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突撃、邪神砲!

「ゲェエエエエエエエエエエ!!」


 ドラゴンの主においしくいただかれたと思った数瞬後。

 目をつぶった俺の耳に、この世のものとは思えない、ひどく辛そうなえずき声が大音響で聞こえてきた。

 直後、生ぬるい湿った空気と妙に柔らかい壁の圧迫感がなくなり、冷たい風と浮遊感が俺を包んだ。


「うお! 冷てえ! 一体何だ!?」


 何が起こったのかと目を開けてみれば、そこはドラゴンの腹の中ではなく空中だった。

 つまり俺、セシリアといっしょに落下中。

 とりあえずこのままでは母なる大地にキッスしてしまうので、仙人パワーで落下を止めてみる。


「た、助かったのじゃ!」


「しかし、どうして……?」


 理由がわからず、セシリアと二人揃って上を見上げてみたら、ドラゴンの主がえずきながら目を回していた。


 ……………………。


 ほうほう。

 これはつまり――。


「「あまりのこいつ(こやつ)の不味さに、ドラゴンが耐え切れなくなって吐き出したということだな(じゃな)」」


 声をハモらせた上で、互いに睨み合う俺とセシリア。


 ああん?

 どう考えても原因は俺じゃなくてお前だろう。

 邪神なんて病原菌の親戚みたいなもんだろうが。


「誰が病原菌じゃ。その言葉、そっくりそのまま返してやるわ。大方、彼女いない歴=人生の童貞男の肉は想像以上に不味かったのじゃろうよ。なんたって、正真正銘まごうことなき売れ残りじゃからな」


「誰が売れ残りだ! 俺は売れ残ってんじゃなくて、熟成の真っ最中なんだ!」


「熟成? 腐敗の間違いではないか?」


「てめえ、言わせておけば~」


「ふが~! あいううおじゃ~!(←注釈:何するのじゃ~!)」


「ハハハ! 要らんことばかり言う口なんぞ、こうして――ほが! へめえ! あにいああう! (←注釈:てめえ! 何しやがる!)」


「アアア! おあえいじゃ、うあいううあ! (←注釈:ハハハ! お返しじゃ、ブサイク面め!)」


「へめえおいおのおおいえあいあおうあ! (←注釈:てめえも人のこと言えないだろうが!)」


 互いの口に指を突っ込んで引き伸ばし合う俺とセシリア。

 

 ちくしょう!

 このクソガキ、まったく放しゃしねえ。

 どんだけ性格ひん曲がってんだ! (←そう言いつつ、自分も決して放さない)


「いああおおえああいあ! (←注釈:貴様ほどではないわ!)」


 ああん?

 こんな品行方正な性格イケメン、他にいねえだろうが。

 性格ひん曲がり過ぎて、目も節穴になってんじゃねえか、てめえ。


「アアア! いんおうおうえい? えいあういええん? えおえちゃおああうあ! (←注釈:ハハハ! 品行方正? 性格イケメン? へそで茶を沸かすわ!)」


 いい度胸だ、クソガキ。

 すぐに貴様をもう一度、ドラゴンの主の腹の中に押し込んでやる。

 のど元過ぎれば、味なんて関係ないだろうから――って、うん?


 なんか、急に暗くなってきた気が……。

 あれ? ついでに上から轟音とともに何か降ってくるような気も……。


「あんたたち、さっさとそこから離れな! 危ないよ!」


「潰されちまうぞ!」


 魔王仙人モードのおかげで、この轟音の中でもよく聞こえる、フライパン食堂のおばさんとおじさんの声。

 なんだろうな、すごく嫌な予感が……。


「セシリア、ヨシマサ! ドラゴンの主が落ちてくるよ! 早く逃げてーッ!!」


 遅れて聞こえてきた前魔王の声。

 いがみ合っていたことも忘れ、真っ青な顔でギギギ……と上を見上げる俺たち。

 そこにあったのは――完全に気絶してゆっくりと下降してくるドラゴンの主の視界に収まり切らない巨体だった。


「「のわぁあああああああああ!」」


 やばい、やばい!

 ドラゴン、落ちてきてる!

 このままじゃ、確実にぺしゃんこ。

 ヘルメットとプロテクターをつけてようが、体が頑丈だろうが、そんなの関係ない。

 確実にDEATHる!


「ヨシマサ、急げ! 急いで、ここから脱出じゃ!」


「いや、なんか気流がおかしくなってるし、正直、仙人パワーだけじゃあ、どうしようもないんだが」


「使えん男じゃのう! だからモテんのじゃ!」


「それ今、関係ないだろう!!」


 この緊急事態でも安定の罵り合い。

 我ながら、超余裕しゃくしゃくだな、おい! いや、全然余裕じゃないが。


 何か~、何か手はないものか~。


 ――って、ああ!


「おい、セシリア!」


「なんじゃい、役立たず!」


 こいつ、投げ捨てようかな。

 ……いや、それやると俺が助からなくなるので、今は我慢。


「助かる手あるよ! お前の異次元収納空間使ったテレポートやればいいじゃん!」


「…………。――ッ!?」


 目を見開き、『ああ、そっか!』と言わんばかりの様子で手を打つセシリア。

 お前、自分の唯一自由に使える能力くらい憶えとけよ!


