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117 戦場の名はレガリオス ④

コレトー砦に集結したのは魔術師団総勢四百名以上に、僅かばかりの歩兵だった。


 早速配置やグループ分けが開始され、食糧庫から魔法で保存されていた戦闘糧食が各自に配られた。

 水は<水作成>という呪文で簡単に作れるらしく、おおきな釜になみなみと注がれていった。


 俺たちは、一先ずは参戦しなくとも良いらしいが、これら食料と水の恩恵には与れた。


「セイ様とお供の皆様方は、我らがお守り致します!」


 そう言ってくれたのはリリオス自身が厳選した十名の魔術師で、俺が火傷を治療した者も二名含まれていた。

 彼らはコレトー城の中枢部に設けられた参報本部で、俺たちの周りを警戒していてくれた。


「俺達の面目丸潰れだぜ。なあ、コモン様?」

「そう言うな、ザッパ。聞けば大群が押し寄せて来るらしいじゃねえか。俺達が出しゃばるより、ここは正規の軍に任せて、俺達は『セイ親衛隊』とでも洒落込もうぜ」

「親衛隊!! かーっ。良い響きだねぇ。おいブルーザ、聞いたか!! 俺達親衛隊だとさ」

「聞いてるぜ、ザッパ。でも相手も魔術師多いんだろ? 俺の予想じゃ<転移>で包囲網を掻い潜った奴が来るぜ」


 ブルーザはそう言うと、俺の所に寄って来た。


「セイの旦那。あのパエルルの剣を狙った時みたいに、敵の杖も狙えますか?」

「ああ」

「それ、今回は忘れて下さい」

「うん? 良い戦略だと思うんだけどな」

「ええ。普通ならそうなんですけど、生死を掛けた戦場で『魔術健忘』を恐れている奴なんて居ません」


 なるほど……ブルーザの言う通りだ。

 杖を狙う分だけ後手に回る。

 そうなれば相手から余計な呪文を食らう可能性があるのか。


「ありがとう、ブルーザ。言いたい事は理解できた」

「いえ。俺もザッパもそれで生死の境を彷徨った事があるんで……」


 聞けば、魔術師相手に杖を叩き落として『勝ち』だと踏んでたら、全力で稲妻を打ち込まれて二日間意識を失っていたらしい。 


「やい、ブルーザ。今ここでそんな事言うなよ」


 ザッパはブルーザに食って掛かったが、レキリシウスに止められていた。


「はいはい。そこまで、そこまで。作戦会議が始まるようですよ」

「レキ! お前はどっちの味方なんだ?」

「今回の件に関していえば、もちろんブルーザです。セイ殿が剣を消失させた能力を良く理解した上で、その応用の先にある不利を見抜いたのですから」

「チッ!」


 そこでリリオスがきちんとした身なりに整えて戻って来た。

 鱗状の金属を繋ぎ合わせた鎧に、豪奢な剣を携え、片手に軍配のような装飾がゴテゴテに付いた笏を持っていた。


「お待たせ致しました。これよりアーリエス様から作戦概略の説明があります」

「じゃあ、皆の者、良く聞け」


 アーリエスが作戦を披露する。


「リリオスからの親書を持たせた使者を出し、マルパレ側を切り崩す。『スーメイ党に対して兵を出せばこの一件は不問にする』とな」

「ふむ。同士撃ちさせるのですな」

「これにマルパレが乗って来なくとも良い。その場合は『ではスーメイ党側と交渉するが良いか?』と問うのだ」


 簡単だが効果は抜群な感じがする。


「もし、マルパレ側がその揺さぶりに屈せずスーメイ党と共に、ここに攻め込んで来たらどうします、アーリエス様」

「得てして商人と言う者は物事を『損得』で考えてしまうものだ。今回の『投資』は大失敗の内に終わろうとしていたが、もし『損切り』出来る機会を与えられたとしたら?」

「確かに。私にもその考えは分かります」

「そして、魔術師団四百に祝福持ちが、堅牢な拠点を持った上で待ち構えている状況下で確実に勝利できるか?」

「いえ」

「と、なれば、マルパレに残された道は二つしか無い。こちら側に付くか、逃げるか、だ」

「なるほど」


 アーリエスは満足げに頷くと次の説明に入った。


「で、次にスーメイ党だが、彼等とは全く交渉しない。マルパレ側がこちら側に付けば挟撃出来るかも知れんからな。その際に混乱を長引かせるためにも余計な情報は与えない」

「スーメイ党は壊滅させる算段なのですか?」

「いや、出来る限りマルパレ側に押し付ける。こちらは堅牢な砦に構えているのにわざわざ打って出る必要は無い。疲弊させれば兵站の整っていない彼等は撤退するしかないだろう」

