前魔王の本気
「よーしよーし、いい子だ。さてと、それじゃあ……『クリエイション』!」
ドラゴンを崖の近くへ誘導し、岩肌に右手を触れた前魔王が呪文のような言葉を発する。
すると、前魔王が触れていた箇所の岩が変質し、ドラゴン用と思しき轡と鎖でできた手綱になった。
「今度のはあやつの得意とする魔法じゃな。触れた物質を変化させ、思い通りのものを作り出す『創造』という魔法じゃ。あやつが建築やらDIYが得意なのも、あの魔法があればこそじゃな」
と、セシリア先生の解説。
なんだ、その超便利な魔法。羨まし過ぎるだろう。
どこの鋼の○金術師だよ、あの前魔王。
「セシリア~、ヨシマサ~! 準備できたよ~。すぐそっちに行くから待っててね~!」
ドラゴンに轡を噛ませ、前魔王が見事な乗馬ならぬ乗ドラゴンテクを見せる。
あの前魔王、純真無垢なアホのフリして、実は超優秀ですよ。
これは……使える!
「どうやらあいつは、俺と同じ能ある鷹だったというわけか。これでお荷物はこのクソガキだけ……」
「待たんか、ヨシマサ。色々間違っておるぞ。まずお主は鷹じゃない。単なる駄馬じゃ。そしてわらわはお荷物ではなく、言うなれば取り扱い注意の美術品であってじゃな――」
お荷物が何か言っているな。
まあいい。
光明が見えて気分がいいので、今は無視してやろう。
「この勝負、勝てるぞ!」
「ん? どうしたの、ヨシマサ? なんかすごく機嫌がいいね」
軽くなった右手をふり上げていたら、前魔王が迎えに来てくれた。
おうおう、御苦労。大儀であった。
このドラゴンさえいれば、移動は楽々。しかも人の足なんて目じゃないくらい、超速い!
ターゲットにも、他のチームを出し抜いて迅速に近づけるってもんだ。
ハハハ!
ようやく俺にもツキが回ってきたぜ。
これでミスコン優勝美女との会食は俺のものだ。
そう思って、まずはセシリアをドラゴンの背に放り投げ(前魔王がキャッチ)、俺も足を下ろそうとしたところで……。
――バフーッ!
――ボッ!
「…………。ぎゃぁああああああああああ! 俺の頭がボンバーなことにぃいいいいいいいいいいい!?」
ドラゴンが噴いた火が俺の髪に引火。
俺は急いで崖にロケット頭突きをかまし、火を鎮火した。
危なかった……。危うくこの歳で、大切な毛根たちとエターナルグッバイしてしまうところだった。
「おいこら、クソドラゴン! 何しやがんじゃ、ボケ!」
「ギシャァアアアアアアアアアアッ!」
文句言ったら、ものすごい勢いで威嚇された。
上等だ、生意気なトカゲめ!
現魔王の恐ろしさをその身に教え込んでやる。(バキボキ←拳を鳴らす音)
さあ、今更謝っても許して――。
――バフーッ!
――ボッ!
「ぎゃぁああああああああああ! ボンバーリターンズゥウウウウウウウウウウ!?」
再び崖へロケット頭突き→鎮火。
1サイクル。
「ゴルァ! てめえ、いい加減にしろよ。本当に毛根が死滅しやらどうしてくれんじゃ!」
――バクッ!
「ぎゃぁああああああああああ! 目の前が真っ暗ぁああああああああああ!」
改めて文句言おうとしたら、おいしくいただかれそうになった。
ヤベえ……。
仙人パワーがなければ、バッチリ食われてたところだぜ。
「どうどう! 急にどうしたんだ」
前魔王が荒ぶるファイアドラゴンを必死になだめる。
しかし、ドラゴンは俺を親の仇でも見るかのように睨み続けている。
そこまで俺を乗せたくないのか、このトカゲ……。
なお、前魔王の隣ではセシリアがこっちを指さしながら笑い転げてやがった。
ちくしょう……。
なんでこいつは良くて、俺はダメなんだ……。
美少女だからか? このダメ邪神が、見た目だけ詐欺とはいえ美少女だからか?
「…………」
なぜ急におとなしくなるのだ、ファイアドラゴンよ。
まあいい。
あまりよくないが、まあいいとしよう。
今は現状把握が大事だ。
何やら俺はこの巨大ロリコントカゲ(仮称)からえらく嫌われて――。
――バフーッ!
「ノォオオオオオオオオオオ!」
てめえ、いい加減にしろよ。
毛根どころか頭皮が死滅するわ!
「おとなしくこのドラゴンに乗るのは諦めよ。ほれ、アンデルス」
「あ、うん……」
セシリアからアイコンタクトを受けた前魔王が、ドラゴンをコントロールして再び岩肌に手を当てる。
「『クリエイション』!」
そして再び発動された前魔王の魔法。
作り出されたのは、鎖でできた投げ縄だ。
……って、まさか!
「いっせいのーせ!」
カウボーイよろしく、セシリアが俺に投げ縄のわっかを投擲。
見事キャッチされた俺。
セシリアは鎖の端をドラゴンの尻尾に括り付け……。
「アンデルス、今のうちじゃ! Go!!」
「うん、わかった!」
「おいこら、セシリア! ちょっと待て!」
セシリアの号令で、前魔王がドラゴンに発進の合図を出す。
全速力で空を駆けるドラゴン。
「のぉおおおおおおおおおお! てめえら、覚えてやがれぇえええええええええええ!?」
結果、当然の帰結として俺は、空中で押し潰されんばかりの風圧を受けながら引き回されたのだった。




