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たばかられた!

「――しましたとさ。おしまい」


 開いていた本を閉じると、観客の子供たちから拍手や歓声が上がった。

 元々下手な町よりも栄えているウルス村に、祭期間とあって周辺の村や国から続々と人が集まってきているからな。

 俺の読み聞かせや大道芸も大盛況というわけだ。

 祭の準備期間を含め、結構稼がせてもらっている。

 自分で言うのもなんだが、もはや今回の祭のちょっとした目玉扱いだな。日に日に客の数も収入も増えているし。


 と言っても、俺の本当の目的は荒稼ぎではない。

 これはあくまでも、ついでだ。


 俺のこの祭における目的は、言うまでもなくミスコン観戦だ。

 そのために、日々の公演をしながら絶好の撮影スポットを探し歩いているくらいだからな。

 フフフ。

 コスプレ撮影会で鍛えた俺のカメラテクが火を噴くぜ!


 ――と、そこで俺はふと、大事なことを思い出した。


「あ、そう言えばミスコンって祭の何日目にあるんだろうな」


 ミスコンの話を聞いた瞬間、思考が撮影にシフトした所為で、大事なことを聞き忘れていた。

 これはいけないな。

 今のうちに気付けて良かったぜ。

 今日帰ったら、アンデルスに聞いておかないといけないな。


「ああ、そのことなら安心せい」


「ん? どういうことだ」


 隣を歩いているセシリアに聞き返す。

 こいつ、大道芸の公演の時だけじゃなく、読み聞かせの時も必ずついてくるんだよな。

 魔法使わない読み聞かせは、別にいっしょに来てもらわなくてもいいのだが。

 てか、少しは前魔王といっしょにいてやったらどうだ。

 仕事しながら、少し寂しそうにしていたぞ、あいつ。


 まあ、村の連中に囲まれて、リア充ぶりを爆発させていたが……。

 なんかやたらと懐いているかわいい女の子もいたし……。

 この村に来てから見た中でも1、2を争いそうなかわいい子に……。


 ……………………。


 うん。

 あのリア充は、本当に爆発してしまえばいいんじゃないか。

 なんなら、俺も手伝ってやるし。

 いや、もう率先して爆破してやるから……。


「アンデルスのことは……まあいいのじゃ。わらわにも思うところがあるのでな」


 なんだかこいつに似つかわしくない大人びた顔で、そんなことを言う。

 まあ、こいつと前魔王の問題だ。

 俺が口を出すことでもないので、黙っておこう。下手に口を出して、こいつがここに残るとか言い出しても厄介だし。

 

 ――っと、話がずれたな。今大事なのは、ミスコンの件だ。


「で、何が安心なんだ?」


「ん? ――ああ、さっきの話か。何、簡単なことじゃ。お主はミスコンを見ることはできんから、気にする必要はないという……」


 セシリアが言葉を言い切る前に、その肩をガシッとつかむ。


 ハッハッハ。

 俺、疲れているのかな。今日も調子に乗って、二時間耐久読み聞かせとかしていたし。

 おかげで、何か聞き違いをしていたかもしれん。

 というわけでセシリア、リピート、プリーズ。


「いや、じゃからミスコンはドラゴン狩りと並行して行われるから、お主はどうせ見に行けないと言っておるのじゃ」


 ミスコンハ、ドラゴンガリトヘイコウシテオコナワレル。

 なんだろうな、セシリアの言葉が呪文のように聞こえるぜ。

 うん。

 これは呪文だな。

 呪いの呪文だ。


 ハハハ。

 そうか、俺はミスコンを見ることができないのか。

 美女や美少女をカメラと脳内のフィルターに永久保存する代わりに、ドラゴンと戯れないといけないのか。


 アーッハッハッハ。

 もう笑うしかねえよ。

 なんだよ、これ。

 孔明の罠か。ちくしょう。


 ……………………。


 ふう……。

 少しは落ち着いたな。

 さてと。


「ふざけんなよ、クソガキ! なんてことしてくれたんじゃ、ゴルァ!?」


 セシリアを目の高さまで持ち上げ、ついでに前後に揺さぶる。

 何やらポンコツが「ぎゃぁああああああああああ! 目が回るぅうううううううううう!!」とかほざいているが、知ったことではない。

 俺の唯一無二の生きる希望を奪いやがって!

