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109 暗躍する者達 ①

「しかし凄いよな。なんとセイ殿はリリオスと和解して来たんだって?」

「うん。リリオスは憑き物が落ちたみたいに穏やかな奴になってた」

「マジかよ!」

「うん。俺も驚いたくらいだからな」


 コモンの問い掛けに応えながら、俺は酒を飲んだ……フリをしていた。

 実際には≪悪食≫を使ってエネルギーへと置き換えながら、周りを警戒していた。


『セイ。わたくしの感でしかないのですが、ラメス=オータルから憎悪の炎が垣間見えます』


 メアにそう伝えられた時、俺もイスティリも大きく頷いた。

 

 ラメスは危険だ。

 そこに居た三人の意見が一致したからには警戒しておいて損は無い。


 俺たちは常にこういった状況下で後手を踏んで失敗していた事から学んできた。

 ゆっくり休息するのはセラの中でだけだ。


 日が完全に落ちてしまうと、イズスに掛けて貰った秘術<夜のとばり>が発動する。

 魔術に疎い俺ですら、意識を集中させれば周りの人々の気配が手に取るように分かった。

 

 気配は個々に違った。

 それは体を取り巻くように形成される虹に似た揺らめく光。

 そう感じられた。


 蒼く揺らめく炎はイスティリ……上品な薄紫のオーロラはメアだ。

 ウシュフゴールはオレンジ色の陽炎……セラは白銀の月光といった所か。

 

 コモンは濃い銀色で、配下達は彼よりもっと薄くて小さい。


 唐突に真っ白な陽光が差し込んできて驚いたが、出所は膝に乗っていたアーリエスだった。


「まぶしいな」

「すまん。セイ殿がオーハを見ている気配がしたので、調子に乗った」

 

【解。オーハは生体が発するエネルギーである。地球ではオーラ等と称されている。主は現在オーハを可視化する力を得ているので見る事が可能である】


「なるほど。所で、聞きたい事があるんだ」

【解。まずはお代わりを頼め。≪悪食≫をカットして胃に流し込め。話はそれからだ】


 おおっと。

 そういやこいつの唯一の楽しみが酒に酔う事だったな。

 俺は酔わない程度にエールを飲む事にした。


「今日は酩酊するほど飲めないんだ。これで我慢してくれよ」

【解。了解した。次回に期待する。用件は何だ?】

「もし『出来レース』みたいに地球でしか通用しない言葉が出て来て、俺がそれを拾えていなかったら教えてくれないか?」

【解。許可なく能動的に行動する事は禁じられている】

「そういうなよ? 次は沢山飲むからさ……」

【……解。……約束を違えるなよ?】


 流石テマリの祝福だけあって結構自由度高いよな、この疑似人格。


「そうだ。お前にも名が無いとな。いつまでも『完璧言語の補助人格』じゃあな」

【解。必要ない】

「そう言うなって。そうだ『酒好き』とかどうだ?」

【解。それなら『スピリット』として欲しい。酒のスピリットと精神のスピリットのダブルミーニングである】


 こうして疑似人格は『スピリット』と呼ばれる事になった。


 話が横道に逸れてしまったが、ラメスへの警戒は怠って居なかった。

 俺が座った席からはメアとイスティリがはっきりと見える。

 何故ならそういう位置取りを最初に取り決めておいたからだ。


 ウシュフゴールやコモン達は残念ながらラメスの外見を知らないので、セラの中から出る際に「敵対者が紛れ込むかもしれないので警戒して欲しい。エルフの女性だ。標的は恐らくメア」とだけ伝えた。


