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124 コモン隊の休日

「コモン、少し話があるんだが良いかな?」

「はい。セイ殿」


 俺は領主から許可を得た上で、屋敷内を持ち回りで巡回していた所を主であるセイ殿に呼び止められた。

 彼は、あの狂った戦闘での俺達の功績を讃えてくれた。


「コレトー砦では皆、よく戦ってくれた。本当に助かったよ」

「いえ。俺達はあなたの戦士だ。」

「ありがとう。けど、あんな血で血を洗うような死闘がこれからも……これからも続くかもしれない。もし、コモン達が……」

「待ってくれ」

 

 俺は彼の言葉を遮る。


「それ以上は言わないでくれ……言わないで下さい。俺は、俺達は戦士だ。死ぬなら戦場で、と決めている」

「そうか、じゃあこれ以上言葉を紡ぐのは無粋か。……所でさ、明日一日、俺達はセラの中でのんびりすると決めたんだ」

「はい。イスティリ様方と休養を取られるのですね」

「うん。だから明日はコモン隊とプルアさんでゆっくり買い物でもしてきなよ」


 彼は、今回の一件に対して慰労の意味で『ボーナス』という物をくれるらしい。

 そのボーナスとやらで自由に遊んで、飲み食いして、英気を養ってほしいのだと言う。


「ボーナスってのは簡単に言うと、よく働いた奴が貰う報奨金さ。明日、コモン達は警護から外れても大丈夫なんだから、少し旨いものでも食べて来なよ」

「っはい! ありがとうございます」

「でな、プルアさんに可愛い服でも買ってあげなよ。宝石も良いな。子供服は……ちょっと早いか。ははは」


 プルアは足手まといにならない様、ずっと『神域』で待機していた。

 たまに俺の顔を見に来る以外はずっと我慢してくれていた。


「コモン。私はずっとあの世界で何をしていると思います?」

「分からないな」

「私は子供の名前を考えながら、ずっと蜘蛛の世話をしているんですよ。こうね、親指くらいのバッタを捉まえては蜘蛛に与えるんです!」

「セイ殿の騎乗蜘蛛か」

「ええ。雄の蜘蛛はバッタ位簡単に捕まえられるんですけど、最近じゃ私の姿を見ると井戸の傍で待つんですよ!」

「はは。さしずめ馬屋番か」


 つい先日交わした会話は確かこんな内容だったな。

 ふとセイ殿を見やると金貨・銀貨が詰まった皮袋を持っていた。


 俺はセイ殿の世界の言葉は知らないが、この『ボーナス』という単語だけはしっかりと覚えたぜ。


「うっそだろ!?」

「嘘じゃない。セイ殿がくれたんだ。『ボーナス』と言うものらしい」

「いやったー!! おいブルーザ、酒場行こうぜ!! 酒場」

「そうだな。グンガルも来るだろ?」

「勿論だ。というか最初は酒でも飲んでさ、そこから自由行動にしないか? セイ殿から貰った給金もあるし」


 そのグンガルの言葉にダルガとパルガの双子が「乗った!!」と同時に声を上げ、グンガルと左右から肩を組んだ。

 三人はまだ酒も入ってないのに『ひと飲み行こうぜ!! ほろ酔い? がぶ飲み!! 大はしゃぎ!!』と唄い始めた。


「レキも来るだろ!! 『アレ』やろうぜ!!」


 ザッパが言う『アレ』は、腕相撲だ。

 レキリシウスは腕力ではグンガルとブルーザには劣る。

 だが駆け引きが非常に上手く冷静で、いつも俺達は翻弄されてしまい、テーブルに置かれた青銅貨を彼に巻き上げられていた。

 

 しかし、ザッパ……お前が勝てるのはフィシーガだけじゃ無かったっけ?


「叔父さん。村に半分送金したいから、付き合ってよ」

「おうよ。代筆も頼んで、良い主に付いて戦ってると送ってやりな。母さんは喜ぶぞ」

「へへ」


 トルダールは甥のフィシーガに付き合ってやるみたいだな。


「ペイガンはどうする?」

「俺は……酒を飲んだ後は……砥石を見に行こうと思う」

「まじか!! おいっ、みんな、遂にペイガンが砥石を手に入れるぞ!」


 サッパの言葉に「おおっ」と感嘆の声が上がる。

 ペイガンは刃を研ぐのが神がかり的に巧い。

 以前はみんな駄賃を払ってまで彼に研いで貰っていたものだ。


 特に剣を使う双子が大喜びで、今度はペイガンを中心にして肩を組んで揺れ出した。


 そして、俺は……そうだな……プルアに指輪でも、指輪でも買ってやるか。


「もし危険が起きたらセイ殿の『神域』に退避してくれ。念じるだけで良いのだから多少酒が入っていても大丈夫だろう」

「はっ」


 俺達は旨い酒を飲み、語り合った。

 それから、気ままに街に繰り出して遊んだ。

 

