妹とヘラルドも散策を終えて合流してきた。


「さて。皆も俺の事は少し分かってきた頃だと思う」

「はい」

「で、だ。俺は常に危険と隣り合わせだが、それでも、このウィタスを救おうとしている」

「はい」

「改めて、君達にお願いしたい。俺と共に、この世界を救う手助けをして貰えないだろうか?」


 ヘラルドは、セイ様は言い切るよりも早く、膝を付いて臣下の礼を取った。

 俺もすぐさまそれに倣うと、妹もゆっくりと同じようにした。


「オレは、貴方様が居なければ、今頃墓の中だった。オレの今のこの瞬間は、無かったんだ。存在しない筈だったんだ。異世界から来た貴方の薬が、オレを救わなければ、無かったんだ!」


 彼はそう捲くし立てると、素早く立ち上がった。


「命の恩は、命でしか返せない。このヘラルド、貴方様の生涯の忠臣でありたいと願っております」

「ありがとう。ヘラルド」


 俺は、膝を付いたまま、セイ様に告げた。


「正直、俺にはそこまでの忠誠は無い。妹も同じだろう。だが、一族再興の請願を成就する為、身を粉にして働く。その点に嘘偽りは無い」

「ああ。よろしく頼む。もし、俺の元を去るというなら、追いはしない。その時は、あそこの金貨を好きなだけ持っていくといい」

「はい。ありがとうございます」


 あの金があれば、領地をいくばくか買い戻す事は出来るだろう。

 だが、それでは『名誉』は取り戻せない。

 俺達は、一族の祖、ライネス=ビーストマスターの栄光を取り戻す為に、ここに居るのだから。


 俺は妹と目で確認しあうと、改めて伝えた。


「「我ら『兄妹』は、セイ様の為に力を尽くす」」


 セイ様は微笑んだ。

 その優しげな、そしてどこか翳のある微笑みを、俺は死ぬまで忘れることは無かった。 

 17日は休みます

 18日は更新します


 何時も読んでくださる皆様に感謝を。


 セイ・イスティリ・メア・ウシュフゴールにセラ。

 この5人のイラストを発注しました。

 一枚絵ですが、振込みも済んでいますので、年内にUP出来ると思います。

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