お空の彼方へ
「さあ、競技も中盤戦を過ぎ、クライマックスが近くなってまいりました!」
「ここまで参加20チーム中、10チームが見事ファイアドラゴンを撃墜、残り8チームが惜しくもドラゴンに敗れてリタイアですか……。――ふむ、今年はなかなか優秀なチャレンジャーが集まったものです」
「まったくですね、解説のピエールさん。なお、現在のトップはチーム・漢気が自慢の筋肉で叩き落とした27m級です」
ドラゴンの飛翔に振り回されながら、司会と解説の中間発表に耳を傾ける。
最初はこの錐揉み回転に四苦八苦したものだが、慣れてこればなんてことない。
所詮は絶壁邪神を乗せて喜んでいるロリコントカゲのぬるい飛行。魔王仙人モードになった俺には、恐れるに足らずといったところだ。
なーっはっはっは!
「おい、ファイアドラゴンよ。後ろの貨物が調子こいているのでな。ちょっと黙らせるのじゃ」
「キシャーッ!」
――ぐるん、ぐるん……。
さーて、それでは遊覧飛行を楽しんで……お?
何やら錐揉み回転が大車輪に変わって……。
――って、ゴルァ、クソドラゴン!
尻尾動かして鎖を回してんじゃねえよ。
回転が変わったら酔っちまうじゃねえか!
――グルグルグルグル……。
「ぎゃぁああああああああああ! 目が回るぅうううううううううう!」
おいこら、トカゲ!
調子に乗ってんじゃねえぞ。
今なら許してやるから、さっさとやめろ!
「ハッハッハ! どうじゃ、ヨシマサ。反省したか~?」
ふざけんじゃねえよ、まな板!
反省するのはてめえとそこのトカゲだ!
「ふむ、反省の色なし。ファイアドラゴン――やれ」
――ギュィイイイイイイイイイインッ!
「のぉおおおおおおおおおお! 遠心力で内臓がぁああああああああああ!」
すんません!
調子に乗ってすんません!
僕が悪かったです。
魔王仙人モードでもさすがに死んじまうんで、そろそろ勘弁してください!?
「ふむ。どうやら反省したようじゃな。――おい、ドラゴンや、そろそろ許してやってくれ」
「キシャ!」
ファイアドラゴンの背をポンポンと叩くセシリア。
すると、ファイアドラゴンも尻尾を動かすのを急にやめてくれた。
結果、遠心力で勢いのついていた俺は鎖からすっぽ抜け……、
「ギャァアアアアアアアアアア! セシリアのアホォオオオオオオオオオオ!?」
まるでロケットの打ち上げのようにお空の彼方へ飛び去った。
「おお、見てくださいピエールさん。人類の恥部が飛び去っていきます」
「このまま空の藻屑と消えてほしいものですね」
遠くから、司会と解説の声が聞こえてくる。
魔王仙人モードの耳、マジパねえな。
そしてどうでもいいが司会と解説、声が超うれしそうだな、おい!
よーし、いい度胸だ。
「このまま飛び去ってなるものか!?」
空中を殴って蹴って、強引に勢いを殺す。
一瞬の空中浮遊を楽しんだ俺は、母なる大地の重力に引かれ真っ逆さま。
狙いは――まずは司会と解説、てめえらだ!
「散々好き勝手言いやがって。くらえ、魔王仙人メテオインパクトだ!」
「おや……? ――ピエールさん、大変です。殺したいほど憎いあんちくしょうが、こちらに向かって落ちてきます!」
「ふむふむ、我らを道連れにするつもりでしょうか。性根が腐っていますね」
少なくとも貴様にそれを言われたくはないぞ、解説。
そして、おとなしくくたばれ!
あと、俺は生き残るつもりだからそのつもりで!
「仕方ありません。この砲弾を打ち込んでみましょう。うまくすれば爆散です」
「承知しました。発射!」
あの司会、ノータイムで撃ってきやがった。
準備よすぎな上に容赦なさすぎだろ。
チッ!
往生際の悪い。
「仙人パワー付きの魔王を舐めるなよ。そんな砲弾、殴り飛ばして――」
「ちなみにその砲弾には棄権時に使う呪いを込めてあります。触れればもれなく呪いがあなたのものです」
「素敵です、ピエールさん。さあヨシマサ選手、はりきってどうぞ!」
「…………。ちくしょう! てめえら、大嫌いだ!?」
慌てて方向転換。
砲弾を全力でよける。
「チッ! 外したか。――第2射から5射まで連続発射! あれは人類の……いや、私とピエールさんの敵だ! 撃ち落とせ!」
「なんだその私怨しかない攻撃は!」
叫んでいる間に新たな砲弾が雨あられ。
あれに当たっては俺の人生詰みだ。
仕方ない。
ここは一時退却。
ロリコントカゲと疫病神に標的を変更しよう。
「待っていろよ、トカゲ、セシリアーっ!?」
「おっと、ゴミ虫が落下方向を変え、崖の下へ真っ逆さま! どうやら競技に戻るようです。――砲弾は当たらなかったか。悪運の強い奴め……」
「そのまま谷底に墜落することを切に希望します」
後ろで司会と解説が何か言っているが、もう虫だ――じゃない! 無視だ、無視!
と、その時だった。
俺が向かう先、崖の真下で異変が起こった。