 万死に値するが本当に殺すわけにはいかないので、このまま酔わせてやる!

 衆人環視の前でみっともない姿をさらすがいい!! (←すでに自分がみっともない姿をさらしていると気づいていない)


「ええい! いい加減にせい!?」


 ――ゴチン!


 俺に揺さぶられる反動を利用して、セシリアがヘッドバッドを繰り出してきやがった。

 チッ!

 鳥頭な上に石頭だな、こいつ。マジで痛い。


「いってぇな! つうか、てめえ、ドラゴン狩りにエントリーした本当の理由はこれか!?」


「はぁ? なんのことじゃ? わらわ、知りませ~ん」


 嗜虐的な笑みを浮かべて、セシリアがすっとぼける。

 完全に黒だな、これは。まごうことなき真っ黒だ。


 どちくしょう!

 道理で、素直に撮影器具を貸してくれたわけだぜ。

 ナンパとかを嫌う上、俺をいじめることに労力を惜しまないこいつが、一体どういう風の吹き回しかと思ってはいたが、ここまで考えて仕組んでいやがったな。

 持ち上げておいて、最後に奈落の底まで真っ逆さま。

 すべてはこの瞬間を演出するための小道具というわけか。

 俺は見事に、こいつの手のひらで踊らさせられていたってことかよ。


「ぬふふ。別にドラゴン狩りをキャンセルして、ミスコンを見に行ってもよいのだぞ。ただしその時は、契約破棄によるペナルティで、一生モテなくなる呪いがもれなくついてくるがのう」


 美少女にあるまじき蛇のような笑みを深め、セシリアが言う。

 こいつ、この村に来てからは妙におとなしくしていた感じだったが、やっぱり性格悪すぎだろう!

 マジ最悪だ。さすが邪神。


 にしても……ぐぬぬ。

 呪いを受けてでも一時のめくるめく快楽を取るか、それとも優勝賞品に期待しておとなしく死のドラゴン狩りに行くか……。

 なんだよ、この究極の両天秤。どっちに傾けても最悪だ。


「ぬふふ。さあ、どうするのじゃ? どうするのじゃ?」


 やべぇ……。

 こいつ、過去最高にウゼェ……。


 しかし、これは……。


「……OK、わかった。今回は大人しくドラゴン狩りに行くとしよう。俺が一生モテない呪いになんてかかったら、全世界の損失だからな」


 一体どれだけの美少女たちを泣かせることになるか、わかったもんじゃない。

 究極のフェミニストとして、女性の涙など見たくないのだよ。

 あ、セシリアは例外な。

 こいつはすぐにでも泣かす。涙が枯れ果ててミイラになっても、プールの中に放り込んでスポンジ張りに水分補給させた上でさらに泣かす。


「自分をそこまで過大評価できるというのも、ある種の才能じゃな……。あと、泣くのは貴様じゃ。覚悟せい」


 往来のど真ん中で、バチバチと火花を散らす俺とセシリア。

 上等だ。ドラゴンの前に貴様を狩ってやる。


 そう思ってゆらりとセシリアに向かって飛びかかるため、足にグッと力を込める。


「ぬんっ!」


「はっ!」


 そして、俺とセシリアが同時に地面を蹴った――その時だ。


「二人とも、そんなところで何をしているんだい?」


 俺とセシリアの間に前魔王登場。

 工具箱を持っているところを見ると、仕事帰りってところか。


 ただ、全力を持って飛び出した俺とセシリアは急に止まれるはずもなく……。


「ほげらぱっ!?」


「「あ……」」


 険悪ツープラトンで、前魔王を跳ね飛ばしたのだった。

 交通事故よろしく、ボロ雑巾のように路肩へ転がる前魔王。


 やべえな、これ……。どうすっかな。

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