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142 使者ヘラルド

 その日の夜は、リリオス主催で豪華な晩餐会が催された。

 俺はオグマフの晩餐会の時のように、燕尾服に銀冠を巻き、模造刀を引っさげる事になった。


 女性陣は豪華なドレスを身に纏い、ティアラを付けて颯爽と現れた。

 早速イスティリとメアに左右から腕を組まれて、俺は戦々恐々とした。


「さあ、セイ様。今日はまず、ボクと踊る事。これは絶対、絶対の約束ですからね?」

「ちょっとぉ!! 前回はイスティリが先だったでしょう? 今回はわたくしが先ですからね!!」

「えー。前っていつだっけ?」


 とぼけるイスティリ。

 それを睨み付けるメアという構図から俺は逃げたくなった。


 辺りを見渡すと、コモン隊が柄にも無く照れていた。

 皆、俺同様に燕尾服だが、どこか動きがぎこちない。


 今回はコモンに、ダルガ・パルガの兄弟、それにトルダールとレキリシウスが来ており、残りの五人は控え室で完全武装のまま待機してくれていた。

 コンキタンの兄妹も、妹こそ来ていたが、兄のほうはコモン隊同様、控え室で有事に備えてくれてるらしく、最後まで現れなかった。


「わ、私なんかが来ても宜しかったんでしょうか?」

「良いんじゃないですか? もう貴女はセイ様の配下なんですし」


 妹の問いかけに応えたのはパルガで、彼は早速酒盃を片手に「ツマミはまだかなー」と目を細めていた。

 

 トウワは何故か王冠を付け、ニセモノのヒゲを付けて現れた。

 彼はその珍妙な格好に何故か満足している様子で、時折ぶどう酒をチビチビやっているらしかった。


「トウワさんね、珍しくお酒を飲んだんだ。そしたらああなったの」


 イスティリが教えてくれるが、別段害がなさそうなので好きにさせることにした。


(いようぅぅぅ!! セイ!! 俺は初めて酒を飲んだぜぇぇぇぇ。なかなか旨いモンだななぁぁぁぁ)


 トウワは俺の頭をペシペシと叩きながら絡んできたが、ぶどう酒の為か彼の体は薄紫になっていた。


「はははっ。トウワ、お前体が紫になってるぜ」

(まじかよー。じゃあ次はエールを飲んで黄色くなっちゃおうかなぁぁ。へへへへへ)


 彼はウシュフゴールのオシリをペロン、と撫でると、またフラフラと飛んでいってしまった。


「やっ!? セイ様っ。今は駄目です!! 今は!!」


 俺が撫でたと思ったのか、ウシュフゴールは顔を真っ赤にしていた。

 それを見ていたコモンとトルダールが腹を抱えて大笑いしていた。


 ここレガリオスでも立食パ-ティ形式であるらしかったが、酒はもう自由に飲めたし、クラッカーのような簡単なツマミも並び始めた。

 俺たち以外には、レガリオスの官僚や軍部の長官、それに魔法師団の参報部の長と、その配下達と、それぞれの家族が来ていた。

 

 マルガンを筆頭にゾロア兵達は来なかった。

 彼らは晩餐会にまったく興味が無いらしく、ペイガンが確認にし行ったが、彼は頭を掻きながら戻ってきた。


「セイ殿。マルガンでしたっけ? しゃべれるゾロアが対応してくれたんですが……」


 どうもマルガンは各ゾロア兵達に『朝まで寝て良い』という命令を下してしまったらしく、実際彼以外の蟻たちは、ぐっすり寝ていたのだという。


「で、マルガンは? 前もって夜に晩餐会があるって伝えておいたのになぁ」

「あー、統率種として、持ち場を離れるわけには行かないそうです」

「ふーむ……。分かった。ありがとう、ペイガン」


 ゾロアの思考を理解するには、もう少し時間が掛かりそうな気がした。

 俺はそう思いながら、ようやくイスティリとメアの包囲を抜け、酒にありつく事が出来た。


 エールをチビチビやっていると、リリオスがアーリエスとシンを引き連れて現れた。


 アーリエスはピンクのドレスを着ていたが、まるでゴシック人形のようだな、と思った。


 シンは胴にラメの入った布をトーガのように巻いていたが、これが結構似合う。

 彼は模造刀も二本携え、普段足として使っている四本の触手一つ一つにも、銀の環を付けていた。

 一際大きな一対の触腕には、胴に巻いてあるのと同じ布が結わえてあり、剣術の時に使っていた四本の触手にも、小さく布が結わえてあった。

 

 大きな拍手が沸き起こり、リリオスが片手を挙げると場内は静まり返った。


「さて。本日はお集まり下さいまして、誠にありがとうございます。晩餐会に先立ちまして、このリリオスより簡単ではございますが、ご挨拶をさせて頂きます。私、リリオス=ハイデレシア=ル=レガルルはこれより先、セイ様の為に生きる所存でございます。……それでは、料理を!!」


