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エピローグ 旅は続くよ、どこまでも

「ねえねえ、アンデルスおじいちゃん! その後魔王たちは、どうなったの?」


 暖炉の前で、小さな男の子が目を輝かせながら話の続きをねだる。

 そんな孫に微笑み返しつつ、老人――アンデルスは遠くを見つめながら口を開いた。


「そうさのう……。もらった手紙によれば、その後あの二人は隣の大陸に渡ったらしい。『本の国』と呼ばれる王国で、出版革命を起こしたそうだ」


「何、それ」


「お前が持っている絵本……あの本の作り方を広めたのはヨシマサたちだ。お前が今絵本を楽しめるのは、あの二人がいるおかげなのだぞ」


 アンデルスが、棚に置かれた本に目をやる。

 それはいつか、ヨシマサがユーリとクレアに教えた手法――画帖装がちょうそうで作られていた。他にも、棚には和装と呼ばれる装丁の本が何冊か並んでいる。

 ヨシマサたちが『本の国』でこれらの装丁方法や和紙の製法を広めまくった結果、本は庶民にも手が届く娯楽となったのだ。


「へえ~。ヨシマサって、バカなのにすごいんだね!」


「彼はやる時にはやる男だからな。セシリアが誘拐された時には、誘拐犯を追って大陸を横断したそうだし」


 アンデルスが愉快そうに目を細める。

 思い出に浸る祖父へ、孫はふと疑問を投げかけた。


「ねえ、おじいちゃん。ヨシマサたちは、今どうしているのかな?」


「そうさなぁ。彼らは魔王と邪神。不老にして不死の存在だ。きっと、今もどこかでじゃれ合いながら旅をしているじゃろうよ」


 そう言って孫の頭を優しく撫でながら、アンデルスは窓の外、遠い空へと目を向けるのだった。



 ◆◇◆◇



「ヨシマサ~、メシ~」


「今作ってるだろうが。おとなしく待ってなさい」


「む~。わらわはお腹と背中がくっつきそうなのじゃ~」


「ふむ、腹と背中の皮でもたるんできたのか? 歳には勝てんかったようだな。かわいそうに……。――フンッ!?」


 セシリアが投げてよこしたフォーク(推定145㎞/h)を鮮やかにキャッチする。

 フッ!

 甘いぞ、セシリアよ。

 フォーク一本で俺を仕留めようなどと――シュパパパパッ! ――わぁああああああああああ!?


「てめえ、手当たり次第にナイフやらフォークを投げてくるんじゃねえ。マジで殺す気か!」


「ハン! どうせこのくらいじゃ死なんわい。おとなしく粛清されよ!」


 言っている間も絶え間なく銀食器を投擲してくる我らがお姫様。

 共に旅を始めてウン十年。最近は多少おとなしくなったかと思ったが、全部勘違いだったわ。

 腹黒ポンコツ邪神はどこまでいっても腹黒性悪ポンコツ寸胴邪神だっ――シュパパパパパパパパパパッ! ――って、どんだけ投げてくんだ、てめえ。異次元収納空間から無限装填してんじゃねえよ、クソ野郎!


「チッ! 仕方ないのう……」


 舌打ちしつつ、ようやく投擲をやめたセシリア。

 ふむふむ、少しは反省したようだな。

 善きかな、善きか――へぶらっ!


「まあ、今日はこのくらいで許してやる。感謝するがよいぞ」


「あ……、ありがとう……ございます……(ガクリ)」


 頭上から冷蔵庫は……反則だろう……。

 相変わらずどんだけ家電の宝庫なんだ、あの異次元収納空間。


「それよりメシ~。わらわ、腹が減りすぎて死にそうじゃ~」


 いや、むしろ俺の方が死にそうですが……。


「ヨシマサ、天気がいいからってそんなところで寝ておるんじゃない! さっさとメシの支度をせんか!」


 誰の所為だ、誰の。

 催促の前にまず俺に謝れ。


 ――グ~! (←ヨシマサの腹の音)


 …………。

 まあいい。

 俺も腹が減ったし、さっさとメシの用意を済ませちまおう。


「……ん?」


 なんか今、懐かしい声を聞いた気がしたんだが……。

 まあ、空から声なんて聞こえるわけないか。

 俺もちょっとボケてきたのかねえ。いやはや、歳は取りたくないものだ。……外見まったく変わってないけど。 


「ヨ~シ~マ~サ~」


「へいへい。今できるから、少し静かにしていろ」


 セシリアをあしらいつつ、調理を再開する。

 空は快晴。雲一つなし。

 俺たちは今日も元気だ!


〈了〉

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