「ようし! お前達。聞いての通りだ。今からセイ殿が食事を用意して下さるが、決して酒に溺れず警戒して当たれ!」

『はっ』


 コモンは素早く配下を班に分ける。 

 アーリエスとシンは興味津々と言った様子でそれを眺めていた。


「のう? セイ殿。お主は敵対者に事欠かんの」

「そうですね。まあ仕方ありません。……とりあえずアーリエスさんもシンさんも食事にしましょう」


 そう、俺たちは同じ轍は踏まない。

 きっちりと打ち合わせをしてから『酔いどれ包丁亭』で食事をしていたのだった。


◇◆◇


 オリヴィエ=ソランは歯噛みしていた。

 宿の裏手から<遠視>でハイ=ディ=メアを追った所、明らかに警戒されていたのだ。


 彼女を中心にして『壁』が形成されている。

 殆どの者が獲物すら持たないが、それでもあの防衛体制は突破出来まい。


 彼女は冷静に考えた。

 焦る必要はない。

 焦らされたほうが、時間を掛けたほうが、より自身への燃料足りえる。


 復讐の炎にくべる薪として、ハイ=ディ=メアの首をくべるのだ。


 舐める様に<遠視>でメアを見ていたオリヴィエは、一瞬顔を仰け反らせた。

 次の瞬間彼女の<遠視>は解除されてしまった。


 メアが『見られている事に』気付き、イスティリがオリヴィエの気配を捕らえた。

 イスティリが指し示す方向に、メアが<解呪>を手当たり次第に連打したのだ。


「くっ。お見通しという訳か」


 だが、それでこそ私の獲物だ……。

 オリヴィエ=ソランは狂気を宿した笑みを浮かべ、夜のレガリオスへと消えて行った。


◆◇◆


「セイ。やはりラメスが来ていました。宿の裏手に潜んでいたようです」

「そうか」

「セイ殿。こっちから打って出ますか?」

「いいえ。セイ、ラメスはもう居ないと思います。彼女の呪文の打ち消しに成功した様子でしたので」

「だ、そうだ。今日はセラの中に避難しよう。明日はコモン達に装備を買わなくっちゃならんから早く寝ようぜ」

「敵さん、結構アッサリ引きましたね」

「なんせ屈強な戦士が十人居るからな!!」


 俺がそう締めるとコモンは破顔した。

 とは言え、危険が去った訳では無い。

 何か対策を取れないか、とブツブツ言っているとアーリエスが俺の膝から飛び降りてこう言った。


「何故そこまで思案する必要がある? あのお姉さんを一旦天使の中に避難させる。それこそ一月でも二月でも。その敵が諦めるまで退避させておけば良いだけだろう?」

「確かにそうだけど。メアはどう思う?」

「わたくしはセイの隣に居たいです。でも一先ず様子見でセラの中に居る事も必要じゃないかとも思います」

「よし、じゃあとりあえずメアは一旦セラの中で待機。その間に情報収集としよう」

「仕方ありませんね……」


 メアは俺の頬にキスをするとセラの中に入って行った。


 その日は大部屋にコモン達は雑魚寝し、交代で夜警に立ってくれた。

 俺と女性陣、それにトウワとシンがセラの中に退避する事になったのだ。


 男達が寝る大部屋の中央にセラを隠し、何かあれば逃げ込んでくるよう伝えた。

 セラには逐次報告を貰えるようお願いした。


(うふふ。良いですよ。その代わり、明日は瑞々しい果物を食べたいです!)

「分かったよ。約束だ」


 いつも通り、女性陣だけで水を使い、最後は俺が水を使った。

 トウワが水を飲みに来たので、彼の傘部分を布でゴシゴシやった。


(お前、嫁さん沢山貰って、金持ちになって、配下も出来たのに変わらないな)

「はは。人間簡単に変われないよ。だけど、強くなりたいよ。強くなって俺を慕ってくれる皆を幸せにしたい」

(そう思ってくれてるだけで報われてると思うよ。俺はお前の為になら死ねる)

「縁起でも無い事言うなよ」

 

 トウワは器用に布を持つと、俺の背中を拭ってくれた。

 

「セイ様ー。トウワさーん」


 イスティリが木の実に向かって来て手を振っていた。

 今日はアーリエスとプルアが木の実を食べるようだ。


「うわー。うわー。うわー!?」


 アーリエスは「うわー」だけしか言わなくなった後、イスティリから木の実の説明を受けて一生懸命地面を掘り返していた。

 その仕草はキツネそっくりで少し笑ってしまった。


「つわりで食べ物何て……と思ってましたが、これなら幾らでも食べれます」


 プルアはイスティリにしきりに感謝していた。  

 

「これは元々セイ様の所有なんだけどね。ボクの自由にして良いって言われてるんだ!」

「そうでしたか。セイ様ー、ご馳走様ですー」


 俺は頷きながら彼らの元へ歩み寄った。


「セイ様。ほうら、見て下さい。遂に指っぽいものが生えて来ましたよ!」

「本当だ!! やったな。イスティリ!」

「えへへへへへへっ」


 見てみると確かに掌から指っぽい突起が出て来ていた。

 俺は嬉しくなってイスティリを抱きかかえてクルクルと回った。


◆◇◆


 クルグネ=ハコン=ミ=レルゥはヘレルゥの別荘で休暇を取っていた。


「ほっほっほっ。久しぶりにクルグネちゃんの秘密の収蔵品でも見ましょうか♪」


 彼女は暖炉の裏に作られた隠し扉を開け、自身が四半世紀掛けて集めたコレクションを見に行った。

 その小さな隠し部屋にはガラス瓶が数百と置かれ、その瓶の中にはそれぞれ一つか二つの手が液体で保存されていた。


「これはアタシに逆らったオーガの族長の手。これはアタシを騙そうとしたドワーフの手。これは魔族を実験体に使った莫迦、ガッド=ガドガーちゃんの手♪」


 クルグネのコレクションは……生き物の手であった。

 彼女は生き物の手を収集していたのだ。


「禁忌の魔術で生かしてあるから♪ この手の持ち主は<再生>を唱えても<復活>を詠唱しても二度と復元しないのよね♪」


 彼女はいつもの奇妙な笑い声を上げながら自身の『宝物』を見て回った。

 

「そうそう。最後にあの魔王種の手を見なくちゃね。なんせ魔王の雛。良い勲章だわ~♪」


 そこで彼女は凍り付いた。

 瓶の中には……五つの指が浮いているだけだったのだ。


「えっ!? えっええ~!?」


 素っ頓狂な声を上げてからお手製のラベルを見て確認する。

 確かにあの『イスティリ』とかいう魔王種の物で間違いない。


「ま、まさか。本体で再生した分だけ、こっちが欠損していってる!?」


 クルグネは焦った。

 実際に『本体側』の手が再生していってるのだとすれば、いずれ『印』が結べてしまう。

 

『クラフトマンズ・ネストの力は、両手の印で作られる異空間への門。その門から前もって作成しておいた兵器群を自由に取り出す事が出来る、これに尽きます』

 

 クルグネ=ハコン=ミ=レルゥは大いに焦った。

 あの魔王種の手が再生した暁には……無数の兵器群がアタシの所領を襲う可能性だってあるのだ!!


 彼女は大慌てで情報収集の為の人員を手配する為、自身の拠点に<転移>で戻る羽目になった。


「ああっ。何てこと!! 折角の休暇が台無しじゃない!! あの魔族ちゃん、アタシを恨んで無いわよね!?」


 何とも身勝手な事を言いながら、彼女は出迎えた配下達に怒鳴り散らした。


「お前達!! 今から言う事を良くお聞きっ!!」

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