「あん? そんなこと考えていてよいのか。今やお主の命が助かるかは、わらわの気分次第なのじゃぞ?」


 こいつ、最悪だ。

 助かる手段が見つかり、尚且つそれが自分に委ねられているとわかった瞬間、手のひら返しやがった。

 これはマジで一人逃げ出すとかしかねんな。

 ……仕方ない。

   

「むがっ! ちょっ! 放さんか!」


「ハハハ! 放してほしくば、さっさとここからテレポートするがいい!」


 セシリアの首をスリーパーホールドで固め、ついでに暴れられないよう、足で腕と胴体の動きを封じる。

 傍目から見て完全に童女を襲っている変質者だが、命には代えられん。

 第一、こいつ見た目童女なだけで中身ババアだからノーカン、ノーカン!


「うわーん! 変態ロリコン野郎に犯されるーっ!?」


「黙れ、年齢詐称年増邪神! さっさと飛べ!」


「貴様、言ってはならんことを!」


 膝を軸に、俺の股間めがけブーツの踵をぶつけようとするセシリア。


 ハハハ!

 残念だったな。

 位置的に貴様の短い足ではここまで届くまい。

 バーカ、バーカ!


 ――ただ、危機的状況に一瞬頭から飛んでいたが、俺の敵はこいつだけではなかったわけで……。


「おーっと、ヨシマサ選手! ここでなぜか、セシリア選手に抱きついた! 死の危機を前に気でも狂ったのか、このロリコン変質者!」


「お巡りさん、この人です!」


「貴様らも黙ってろ! あと、俺は断じてロリコンでも変態でもない。ただのイケメン紳士だ!」


 いまだについてきている球体に向かって、「ガルル……」と威嚇する。

 すると、何が気に入らなかったのは司会は……、


「なお、この気色悪い模様は映像魔法によって村の方にも絶賛配信中です。お巡りさん、準備の方をお願いいたします♪ ――生きて村から出られると思うなよ、自称イケメン野郎」


 と、禁断の一手を打ってきやがった。


「チッ!」


 ――ボシュ!


 とりあえず、カメラ代わりの球体を魔王仙人パワーで吹き飛ばしておいた。

 これで証拠映像がさらに流れることは回避できるだろう。

 あとは、村に着いてから対処するとしよう。

 チーム戦術だとか、状況に合わせた緊急手段だとか言っとけば、何とかなるかな。

 実際、緊急事態だし!


「ヨシマサ、セシリア! 何やってんの! もう時間がないよ!」


「おう。すぐに脱出する! ――さあセシリア、いい加減観念しろ。でないと、お前も助からないぞ」


「…………」


「セシリア?」


 なんか妙に静かだなと思って、セシリアの顔をのぞきこむ。

 そしたら……セシリアが白目向いて気絶してやがった。


「やべえ! 力入れ過ぎた!」


 司会と解説に向かってハッスルしていた時に、力を込め過ぎてしまったらしい。

 セシリアは完全に落ちていた。


「起きろ、セシリア。マジ頼んますよ、先生!」


 揺さぶっても往復ビンタしても起きやしない。

 完全にグロッキー入ってやがる。


 上を見れば、もう目前に迫ったドラゴンの主の巨体。

 ヤバい……。

 詰んだ。


「――なんて言ってられるかぁああああああああああ! アイル・ビー・バァアアアアアアアアアアック!?」


 仙人パワーをフルバーストさせ、空気を蹴る。

 荷物(←セシリア)が邪魔だが、捨てている時間も惜しいので、そのまま全力疾走だ。

 俺は今、風になる!


「魔王の力、舐めんなよーっ!?」


 学生時代もやったことがないような力の限りの全力疾走。

 だって、命が懸ってるんだもん。


 ただ、それでもドラゴンの主が起こす乱気流でうまく進めやしない。

 俺が四苦八苦している間に、ドラゴンの主の体は鱗の傷が判別できるくらい間近になっていた。


「やむを得ん。セシリア、恨むなよ」


 白目向いたセシリアに、一先ず合掌。

 まあ、こいつも死にたくないだろうし、恨まれはしないだろう。

 そう勝手に結論付けた俺は、空中を走りながら、お荷物(←セシリア)にガッチリと鎖を結びつける。

 

 ……よし。

 これなら外れはしないだろう。


 万全の準備が整ったことを確認し、俺はダン! と空中で足を止めた。


「いくぞ、ハンマー投げ作戦パート2!」


「むにゃ?」


 なんかお荷物が目を覚ました気がするが、もはや止まれないし関係ない。

 俺は重し(←セシリア)が付いた鎖をぶん回し……。


「にゃああああああああああ! なんじゃ、これはぁああああああああああ!」


「テイクオフ!」


 勢いが付いたところで、前方の空へ向かってぶん投げた。

 

 回転の勢いと魔王仙人パワーの膂力で投げられたセシリアは、一気に亜音速を突破。

 ドラゴンの主の落下圏内から抜けていく。

 で、俺はというと……。


「ハハハ! 見よ。これぞ最強の脱出技、邪神砲弾だ!!」


 セシリアに括り付けた鎖の反対側は、当然俺の腰に巻き付いている。

 つまり、セシリアが飛ぶ勢いによって俺も亜音速を突破し、悠々と落下圏内から脱出できたというわけだ。


 ――ズドォオオオオオオオオオオンッ!!


 背後で、とてつもない轟音と土煙が上がる。

 どうやらドラゴンの主が地面に到達したらしい。

 

 これって、一応俺たちが落としたことになるんだよな。

 何たって、ドラゴンの主が落っこちた原因を作ったのはうちのセシリアなんだから。(←自分が原因だとは決して認めない)

 そうだよな!

 ぃよっしゃーっ!?

 

「ハーッハッハッハ! 見たか、俺たちの優勝だ!」


「ヨシマサ~! 貴様、後で絶対死なしてやるのじゃーッ!!」


 セシリアに引っぱられたままガッツポーズをかました俺は、そのまま再びお空の彼方へと飛び去ったのだった。

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