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127 反逆 上

 僅かに窓から光が差し込む薄暗い部屋に俺は居た。

 その部屋には楕円形のテーブルがあり、そのテーブルにはほぼ等間隔で十二個の椅子が配置されていた。


「また、ここか」


 悪食達の巣窟。

 俺はここに来たと言う事は、これから何かが起こるのだと身構えた。


 ポウ、と蝋燭が五つ灯る。


 痩せぎすの骸骨がユラリ、と現れて席に着いた。

 モーダスが乱暴に、椅子を潰さんばかりの勢いで着席した。


 そして、針金男スヴォームが軋むような音を出しながら現れた。

 スヴォームはその半身を解きほぐし、何とルーメン=ゴースを引き摺るようにして現れ、自身の椅子を蹴倒して、俺の所へと歩み寄って来たのだ。


「ルーメン=ゴース!!」


 彼女は全身に針金が喰い込んで、切り刻まれ血を流しながら雁字搦めにされていた。

 躰中にスヴォームの金属蝗が纏わり付き、容赦なく女神の体を食い荒らしていた。


「これより、議会・・を開催する」


 スヴォームは女神を蹴倒し、地に伏せさせると、高らかにそう宣言した。


「スヴォーム!! ルーメン=ゴースを解放しろ!!」

「黙れ」


 彼は針金の躰を伸ばし、俺の目を狙ってきた。

 寸での所で回避するが、その針金は大きく頬を切り裂き、テーブルや床に血が飛び散った。


「……今回の動議は『人の身にしか過ぎぬ矮小な存在が目に余る故、口を封ずる』かどうか、だ」


 スヴォームが俺の方に真っ赤な光点を集中させながら、一息に言い切った。

 骸骨とモーダスはゲハゲハ・グフグフ笑いながら大きく拍手をしていた。


「もちろん、スヴォーム様の言う通り!! 儂はこの男に雑用を押し付けられてばかり!! かつてはバルゲング星域を支配したこの邪神を、まるで小間使いのように使うこやつに心底嫌気がさしていたのでございます!! 儂の事をカエルか何かと勘違いして居るこの阿呆に、もう支配権を委ねる事は出来ませぬ!!」


