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99 奴隷都市レガリオス⑥

「次の商品は『踊る金貨』七十二枚です」


 従業員がそう告げると、四角いガラスの中に閉じ込められた金貨が運ばれてきた。

 その金貨はギャリギャリとガラスに体当たりを繰り返しながら浮遊したり、落下したりを繰り返していた。


「別名は殺人金貨ですね。魔法生物ですが宝物庫の番人として使ったり、敵対者の暗殺に使ったりします。わたくしも一度だけ戦った事がありますが、あの金貨の突撃で肋骨を折りました」

「えっ!? あの金貨、体当たりそんなに強いの?」

「ええ。十枚もあれば死人が出ますよ。わたくしの時は<雷撃>を打ち込んで一時的に機能停止させてから<解呪>で無力化させましたが」


 メアが教えてくれた情報であの金貨の恐ろしさが分かったが、たった十枚で死人が出る魔法生物が七十二枚。

 早速オークションが開始し、瞬く間に値段が跳ね上がって行く。

 あっと言う間に落札者は決まり、競り落とした人物はさも当たり前と言わんばかりにふんぞり返っていた。


 そんな感じで幾つかの競りが終わり、遂にリリオスの魔剣が競りにかけられる時が来た。

 

「次の商品は『レガリオス七宝剣』の内の一振り。魔剣ウシャガラです」


 どよめきが起き、それは熱気へと変わった。

 多くの者が食い入るように従業員が持ってきた剣を見つめ、魅入られた様に釘付けになった。


「そ、それは本物なのか!? 消失したはずではなかったのか?」

「<鑑定><解析><分析>等を全て行った上で本物だと断定しました。その能力は剣から走る衝撃波。素人を剣豪に、剣豪を勇者に仕立て上げる魔剣となります」


 なるほど、パエルルの様なズブの素人でも剣豪に等しい能力を得られるのだとしたら、彼が奥の手として持参した経緯も分かる。

 等と考えていると、またたくまに入札合戦が繰り広げられ、あっと言う間に桁が跳ね上がって行った。


「そうだ! リリオスの魔剣が出てるんだ! 幾らまでなら用意できる? いや、有り金全てだ! 明日の支払いも遅延させて構わん!!」


 杖を持った男が興奮気味に<念話>なのだろうか、早口で外部と連絡を取っていた。

 他にも配下を急ぎ外に走らせる者や、頭を搔きむしりながら「くそう! くそう!」と連呼する者、警戒しているのか腕を組んで全く参加しない者も居た。

 

