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145 先代勇者ハルガル 中

 ハルガルが来るまでに、メアやコモンに聞いてみる。


「俺の国の物語だと『魔王を倒した勇者は、その国のお姫様を娶って、その後は安らかに暮らしましたとさ』ってなるんだけどさ、この世界じゃちょっと違うみたいだね」

「ええ。どちらかと言うと……魔王討伐後は厄介者扱いされます……」

「確かに。憧れではあるが、勇者になれって言われたら困るかな。魔王を倒した後、出身地に帰ってひっそり暮らす奴の話を聞いたことがあるし、名誉以外には何も手に入らない気がする」


 メアが歯切れ悪く応え、コモンもそんな事を口にした。


 うーん。

 世界を危機から救った人物に対して、幾らなんでもあんまりな仕打ちじゃないのか。

 

「セイの考えている勇者と、わたくし達が考えている勇者では、乖離がありますね」

「みたいだね」

「わたくし達が考える勇者像は、あくまで人類が魔王を倒しきれなかった場合に降臨する、切り札です」     

  

 切り札。

 なんともドライな響きだな……。


「イスティリやウシュフゴールの、魔族側からの視点ではどうなんだ?」

「んー。魔王がチョキだとすると、勇者はグー? 始めから仕組まれてる気がします。ザサール様も、王都を落としたのに、最後は勇者に倒されました」

「私は、教育係が居たわけではありませんので、そういった知識はヒューマンの物に近いので何とも……」


 なるほどな。

 だが、メアやイスティリの発言からすると、魔王は決して世界を征服できない気がする。


「セイ様の考えてることは分かりますよ。けど、魔王とその配下達は、敗北する度、その都度、戦術・戦略を練り直し、いつの日にか勇者を倒し、世界を征服する事を夢見て鍛錬を積むのです」


 その言葉を聞いて、『魔族』という名称だけで、邪悪な存在であるかのように錯覚するが、彼らは以外に生真面目でストイックな気がした。

 もちろん人に仇名す種ではあるのだが。


 そんな話を、アーリエスは微笑を浮かべながら聞いていた。


「アーリエス。教えてくれないか?」

「ああ。もうすぐ先代が来るんだから、『本業』だった者に聞くのが一番だろう」

「そういえばそうだったな」

「あたしはセイ殿がそうやって興味を持ち、知識を蓄えていくのが嬉しい。お主の経験が、いずれは実を結ぶだろう」


 そうなると良いんだけどな。

 そう思っていると、ハルガルとイラが現れた。


「お待たせ。さあ、何でも聞いてくれ。眠くなるまでなら付き合うよ」

「ハルガルさん、ありがとうございます」

「いいって、いいって」

「良くないですよ!! 早く帰って、このイラと褥を共にするんですから!!」

「イラー。諦めてくれよー」

「諦めませんっ」


 イラはさしずめ押しかけ女房なのかな?

 俺は少し笑ってしまった。

 四十がらみの中年が、二十そこそこの女性に振り回されいるのを見て、俺も親近感が沸いた。


「セイ様? そこ、笑う所でしたっけ?」


 目をギラギラさせながら、イスティリが聞いてくる。

 相変わらず、この子は勘が鋭いな……。


「と、所でですね。勇者にはどのようにして選ばれたのですか?」

「ええっと……。俺の場合は『勇者』候補が何十人も居た。両手では足りん数の候補が居たんだ。けれど、魔王が王都に迫る寸前には、二名にまで減っていた」

「候補、ですか?」

「うん。それこそ、王都の高名な魔道騎士もいれば、何処の誰かも分からん奴も居た。俺は、その候補の段階では、武器を持ったことすら無かったよ」

「そうなんですか?」

「うん。多分、魔王降臨に合わせて、少しずつ候補たちをふるい落とす。そうやって意思が強い奴。正義感が強い奴。単純に技術がある奴なんかが残っていく。だから、人数が少なくなっていくと言うことは、魔王がもう降臨寸前だと把握出来るはずなんだが、何故かそこには頭が回らない」


 そこで、ハルガルはイラをそっと見た。

 イラは緊張した眼差しで、ハルガルに頷いた。


「このイラも、つい先日まで『勇者』候補だったんだ。けど、脱落した」

「えっ!?」


 流石に俺も含め、周りに居た全ての者が驚きの声を上げた。


「はい。私は、つい先日まで勇者の候補でしたが、脱落しました。けれど、解放された、という感覚のほうが強いです」

「解放された?」

「はい。勇者は言ってしまえば使い捨ての兵器です。大戦が終われば、朽ちるだけの大砲なんです。その勇者には、なんの魅力も感じられません。勝手に押し付けられて、勝手に選から漏れただなんて言われて、意味不明ですよ」

