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俺のMPタンクは誰にも渡さねえぞ!(byヨシマサ)

 豪邸の中に招かれた俺たちは、シャンデリアが釣り下がる客間でお茶を出されていた。

 ……外観も外観だったが、内観はさらにすげぇな。

 これでもかってくらいに豪華な造りになっていやがる。

 マジで城だ、城。

 マリー・アントワネットとかが住んでそうな感じ?

 今俺とセシリアが座っているソファーだって、ロイヤルファミリーとかが使っているものと遜色ないくらいに上等な代物だ。

 ロイヤルファミリーがどんな家具使っているかなんて知らないけど……。


「お主、この材料費とかどうしたのじゃ?」


「ああ、ここにあるのは大抵、村でいらなくなった家具とかをもらって、自分で改造したんだ。だから、ほとんどタダ同然だよ」


 うん。

 ある意味、魔法より魔法っぽいことしてんな、こいつ。

 てか、使い古しをどう改造したらこんな高級品っぽいものができるんだ。

 前魔王、素でチートキャラだわ。今流行りの生産系チート。


「で、セシリア。村に帰ってきたということは、またここに住むってことだよね」


 前魔王が、ニッコリと笑ってセシリアを見る。

 なんつうか、親が返ってきたことを喜ぶ赤ん坊のような笑顔だな。

 屈託がないっつうか、無垢っつうか。

 前魔王にとって、記憶がなくなってからずっと世話をしてくれたセシリアは、正に親みたいなものってことか。

 童女を親扱いする優男風イケメン……。

 なんだろう、どこかいけないにおいがするな。


 ただ、前魔王の笑顔を見たセシリアはまたどこか寂しそうな顔をして……、


「あ、いや……。ここでもう一度暮らすかは、その……」


 と言って、俺の方を見た。


 ――ん?

 なんで俺の方を見るんだ?


「あ! もしかして、ヨシマサ君のことを心配しているのかな。安心しなよ、セシリア。この通り家も大きくなったからね。ヨシマサ君さえよければ、ここに住んでもらって構わないよ」


 賑やかになって楽しくなりそうだね、とまたもや屈託なく笑う前魔王。

 いや、住んでもらっても構わないって言われてもな……。


「ああ~、せっかくの申し出は有り難いんだが、俺はやりたいことがあってな。まだ旅を続けるつもりだから、ここに住むことはできない」


「そうなんだ。それは残念だね」


 言葉通り、心底残念な顔をする前魔王。

 裏表のないヤツだな、ホント。


「――けど、しばらくこの村にいたいのも事実だ。だから……しばらくこの家に滞在させてもらってもいいか?」


「うん! もちろんだよ」


 俺の申し出に、前魔王が一転してパァっと顔を輝かせる。

 なんかそこまで喜ばれると、こっちもどう反応していいか困っちまうな。

 悪い気はしないが、どうにも調子が狂うぜ。


 それにしてもこいつ、本当に小さな子供みたいなやつだな。

 勇者もそんなとこがあるやつだったけど、こいつはそのさらに上。

 記憶を失ったことで、本当に子供の心を持っているように見える。


「……すまんが、わらわもまたここで暮らすかは、もう少し考えさせてくれ」


 俺が前魔王を観察していたら、なんか絞り出すような声が横から響いた。

 言うまでもなく、セシリアの声だ。

 こいつにしては珍しく歯切れが悪い感じだな。

 まあ、こいつ飽きっぽいからな。

 豪邸暮らしはしたいけど、ぶっちゃけつまらなそうだから旅もしたいってところか?


 と言っても、こいつがどうしようと俺には関係ない。

 ここに留まりたいって言うなら、それはそれでありだろう。

 なんたってここには、記憶を失っているとはいえ旧知のパートナーがいるわけだし……。


 ――って、いや、ちょっと待てよ。


 これって、俺にとって微妙にピンチなんじゃないか?

 俺ってば、こいつがいないと魔法が使えないわけでして……。つまり、こいつが豪邸に目が眩んで旅をやめるなんて言い出したら、これから先の身を守る手段と大道芸人という職を一辺に失ってしまうじゃないか!