「なるほど。流石は魔王コスゴリドーを退けた勇者ハルガル様の知恵袋と呼ばれたお方」

「しかし、気がかりな点が一点ある。魔術結社が商人と組んで金なぞ欲しがるか?」

「いえ、私もその点は不思議に思っておりました」

「そうだ。恐らくスーメイ党の狙いはセイ殿だ。三つの祝福を持つ異世界人。魔術で隷従化すればこの上ない戦力だろう」


 アーリエスの言葉通りなのだとしたら、商人は俺をリリオス殺害の容疑者にしたかっただけの様子だが、魔術結社は俺を奴隷化して味方に付ける算段だったのだろうか?

 とは言え、これだけ有利な条件だと手も足も出ない気もするが。


 早速マルパレに使者が出され、その間も斥候が随時出された。

 その間、俺たちは簡易ベッドで少し休憩出来た。


「ねー、セイ様ぁ。これが終わったらラメスの件もリリオスに頼んでどうにかして貰おうよ」

「そうだな。何時までたっても警戒しなきゃならんのは難儀だしな」

「それにボク、メアが居ないと張り合いが無くってツマラナイんだもの」


 俺の肩を掴んでユサユサと揺らしながらイスティリは熱弁を振るう。

 と、唐突に目を綴じてキスをしてきた。


「んー、でもまあ、こういう役得もあるから、もう少し後でも良いかな」


 イスティリはそう言いながら舌をペロリと出した。


 ◇◆◇


「ガデア様。マルパレ側との連絡が途絶えました」

「チッ。今更怖気づいたか」


 根城にしていたダンジョン跡地を脱出し、幾つかのアジトを転々としたが、どの場所にもリリオスの斥候が先回りしており手を焼いた。


「おーおー、姫君ともあろうお方が上手く事を運ばないとはねぇ」

「黙れ」

「おー、怖い怖い」


 『紅蓮の君』ペリが煽るが、『燃えがら』ワピアは終始無言だった。 

 それぞれ火炎呪文の使い手だが、ペリは優男と言っても通用する細身の美丈夫。

 対してワピアはバルカラ様がどこからか拾ってきた魔族とドワーフの混血児だが、ゴブリンと見紛うばかりの醜い女であった。


 私達のやり取りを冷淡な瞳で見つめるのはラメス=オータル。

 そしてクルグネ配下のトラキという女魔術師。


 もしマルパレが兵を送って来ないとなるとあの砦を正面突破するのは難しい。

 と、なればやはり<転移>で強襲しつつ、セイの祝福を奪ったら撤退するか。


 ラメスとトラキは捨て駒だ。

 あくまでスーメイ党がセイの祝福を奪う為に利用させて貰おう。


『素晴らしい。それでこそ、ガデアである』


 珍しく、バルカラ様が<思念伝達>でお褒めの言葉を下さった。

 私達幹部にしか聞くことを許されない、異能<思念伝達>を聞く度に私の心は高揚感に包まれる。


 そうだ。

 バルカラ様の為にも、いち早くスーメイ党の祝福の数を増やさねば!

 私は奇襲作戦を立案し、さも当然の如く話を進める。


「もうマルパレは切ろう。この数では力押しは無理だ。そこで、砦内部に<転移>で奇襲を仕掛ける」

「待てよ。何故奇襲だ? 魔術師団が詰め込んである要塞に突撃だと? 馬鹿も大概にしろ。私は降りた。私はハイ=ディ=メアさえ殺れれば良いんだ」

「ラメス!!」

「私も、別にこの一件が終わってから女魔族を捕らえればいいだけですので……」

「お前もか」


 そこにマルパレからの兵が出陣したとの報告が入る。

 当初の兵の倍、それに傭兵も加えて三倍の兵力がこちらに向かっているとの報告だ。


「少し飯を食ってくる」

「あ、私もー。ガパラさん、たまご焼いて下さい」


 私は<火槍>の詠唱をしたくて堪らなかったが、捨て駒どもが前線に立つのだから、と自身を諫めながら気を静めた。


 しかし、マルパレからの兵は援軍では無かった。

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