「その『押し付けられた』と言うのは?」

「ある日、影のような存在が、託宣を持って現れるんです。『喜べ。お前は勇者の雛として選ばれた』ってね。嬉しくも何とも無いですよ」

「そうそう。俺は影法師って呼んでたな。胡散臭い奴だった」

「本当に」


 なるほど。

 魔王はネストで養育された『雛』である魔王種に降臨する。

 そして、勇者の『雛』は人間の世界で養育されるのか。

 さしずめ、街や村は、勇者側にとっての『ネスト』と言う訳か?


「少し、理解出来た気がします」

「そりゃ良かった。他に聞きたいことは」

「ええ。その『勇者』になった時はどんな感じでした?」 

「そんときゃ、別の魂が俺の魂と融和してる感じかな? 幾つかの《祝福》を持ち、疲れず・眠らず・食わず、だ。もう、そうなるとイラが言ったように『大砲』だな。魔王軍に向けて鉛玉を吐き出すゴーレムみたいなもんさ」

「祝福を得るんですね。どんな祝福でした?」

「残念ながら、そん時の記憶は曖昧なんだ。ただ、魔王に剣を突き立てた時、ありったけの力を注ぎ込んで、魔王と、その配下を皆殺しにした事だけは明瞭に覚えている。魔王に連なるもの全てを抹殺したら、そこで気絶して、目が覚めたら只のおっさんに戻っていた。ははは」


 ハルガルは軽く自虐的に笑ってから、「喉が渇いたな」と呟いた。

 俺は彼とイラに水を持って行った。


「ありがとう。イラの分まで持って来る辺り、お前さんも苦労人だな」

「いえ」

「しかし、前回はきつかった気がする。憑依した霊魂も焦っていたしな。コスゴリドーと対峙するまでに随分と回り道させられたし、陽動にも引っかかった。お陰でエマ三世は割を食って、成人魔王種四体を相手にする羽目になった」

「ああ。あたしはその時結局死んだ。もう一歩だったのにな。シンだけが生き残ったと後から知ったが」

「はい。ワタクシ、アーリエス様を殺した魔王種を切り刻みました。その直後、ハルガル様がコスゴリドーを討伐し、忠誠を誓っていた魔王種らは、塩の塊となって崩れ落ちました」

「そして、俺は只のおっさんに戻った。岐路の路銀こそ工面してくれたが、家に着いたとき空腹で堪らず、みじめだったなぁ」

「……」


 この徹底した冷遇振りは、王の指示なんだろうか?


「でも、イラ様が『候補』から脱落したと言うことは、もう魔王降臨が近い可能性も否定できませんね?」

「ええ。ご婦人の仰るとおりです。私はクーイーズという者と共に脱落しました」


 メアの問いかけにイラが答えたが、その時、俺は唐突に思い出した。


【候補:シュマリド=イラが脱落しました。候補:クーイーズが脱落しました。残り候補は四人です】


 それは異能<思念伝達>を解放しっぱなしにしていた時に偶然拾った音声だ。

 

「お、俺はその声を聞いた。候補:シュマリド=イラが脱落しました。候補:クーイーズが脱落しました。残り候補は四人です……と」

「な、何故それを!?。あなたも勇者の候補なのですか?」

「い、いや。俺はその時、異能<思念伝達>の使い方がイマイチ理解できず、全ての念話帯域を拾えるように解放していたんだ。だから、本当に偶然なんだと思う」

「そんなことがあるのですか……? けど、私も実際残りの候補は四人と聞こえました」


 だとすると、あの時俺の近くに居た人物の中に、『勇者』候補が居たのか。

 俺はその時、その場所に誰が居たかを思い出そうとした。


【■:■■■■■■■■■】


「ぐっ!?」


 俺は頭の中をかき回されるような痛みで、膝を付いた。


「セイ様!?」

「セイ?」

「あ……頭が……」


 俺は意識が混濁した。

 思考が纏まらず、吐き気を抑えようと躍起になった。


【■:■■■■■■■■■】


 なんだ、この声は?

 テマリの力で……理解出来ない……声……。


 俺の思考は、そこでプツリと切れた。

 一気にブックマークが減って死にそうです。

 

 教訓:焦って書いても何も良いことは無い。


 後書きを見てブクマしてくださった方々に感謝を。

 そして、いつも読んでくださる皆様に感謝を。


 7日は休みます。

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