◇◆◇


 ボク達は今日一日ゆっくりとすることに決めた。

 コモン達も街に出て遊んでくって言ったし、みんな揃って休養日だ。


 セイ様はトウワさんと一緒にお部屋の模様替えをしていた。

 メアはお茶を飲みながら二人に激を飛ばし、指示を飛ばす。

 時々甘い言葉を投げかけてはセイ様とトウワさんの意欲を奮い立たせていた。


 ハイレアはメアにニコニコしながら寄り添っていた。 

 もう随分と元気になっていたけど、もう少し様子を見てからドゥアに帰還するらしい。

 今日の夜に生る木の実は二人に食べて貰おっと。


 そして、ボクは今日の晩御飯担当だ。

 リリオスの屋敷で分けて貰った調味料でスープを作る。


 ふふふ……ボクが戦士として「だけ」じゃ無い事を今日ここで見せつけるのだ!

 

「美味しい!! イスティリ!? もうお前は今日から俺の奥さんだ!!」


 セイ様が陥落する様子が目に浮かぶ。

 そしてメアが「こんなに美味しいなんて!? わたくし、イスティリの後ろに控えます……」と言うに違いない。


 フッフッフッ……ボクはこの美味しいスープで一歩前に出るのだ!!

 

「どれどれ、あたしが味見してやろう」

「あっ!? つまみ食い!」


 アーリエスさんがお玉から直接スープをゴクゴクやると「きゅうう~~」と苦悶の表情を浮かべて、パタン、と倒れた。

 慌ててシンさんが駆け寄ってくる。


「ふぉぉぉー!! アーリエス様? アーリエス様ぁ!?」

「か……?」

「か?」

「辛い! 辛い!! 辛ぁーーーーぁい!? 水っ。水ー!!」


 アーリエスさんは井戸まで走ると顔ごと水にザブンと浸かっていた。

 尻尾が痙攣してボワンとなって、少し面白いと思ったのは内緒だよ。 

 

「ちょっと子供には辛かったかな?」

「どれどれ」


 シンさんが恐る恐るスープを飲む。


「グブッ」


 シンさんも井戸に走って行った。

 どうもスクワイにも辛すぎるのかな? と思っているとウシュフゴールが魚を釣って帰って来た。

 お魚のスープにするんだー。


「今からワタを抜いて準備しますね、イスティリ」

「うん。でもちょっと辛いみたい。スープ」

「そうなの? ちょっと味見してみましょう……あれ? 鍋に近づくだけで涙が……」


 ウシュフゴールは飲むのを躊躇って、ボクに聞いて来る。


「イスティリ? 自分では味見しましたか?」

「うん。したよー。すっごく美味しかった」

「そう……。この瓶は……?」

「リリオスの屋敷にあったパパネリの塩漬けだよ。刻んで全部入れたんだ」

「イスティリ……パパネリは輪切り一つか二つを更に刻んで使うんですよ?」

「えっ!? ネストじゃゴアと一緒に、毎日パンに挟んで食べてたよ!!」

「……えっ? 何をですか……?」

「パパネリの塩漬けを、その、直接、パンに挟んで……」


 段々と表情がこわばって来るウシュフゴールを見て、ボクは自分のこの常識が、他の人にとって常識じゃ無い事を悟ってしまった。

 

「ど、ど、どうしよぅ!! もうすぐご飯だって言っちゃった!! ゴーちゃん!! 助けて」 

「えっ、ええぇー!?」


 ……結局そのスープは、セイ様が全部食べてくれた。

 けどさ、セイ様!! ≪悪食≫を起動してから食べるなんて酷くない!?


 ボクの乙女心は酷く傷付いた。

 クスン。


◆◇◆


 クーイーズは瞑想から覚めると、自身が『勇者』の選から外れた事を悟った。

 鍾乳洞の薄暗がりの中、潮騒を聞きながら、鮫の様な歯を見せて、鱗の皮膚を揺すって笑った。


 一しきり笑うと、落ち着きを取り戻し、また長い長い瞑想に入った。

 

『シレーネとして生まれ落ち、魔族とも人とも交わらぬこの私が何故に勇者の候補足りえたのか? そして、何故脱落したのか?』


 彼は餓死寸前まで瞑想を繰り返すと、使い魔に魚を取って来させ、数匹丸呑みした。

 それから彼は、鍾乳洞を後にして、幾つかの街を転々とした。


 肉しか食わぬ神職、ネフラ異端派の僧侶クーイーズは放浪する。

 彼は水妖としての残忍さ・凶暴さを持ち合わせながらにして神の印を探す者、クーイーズ。

こういった回は日常回として、連番に組み込まないスタイルの方が良かったのかも知れませんね。


何時も読んで下さる皆様に心からの感謝を。

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