表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
138/216

137 ライネスの子孫

 コインが落ちると同時に、イスティリが右から斧をフルスイングした。

 辛うじてレイオーは斧を差し込んで防ぐが、衝撃を緩和できずにバランスを崩した。


 彼が体勢を立て直す前に、今度は左からの強襲が来た。

 

「早い!!」


 レイオーは一旦下がると、斧を構えなおそうとした。

 が、イスティリの猛攻は止まらない。


 右から、左から来る斧頭は最早ブレてしまって残像の様だ。

 レイオーは受け流し、避け、飛び退り、何とか凌いでこそいたが、攻撃を繰り出すタイミングは、全く無いように思われた。


「コモン。イスティリ、俺らと戦った時よりも、強くなってねえか?」

「ああ、よく見てみろ、トルダール。イスティリは右手が再生しつつある。前はあの斧を片手で使っていたが、今じゃ右手も添えるようにして使っている」


 確かに、イスティリは右手の掌を斧の柄に添え、重い斧の重心を上手く利用していた。

 まるで演舞の様に、滑らかに連続で攻撃したかと思うと、フェイントからの渾身の袈裟切り、軽いジャブでレイオーが攻撃出来るタイミングを的確に潰す。


「フィシーガ。よく見ておけ。あれより強い戦士はダイエアランはおろか、全土を探しても僅かだろう」

「はい。コモン様。あの偽攻からの斬撃、正直言いますと防げません」

「それが分かっただけで儲けものじゃないか」


 戦いは終局を迎えようとしていた。

 フウフウと荒い息をするレイオーは、イスティリからの上段を斧の柄を水平にして防いだが、そこで片膝を突いてしまった。


「ま、参りました!!」

「よし! そこまで!!」


 コモンが止めると、仲間からは惜しみない拍手が送られ、見物していた魔術師たちからもマバラな拍手があった。


「流石だな。俺は結局一撃も入れる事ができんかった!!」

「でも、よく鍛錬されてると思いますよ。基礎は完璧だし、ボクの応用にも反応出来てましたし」

「そう言って貰えると俺の面目も立つ。ありがとう」


 俺はレイオーの実直さに好感を持った。

 単純な強さで人を雇っているなら、俺はラメスを雇って大変な目にあっていたはずだ。


 軽く意見を求めるために、アーリエスとコモンに視線を送ると、彼らは頷いてくれた。


「レイオー。良ければ昼食でも一緒にどうだ?」

「えっ!! 良いんですか? 俺はもちろん構いませんが」

「なら、決まりだな」


 イスティリはレイオーの手を引いて立たせると、彼にニッコリ笑いかけた。

 レイオーは誇らしげに立ち上がると、イスティリに誘導されてコモン隊の横あたりで休み始めた。


「さて、ボクはここまで!! 魔術師たちはメアかゴーちゃんにお任せします!!」


 それを見ていた魔術師たちが、やっと自分たちの番か、とばかりに俺に声をかけてきた。


「さあ、次は私の腕前を見ておくれよ!!」

「いや、俺が先だ」

「待てよ!! 俺が先だ」


 そのやり取りの中で、二名だけが輪に入らずに静かに待機していた。


 彼らは兄妹なのだろうか、お揃いのコゲ茶の服を着て、杖だけを持っていた。

 長身の男性は右の額から長い角が生えており、小柄な女性は左の額から小さな角が生えていた。

 二人とも肌は褐色で髪の毛は薄い紫と、ひときわ異彩を放っていた。


【解。コンキタン。フォーキアン同様、魔族であったがヒューマンとの交配で固定されていった。以前に冒険者ギルドで『人間側に組して武功をあげた者が貴族になった例もありますよ』と組員が言っておったが、それは彼ら一族の事である。主要十二部族ではない】


