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嫁ゲット!

「はい! ミスコンの結果発表ならびに表彰式でした。では、引き続きウルス村収穫祭後夜祭に入って行きたいと思います。皆さん、今夜は存分に飲んで食って歌って踊って叫んでください! ――それではミュージック、スタート!?」


 司会の合図で街中に音楽が流れだす。

 

 フフフ。

 待ち焦がれていたこの瞬間。

 いざ行かん、アヴァロンへ。(←劇画タッチ)


「お嬢さん、一曲私と――」


「あの、アンデルスさん」


「…………。あの~、おじょ~さ~ん」


 無視されると、僕すごく悲しいな~。

 でも、俺はめげん!


「お嬢さん、私と――」


「邪魔です。ちょっとどいて下さい」


「へぶらっ!」


 軽く押しのけられただけで、ステージの外まで吹っ飛ばされました。

 さすがアマゾネスとター○ネーターの娘。奥ゆかしく見えても、しっかりその血を受け継いでいる。

 油断したぜ……。(ガクリ)


「おーい、大丈夫かー」


 吹っ飛ばされてひっくり返った俺の頭を、セシリアが棒でつつく。

 やめなさい、微妙に痛いから。


 しかし、今日の俺はへこたれない!

 不屈の精神でもう一回アタックだ!


「おお、ストーカー張りのしつこさじゃ。超キモイ」


 なんとでも言え。

 今日は、俺の一世一代の勝負なのだ。

 目指せ、嫁ゲット!


「お嬢さん――」


「アンデルスさん、私と結婚を前提に付き合ってください!」


「私と踊って――なんですとーっ!」


 いきなり負けた!

 一世一代の勝負、開始1分持たずにK.O.された!

 しかも、よもやの人畜無害代表っぽい前魔王によって!

 てか、奥ゆかしそうに見えて意外と肉食系だな、ミラさん。さすが、あの二人の娘!


 あと、今更ながら思い出した!

 この娘、以前やたらとアンデルスに懐いていた女の子だ。

 クッ……!

 あれはこういうことだったのか。

 ちくしょう。さっさとあの前魔王を爆発させておくべきだった!


「ええと、ミラさん。それはどういう……」


 真っ赤な顔して頭を下げるミラさんを前に、戸惑い気味の前魔王。

 状況が飲み込めていないって顔だな。

 くっそ~!

 何で俺ではなく、こんなヤツがモテるんだ。


「私、あなたがうちの食堂に顔を出してくれるようになってから、ずっとあなたの事が気になっていました。寝ても覚めても、頭の中はあなたのことばかり。それで気が付いたんです。私は、あなたのことが好きなんだって……」


「ミラさん……」


 顔を真っ赤にしたまま、思いを告げるミラさん。

 対して前魔王も、満更ではない様子。

 これ、実は前魔王も気づかない内に意識していたとか、そういう流れじゃね~?

 うわ~、見せつけてくれちゃうね~。

 忌々しい……。

 今すぐ爆発してしまえ。


「僻みは見苦しいぞ、ヨシマサ。ぷくく……」


「うるさい!」


 笑うの我慢しながら言ってんじゃねえよ、クソ邪神。

 そして、司会と解説!

 ステージの脇でガッツポーズの上、ハイタッチしてんじゃねえ。

 なんだ、その『正義は勝つ!』的な雰囲気は!

 くっそ~、マジムカつく。


 忌まわしき仇共に拳を震わせ、一目も気にせず地団太を踏む俺。

 その間にも話は進み……。


「あの……、どうでしょうか……」


「あ、はい。その……こちらこそ、よろしくお願いいたします」


 真っ赤になって震えるミラさんの手を、同じく真っ赤になった前魔王が握る。

 同時に、ミラさんの宝石のような瞳から流れる涙。周囲から湧き上がる、割れんばかりの歓声。

 ジルおばさんたちをはじめ、村の連中が祝福するように囃し立てる。


「…………」


 そして……その輪の外で取り残される俺。

 こちらを指さしてプギャーと大拍手の司会と解説。 

 不幸だ……。

 不幸すぎる……。


 祝福ムードいっぱいの中、立ち尽くす俺。

 周りはバラ色一色なのに、なんで俺だけ灰色一色なんだ……。


「……うむ。やはりこれが一番じゃな」


 と、俺が人生の無常を好みいっぱいに感じていた時だ。

 さっきまで俺を棒でいじっていたセシリアが、不意に立ち上がる。


「おい、セシリア……」


「なんじゃい」


「……いや、なんでもない」


 一瞬向けられた顔。

 その表情は、今までに見たことがないくらいすっきりとしたものだった。

 なんか知らんが、こいつの中で一つ決着がついたみたいだった。

 そして、あいつが何に対して決着をつけたのかも、よくわかった。

 だったら、俺に言えることはない。


「呼び止めて済まんかったな。――行って来い」


「うむ」


 俺の方を見ずに頷いて、セシリアが歩き出す。

 そのまま村人の輪の中に飛びこみ、器用にアンデルスの前へとたどり着いた。


「アンデルス、嫁さんゲット、おめでとうなのじゃ!」


「うん。ありがとう、セシリア」


 前魔王が照れくさそうに微笑む。

 相変わらず、曇りのないキラキラした笑顔だな、おい。

 まあ、だからこそ、村の連中からこんなにも愛されているんだし――セシリアも決心がついたのだろう。


 あ~あ。今回の俺、徹頭徹尾完全にピエロだったな。

 とはいえ、色々丸く収まったみたいだし、良しとするか。


 そんなことを考えつつ、俺はセシリアと前魔王のやり取りを見守った。


「それでのう、アンデルス……」


「ん? どうしたんだい、セシリア」


 子供のように純真な笑顔で、前魔王がセシリアを見る。

 対してセシリアは、外見と性格に似つかわしくない落ち着いた優しい笑顔を浮かべ……、


「以前話していた、この村に留まるかどうかという話じゃけどな……。今決めた。――わらわは、やはりヨシマサといっしょに旅をするのじゃ」


 と、実にサバサバした口調でのたまった。

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