 そんな中でも値はどんどん吊り上がって行く。


 そこに二人の男がいきなり空間から飛び出して来た。

 一人は太ったエルフで、豪奢な衣服を身に纏っていた。

 もう一人は用心棒なのだろうか、腰のベルトに短い杖を刺したヒューマンだった。


「リッ、リリオス……様!?」


 何と、リリオスご本人の登場であるようだった。


「現在の価格は幾らだ?」

「今は64,000金貨となっております」

「ふむ。ではその倍に」


 いかに領主と言えども、そして例えここが闇競売所だとしても、ルールはルールなのか、彼は周りを一瞥すると、入札に参加し始めた。

 しかしいきなり倍額になった値段に太刀打ちできる者は居なかった。

 あちこちから悲鳴が上がる。


 カンカン! と木槌が叩かれて競りは締め切られた。


「まったく……バカ息子のせいでとんだ出費だ」


 彼はそう呟くと、辺りを見渡し、俺を発見すると歩み寄って来た。


「お前はセイだな? そうだろう? <遠見>で顔を見た事があるぞ」

「ああ」

「今ここでの支払いはきっちりさせて貰う。が、覚えておけ、この償いは必ずさせてやるからな」


 リリオスはそう捲し立てると「フンッ」と鼻息荒く別室に向い、支払いを済ませた。

 彼の腰の皮袋から、音を立てて金貨が計りに乗せられて行く。

 流石に量が多すぎるからか、数えるのではなく重さで計数するらしかった。


 リリオスが俺を睨む。

 金貨を出しながら、俺を睨む。


 俺は睨み返し、イスティリは用心棒にガンを付けていた。

 用心棒はと言うとイスティリの視線をイライラした様子で受け止め、しきりに腰の杖を触っていた。

 メアは額に汗の玉を浮かべながら黙っていた。


「お、お客様方。ここが闇競売所と言えども殺しはご法度でございます」

「そんな事は言われんでも分かっておる!」

「最初に喧嘩を売って来たのは向こうだろ。何で『お客様方』なんだよ」

「後で殺す」

「何だと、やれるもんならやってみろよ!! このデブエルフ」

「やれ! もう我慢ならん!」


 用心棒が杖を抜く。

 ほぼ同時にイスティリが動き、その用心棒を羽交い絞めにした。


「お客様方!! これ以上なさるんでしたらこの競売は無かった事にします。早々にお引き取り下さい!」

「……」

「……」


 仕方なく二人とも折れ、ひとまずは清算した。

 沈黙という名の針の筵の中で従業員は作業を終え、俺に金貨の詰まった魔法のポーチをくれる。

 手数料で幾らか差し引かれはしたが、これで明日の競売への軍資金は手に入った。

 リリオスは苦虫を噛み潰したような顔をしていたが、それでも自慢の魔剣が戻ってきた事で少し納得したのか、また魔法で搔き消える様に立ち去って行った。


 俺たちも用件は済んだので階段を上り外へ出ると、酔っ払いに扮した番人はギョっとしてから舌打ちをした。

 そりゃそうか、一人入れたら三人上って来たんだからな。

 とは言え、特に何も言われるでも無かったのでそこを立ち去ると、数人が尾行して来た。

 

「セイ様。どうしましょう?」

「面倒だからセラの中に入ってやり過ごすか」


 セラが心得たとばかりにコココと音を出す。

 俺たちは路地裏に入るとセラの中に退避した。


(いないっ。どうしてだっ。探せー、まだ遠くへは行って居ないはずだ。見つけ次第殺せっ)


 少し演技力が向上したセラが実況中継してくれる。

 こうして俺はリリオスの魔剣を本人に売りつけ、莫大な金を手に入れたのだった。  

 

◇◆◇


 私は不意を突いて、背後から男を切りつけた。

 その男は、まさか私から攻撃を受けるとは思っても居なかったようで、信じられない、という顔で大地に横たわり、荒い息を吐いた。


「何故だ!? オリヴィエ=ソラン? 元『勇者の雛』だと聞いて心を許したのに!」

「知れた事を。私は全ての『雛』を殺す。私の願いはただそれ一つなのだ。故にお前を殺す」

「……そんな事をして何の意味があると言うのだ! 魔王降臨時に後手に回れば死者が増えるだけだぞ」

「そんな事はどうでも良い。私は『影』に復讐さえできれば良いのだ。……お前が『勇者の雛』と発言できるという事は、制限を解かれ、雛で無くなった事を意味しているな? 私はまた一つ影に復讐できた訳だ。アッハハハハ!」


 自然に笑みが零れる。

 視界の隅で『影』がちらつき、消えた。


「確かに俺は『脱落』した。い、今、治療すればまだ助かる。命だけは助けてくれ」


 馬鹿か。

 後腐れの無い様に殺すに決まっているだろう。


 私はその男に止めを刺すと、ダイエアランを立ち去った。

 次に向かうのはレガリオスだと決めていた。

 そこで一旦偽の身分を購入し、改めて南下する。


 次の目標はドゥアの僧侶ハイレア。

 シュアラ学派の長グナールの秘蔵っ子ハイレア。


 最も先に『勇者の雛』として生を受けた事が幸いした。

 『告知』により雛となった者達の姓名を知り得ることが出来たのだから。


 それを生かし、私は『勇者の雛』を全て抹殺する。 

 私、オリヴィエ=ソランはその為に生を受けたのだ。

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