 彼らはコンキタンというのか。

 俺は下手に自己主張する眼前の奴等よりも、ああいった冷静な人物のほうが気にはなった。


 メアとウシュフゴールはお互いで耳打ちしあい、打ち合わせをし始めた。


「さて、わたくしはハイ=ディ=メアと申します。これより選定を始めさせていただきます。わたくしの仲間、ウシュフゴールの<睡眠>に耐え続けた方々を、まず候補とします」

「候補だと!! お高くとまりやがって!!」

「何とでも言いなさい。実力もなく、かといって謙虚でもない者達を雇うほど、わたくし達は寛容ではありません」

「クソっ。分かったよ!! 分かりました分かりました!! さあ、来いよ」


 十人ほどいた魔術師達に、ウシュフゴールが<睡眠>を乱打する。

 悪態をついていた奴は最初の数回は抵抗した様子だったが、すぐに崩れ落ちた。

 他の魔術師達も次々に眠ってしまった。


「あら。一人も残らず……?」


 メアが呟いたが、あの二人のコンキタンだけは膝をつきながらも必死に耐えていた。

 ウシュフゴールが改めて<睡眠>を連打したが、頭を振り、太ももを叩いて、辛うじて意識を保っていた。


「い、一族再興の為には……我らはこんな所で……」

「……ライ……ス……の誇りを取り戻すのです……」


 男性のほうが、震える足を叱咤しながら、立ち上がる。

 そうしてから、女性に手を貸そうとしたが、一瞬躊躇った。


「そうです……兄様。私は、私の足で立ちあがらなければ、ならないのです!!」


 彼女は最後悲鳴の様に絶叫すると、立ち上がった。 


 彼らは二人手を取り合って、俺を見た。


「そこまでだ。俺が思うに、そこで寝ているチンピラ魔術師達と違って、彼らは芯を持っているように思う」

「はい。わたくしも同意見です。是非とも『昼食』にお呼びしたいと考えますが?」

「ああ。メアがそう言うなら間違いないだろう。ウシュフゴールは?」

「私も、あの方々には魅力を感じます」

「なら、決まりだな」


 そこでアーリエスが歩み寄ってきた。


「うんうん。皆、それぞれに自身の持ち得るものを活用して、この選定を上手く運んだな。あたしは皆の意見を尊重する」


 そこで、彼女は俺の手を引いてコンキタンの元へと歩んでいった。

 コンキタン達はサッと片膝をついた。


「そこまでしなくとも良いよ。もう知っているとは思うけど、俺の名はセイ。良かったら一緒に昼食でもとらないか?」

「喜んで」

「はいっ」

「所で、君達の名は?」

「我らは名を捨てました。一族再興の誓願を立て、それが成就するまでは『名無し』なのです」

「もし呼びにくければ『兄』と『妹』とでもお呼びくださいまし。実際、兄妹でございますので」

「……分かった」


 彼らには彼らの考えがあるのだろう。

 ウィタスには様々な種族が居り、それぞれが違った文化や価値観を持つ。

 最近になってそれがようやく理解できるようになって来た。


 コモン達は魔術師達を起こして、それから雑に追い出していた。


「ちょっと待ってくれ!! 俺の<火球>の練度は王都のお抱え魔術師にだってひけを取らない!! <睡眠>に抵抗できなかった位で追い出すなんてあんまりだ!!」

「お前さ、強いのかも知れんが、アホだろ?」


 トルダールが最後の一人を門から追い出すと、門番が容赦なく閂をかけた。

 それを見ていたリリオスの使用人が、「少し、早いですけれども、昼食をご用意いたしますね」と機転を利かせてくれた。


◇◆◇


「兄様……もしかして?」

「ああ。俺達を雇ってくれるのかもしれないな」

「名を……取り戻せますか? 私の可愛い名前。母上が一生懸命考えてくださった名前を」

「……ああ。父上がつけて下さった誇り高い名前を、取り戻す。もちろん、お前の可憐な名前も」


「「ライネス一族の名誉を取り戻す」」


 二人は、小さな声で唱和した。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