ジョブチェンジ、大道芸人!
「ねえねえ、おじちゃん」
「ん? どうしたのかな、お嬢ちゃん。迷子にでもなっちゃったのかな?」
「ううん、ちがうの。あのね、いまからわたしのおにいちゃんが、おもしろいげいをやるんだ。だから、みにきてくれるとうれしいの」
ここで上目遣いに目をウルウルさせる。
――よし、バッチリだ。
「え? そうなのかい? 仕方ないな。お嬢ちゃんみたいなかわいい子に頼まれたら、見に行かないわけにはいかないね。どこでやるんだい?」
「えへへ、ありがとう。こっち、こっち」
よっしゃ。
カモ、ゲット!
これで五人目だ。
セシリアが金づる――客を連れてくるのを眺め、心の中でこぶしを握る。
これぞ、俺がセシリアに授けた必勝の策。
舌っ足らずな声とかわいい仕草でロリコン男の心を鷲掴み作戦だ。
あいつ、素の性格はアレだけど、見た目は超絶美少女だからな。
バカな男が次々と引っかかるわ。ククク……。
あ、一応言っておくが、これは別にあいつを売っているわけじゃないぞ。
ただちょっと、あいつの長所を活かした客引き方法を選択しただけでゲスよ。
そう。これは手持ちの駒と男の心理を利用した巧妙なマーケティングなのでゲスよ。
ゲスゲスゲス! (←ゲスな笑顔)
なお、作戦の性質上、あいつの身に危険が及ぶ可能性もあるので、護身用にスタンガン(例の異次元収納空間に入っていた。一体どこで手に入れたんだろう?)を装備させてある。
トロールとかいう巨人も一発で昏倒する威力だそうだから、ロリコン男ぐらいイチコロだろう。
加えて、俺から十メートル以内にいるようにしてあるので、魔法で応戦する準備も万全だ。
お触り厳禁。守れないマナー違反者には裁きの鉄槌を、ってな!
――お! そうこうしている内に、客も結構集まってきたな。
セシリアが連れて来た客に加え、その客に釣られて興味本位で足を止めた連中もいる。
これだけいれば、スタートとしては上々だろう。
あとは面白い芸をするだけ。そうすりゃ客はさらに増えていく。
「おい、セシリア。もういいぞ」
小さな声で、客引きを続けようとするセシリアを呼び止める。
「ぬ? そうか」
「ああ。サンキューな。見事な働きだったぜ。さすがは邪神様だ」
「ぬふふ! まあ、わらわがちと本気を出せば、これくらいは当然じゃな」
またもやエッヘンと胸を張るセシリア。
今回ばかりは完全にこいつの手柄だ。
素直に感謝だな。
ありがとう、俺の愛しの邪神様。
さーて、セシリアも頑張ってくれたわけだし、こっからは俺も本気で行きますか!
「レディース、エン、ジェントルメン。本日は私のショーにお集まりいただき、誠にありがとうございます。本日は皆様を素敵な魔法の世界へご案内いたします」
モテたい一心で身に付けた宴会トーク術(料理同様、使う機会なかったけど……)。
その力をここで如何なく発揮する。
「では、最初の演目、張り切っていってみましょう。皆様、空にご注目ください!」
全員の視線が、星々が輝き始めた空に向く。
同時に俺は『これでバッチリ! 宴会魔法大全』を開き……、
「【ファイアドラゴン】!」
空に向かって火を噴いた。
俺がふいた火は、すぐに蛇みたいな方の龍の形になって空を飛び始める。
こうなると、市場の端っこという場所も活きてくる。
他に店がない分、思いっきり火の龍を飛ばしまくれるからだ。
「おお!」
「こいつはすげえ!」
パチパチパチ!
間近を飛ぶド迫力の龍に、観客から拍手と歓声が上がる。
それが呼び水となって、さらに多くの人が足を止めだした。
よーし、ここが魅せどころだ。
「はーい、皆様ご注目!」
俺は言葉と同時にもう一匹の龍を空に放つ。
龍は二匹で渦を巻くように飛んで行き……、
――ドドーンッ!!
上空で綺麗な花火となって弾けた。
「うおっ! なんだこれ。すげえぞ、兄ちゃん!」
「きれいね~」
「いいぞ、もっとやれー!」
拍手喝采。あちこちから口笛やら歓声が木霊する。
ハハハ。これくらいで驚いてもらっちゃ困るぜ。
「さあさあ、皆様! 炎の龍による演舞の次は、氷のアートでございます。どうぞ心行くまでお楽しみください!」
俺たちの店の前は、最早軽いお祭り騒ぎ状態だ。
高々と打ち上げた花火を目にし、市場のあちこちから次々と客が駆けつけてくる。
観客がどんどん増える中、俺は期待に応えるようにさらなる魔法を繰り出し続けるのだった。