 本当に、本当に簡単な挨拶だったが、それだけ彼の意思が伝わった言葉でもあった。

 会場は割れんばかりの拍手に包まれ、料理が運び込まれ始めた。


 アーリエスが疲労困憊、といった体で俺の元に来た。


「さて、セイ殿。あたしはリリオスに、今後の話を細かく細かく伝えてきた。なのでお腹がすいた」

「うん。ありがとう」

「あそこのパイを切り分けて欲しい。それと、桃の果汁を水で割ったものを作って貰ってくれ」

「分かった」


 俺がアーリエスの為に動いていると、リリオスが寄って来て俺の手を握った。


「セイ様。ここレガリオスは私にお任せください。貴方様がいつ戻ってきても良いよう、万全の準備をさせて頂きますので……」

「リリオス。ありがとう」

「はい。アーリエス様には、必要な物資・設備・人材など、網羅した物を頂いております。これを元に、来るべきその日の為に、私は邁進致します」

「リリオス」

「はい」


 俺は彼の目を見て、ゆっくりと伝えた。


「リリオス……お前は、俺の仲間だ」

「この私を、仲間だと仰って下さるのですね……」

「ああ。リリオス、ここはお前に任せた。頼む」

「は、い……」


 彼は顔をくしゃくしゃにして、泣き笑いのような顔を浮かべた。

 今の彼を見て、傲慢なレガリオスの暴君リリオスを想像出来る者など居ないだろう。


 彼は変わったのだ。

 リリオス=ハイデレシア=ル=レガルルは、生まれ変わったのだと、俺は思った。


 それから、俺はアーリエスを膝に乗せ、リリオスと酒を交わしながら取りとめも無い話をした。

 途中で音楽が流れ始めると、イスティリとメアが押し合いへし合い現れて、俺の目の前でジャンケンをした。


「いやったぁ。ふふふふっ。さあ、セイ。私と一番に踊るのです!!」

「うううううー。なんでぇ? なんでさぁ」


 相変わらずジャンケンに弱いイスティリは、腹いせにアーリエスの尻尾を鷲掴みにしていた。

 

「なんじゃー!?」


 とばっちりを受けたアーリエスは、カンカンになってイスティリを蹴飛ばした。 

 

「うーっ。尻尾先生!! ジャンケンに勝つ方法が、知りたいですっ」

「あたしの可愛い尻尾を雑巾の様に絞る奴には教えんわっ」

「そんなぁ」


 いつの間にか、リリオスは消えていた。


 俺はメアと踊り、イスティリと踊った。

 ウシュフゴールがイスティリに背中を押されてやって来た。


「セイ様っ。ゴーちゃんも踊りたいってさ」

「えっと……。はい。踊りたいです」

「おいで、ウシュフゴール」

「はいっ」

 

 俺は例によって、音楽が途切れるまで彼女らと踊り続けた。


 席に戻ると、消えていたリリオスが一人の青年を連れて戻ってきた。


「セイ様。この者を覚えていらっしゃるでしょうか?」

「ええっと。確か火傷を治療した……」

「そうです。あの時、セイ様が彼に神秘の石を与えていなければ、この者は死んでいたことでしょう。死の淵から生還したのは、私同様セイ様のお陰なのです。その彼を、貴方様の配下にお加え頂けないでしょうか?」


 その青年は両膝をつくと、真剣なまなざしを俺に向けた。


「オレは貴方に救われた。次はオレが貴方を救う番だ。末席で構わない。どうか、オレを貴方の戦列にお加えください!!」

「名は?」

「はい。オレは名を捨てました。もし貴方の配下にお加え下さるのでありましたなら、貴方様がオレの名前をお付けください!!」


 そこに、アーリエスが剥いた梨を齧りながら現れた。


「セイ殿。この者はあたしがリリオスに頼んでいた人材だ。レガリオスとの連絡係であり、リリオスとの連携に必要な人材だ」

「アーリエスの考えか」

「うん。リリオスと連絡を取る際に、その橋渡しをする者が信用に足りえるか、そこが問題になる事があるかもしれん。しかし、この者はセイ殿に恩義を感じておる。もはや忠義と言い換えても間違いではないだろう。こやつは、あたしが探していた、セイ殿を裏切らない、信用に足りえる連絡役なのだ」

「分かった。君の名前を考えよう」


 俺はその青年に声をかけた。


「で、では!?」

「ああ。君の名は、そうだな……ヘラルドだ。俺の元いた世界では『使者』の意味がある。よろしくな、ヘラルド」

「はいっ!!」


 こうして、リリオスとの連絡係、ヘラルドが仲間になった。

ギリギリ6時には間に合いませんでしたが、一話UPします。

少し寝たら仕事行ってまいります……


魔法師団が参報部しか来なかったのは、他の部署が軒並み壊滅してしまったからです

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