 モーダスがスヴォームに媚びながら、俺に向かって辛辣な嫌味を連発した。

 スヴォームはそのモーダスの媚びには無反応で、ただただ俺に向けて怒りとも、憎しみともとれる感情を向けていた。

 針金男の、業火の様な憤怒は、彼の飼う金属蝗を滾らせ、蝗達は俺にギチギチと威嚇し続けていた。


「……俺はドの道、『踏ミ外しタ者だ』。気ガ狂おウともココから抜け出せズ。タダ使われルだけだ……。長いモノに巻かレて、一時美味イ汁を吸ウ。それダケダ……」


 骸骨は震えながらスヴォームを見、モーダスに怯えた。

 彼はこの≪悪食≫の神格の中で立場も力も弱い。

 そして、強者に尻尾を振る事に決めたようだった。


 そして、ルーメン=ゴースは、ようやくスヴォームの束縛から解放され、血を滴らせながらフラフラと自身の席に着席すると咳き込んだ。

 パタタッと血の塊がテーブルに落ちる。


「さて、『女神』よ。貴様はどちらに『付く』? 返答次第によっては四肢を裁断し、脳髄を、再生する度に眷属に喰わせるが?」

「戯言を。私は名を取り戻し、自らを取り戻した者。お前達のように『失ったモノ』達と同じにされては堪ったものではない……」


 その言葉にスヴォームは蝗達を部屋内に飛び立たせ、その群れはルーメン=ゴースに取り付き始めた。

 女神は髪の毛を蛇に変え応戦するが、そこにスヴォームの針金が稲妻のように襲い掛かり彼女を絡めとった。

 蝗に肉を食まれ、針金で体を切り裂かれ、女神はここに来た時の状態に戻ってしまった。


「さて、返答を」

「私はセイに付く。変わらぬ。変えぬ。例え自らが滅しようとも屈せぬ。私の『名』はルーメン=ゴース!! 誇りを取り戻した者!!」

「黙れ」

「いいや、黙らぬ!! 『大群』の意味しか持たぬ禍神よ!! 自らの名前を失った邪神よ!! 名を分割された亜神よ!! 聞け!! 私の名はルーメン=ゴース!!」


 その言葉に骸骨とモーダスは怒り狂った。

 今にも殺さんばかりの勢いでルーメン=ゴースに近づくと彼女を睨みつけた。


「いかに上位神格と言えども、そこまで言われてしまってはのう? 儂の力全てを失ってでもお前だけは滅す」

「オっ、俺は!! ハンブン ハンブンになってシマっただけダ!!」


 俺はモーダスに体当たりし、彼を女神から引き剥すと骸骨を蹴り倒した。


「お前達も≪悪食≫に飲まれた神々なのだろう! なら何故そこから脱し自らを取り戻した者を祝福しない? お前達自身は何故、自らを取り戻そうとしない」


 俺はモーダスと骸骨を一喝し、スヴォームの蟲を引きはがして握り潰していった。


「ハ・ハ・ハ!! 一柱味方に付けた位で大きく出たものよ!! 貴様など今この場に置いては無力だと言うのに」

「無力なものか!!」

「そうか……そうか。そうかそうか!! なら貴様が無力で無い事を、今、ここで証明して見せよ!!」


【告。これより、祝福≪悪食≫の現保持者、セイの処遇について『多数決』を取る。『セイを≪悪食≫内の神格により支配し、その肉体及び思考を利用する』か否かである。この動議には魂魄が25%以上必要であるが、ディバ・モーダス・スヴォームの三神格の充填により到達した】


「なんだと!!」

「ハ・ハ・ハ!! さて、俺は『賛成』だ」

「儂も『賛成』に」

「オっ、俺も『賛成』に一票ダ」


 ミュシャも俺の処遇について『議会』を開いて神々とやり取りした位だが……今ここでよりにもよって多数決とな……。

 俺が一票、そしてルーメン=ゴースでもう一票で二票……どう足掻いても勝てない勝負じゃないか。


「くそっ!!」

「ハ・ハ・ハ!! これにより貴様は今後我らが傀儡よ!! 人の身でありながらよくも我らを駒の様に扱ってくれたものよ!!」

「セイ……すまぬ……」


 最悪だ。

 俺はこんな所でスヴォームたちに支配され、いずれはウィタスを滅ぼすのだろう。


 いや……俺は足掻いて見せる。

 まだ評決は下されていない。


「ディバ。お前はこっちへ来い。どの道そちら側に付いた所でスヴォームとモーダスの体の良い従者が関の山だ。主が変わるだけで、何も変わらない。いや、もっと悪くなる可能性の方が高い。今でも冷遇され、日陰者の誹りを受けるお前を、そいつらがどの様に扱うか、お前だって本当は分かっているんだろう!?」

「俺ハ……最早ドチラでも良イ……もう自身へノ渇望ハ絶えタ……」


 彼は目を伏し、泥水の様な涙を流しながらも票を流さなかった。

 こうなると、首謀者のスヴォームは無理として、残るはモーダスか。


「モーダス」

「断る。儂は元々≪悪食≫を使い、ただひたすらに飽食を極め、それに飽き、その中で自らで堕ちただけよ。≪悪食≫の中……ここは面白い。次々と新たな神が、天使が、堕ち、そして次の者を堕落させようと躍起になる。この空間こそが混沌の渦中よ。それを安定させようとする輩には組せぬ」


 万事休すか。

 しかし、まだ諦めるわけには行かない。

 俺はイスティリやメア、そしてウィタスを救うんだ!!

 岩に噛り付いてでも足掻いてやる……。


【告。採決を決定する。これにより……】


 無情にも告知が流れ始めた次の瞬間、その告知をもみ消す様に、可愛らしい女性の声が聞こえた。


「ニャフン、ニャフン。あのですね。実はもう一票、あったりするんですよね?」

『!?』


 その声と同時に、俺の手元にあのフェルト製の『ミュシャ人形』が姿を現した。


「ミュシャ人形!!」

「呼ばれて飛び出てニャニャニャニャーン!! え、呼んでないって。でも空気は読んだよ!!」


 スヴォームは針金と蝗を人形に向かわせるが、ミュシャ人形はサラリとそれを躱しながら言葉を紡ぐ。

 モーダスは唖然とし、次の瞬間、顔を苦痛に歪ませ、気が狂った様に喚き散らした。

 

「ご主人様は欠席だけどさっ。その代理のわたしに一票あったりするんだよねっ。とーぜん『反対』に一票!! さあ、これで票は割れた!!」


 突然出て来たミュシャ人形。

 そして何とミュシャの代わりに票を投じてくれるのだと言う。


【告。採決を決定する。これにより議題は流れ……】

「待った!!」


 俺は更に一歩踏み出す為に、その告知を止めた。


「ディバ。もう一度聞く。俺の側に票を入れろ。お前はそこで、その場所で良いのか? ≪悪食≫に飲まれ、自らを飲まれたままで良いのか?」

「おっ、俺は……」


 ディバは震えながら口を開いた。

 それをモーダスが打ち据えた。


「俺はっ」


 スヴォームがディバの口を針金で縫い、躰を蝗に食わせ始めた。


 俺がディバの口から針金を引きちぎる。

 手から血が噴き出し、蝗に集られるが知った事では無い。

 ルーメン=ゴースも力を貸してくれる。


「俺はっ、『反対』に投じる!!」


 ディバの目に光が灯った。

 ようやく、ミュシャ人形の3回目の登場です。

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