 これはまずい。

 俺の安全と明日からのご飯のために、何としてもこいつが旅に出たいと思うように仕向けなくては……。


 ――と思ったら。


「ほれ、わらわって隠し切れんカリスマ性を持った根っからのアイドル気質じゃし? 一所に留まるのは、世界の損失と言うか、何と言うか? そんなわけで、わらわはヨシマサが村を離れる時まで答えは保留じゃ」


 ふんぞり返って妄言を捲し立てるセシリア。


 ふぅ……。

 よかった、こいつがイタイ感じの勘違いガールで。

 保留とか言っているが、この分ならここに留まるってこともなさそうだ。

 ひとまず、安心。


 ただ、こいつはアホな上に移り気だからな。滞在中に考えが変わらないよう、常に注意しておかねば……。


「そうか……。セシリアも、また旅立ってしまうかもしれないのか……」


 俺が密かに気合を入れていると、今度は前魔王が迷子になった子供のような顔でしょんぼりする。


 くっ!

 なぜか知らんが、微妙にこいつをいじめているような気分になってしまうな。

 記憶を失って一人右も左もわからず生きる前魔王から、唯一のパートナーを取り上げる。

 これってどんな鬼畜外道の所業だよ、って気になるな……。

 ううむ。

 なんだろうな、このそこはかとない罪悪感は。


 ――って、あれ。

 でも、それを言ったら俺なんて、隣の理不尽なロリ邪神に異世界召喚された挙げ句、元の世界にも帰れなくなってしまったわけで……。

 しかも、ここでこのアホ邪神を失うとリアルに路頭に迷うわけで……。


 ……………………。


 うん。

 人生の転落っぷりと言うか、ひどさ加減で言ったら、多分俺の方が上だな。

 このクソ邪神から受けた被害という意味でも、俺の方が同情に値するだろう。

 てか、よく考えたら前魔王って村の人気者っぽいじゃん。右も左も~どころか頼りになるご近所さんたくさんじゃん。

 なら、遠慮することもないか。


 すまん、前魔王。

 そういうわけなので、この世界における俺の命綱でもあるこのMPタンクはもらっていく。

 損害賠償やら精神的苦痛に対する慰謝料やら、こいつには耳揃えて魔力で払ってもらわにゃならないんで。

 悪いが諦めてくれ。


 と、考えをまとめた俺が改めて前魔王の方を見ると……。 


「まあ、どうしてもわらわといっしょに暮らしたいと言うなら、考えてやらんこともないからな。精々わらわをここに留めておけるよう、努力することじゃな!」


「わかったよ、セシリア! 僕もこの数カ月で少しは成長したからね。最高のおもてなしをして、君がここに残ってくれるよう頑張るよ!」


「うむ、苦しゅうないぞ。よきに計らえ。ナッハッハ!」


 調子に乗ったセシリアが、前魔王にふっかけていた。


 このアホ邪神、余計なことを言いおってからに……。

 とりあえず、これはやばいぞ。

 前魔王ピュアッピュアだから、もうやる気満々じゃないの。

 お前ここに留めるために、ホスピタリティ精神の限りを尽くす気満点じゃないの!


 下手をすると、この移り気だけど基本チヤホヤされるの大好きなこの邪神が心変わりを起こしてしまう。

 せっかくお里帰りしたところで悪いが、滞在なんて言わずにさっさと旅に出てしまうのが得策かもしれん。

 そうとなったら、早速準備を……。


「来週からは村を上げての祭もあるし、二人とも楽しみにしているといいよ。メインイベント以外にも面白い催しがいくつかあって、特にミスコンは出場者が美人揃いだから近隣の国や村から人もたくさん――」


「それはいかんなぁ! 早速カメラの準備をせねば!」


 そうとなったら、早速準備を始めよう!

 確か万桜号にカメラがあったはず。あと、セシリアもビデオカメラを持っていた気がするな。いや、この際撮影器具をありったけ貸してもらおう。一瞬の取り逃しもないよう、万端の体勢で臨まねばならないからな。

 さあ、忙しくなってきたぞ!


 ……………………。


 ――は? セシリアの心変わり?

 そんなの知るか。

 今はミスコンの方が大事だ!

 いいか、諸君。

 男には、いかなる危機を顧みず、全身全霊を持って立ち向かわなければならない時があるんじゃい!? (←覚悟を決めた漢の目)


 もはや鼻歌まじりのルンルン気分で、撮影器具の準備をする。

 こうして、俺とセシリアのウルス村滞在が決定したのであった。

 ああ~、ミスコン楽しみだな~♡

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