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単純王ヨシマサ

 クリスタルゴーレムのダンジョンから帰還して、二日後。

 近くの街でクリスタルを換金した俺、セシリア、シェリルの三人は、最初に出会った南北に続く街道まで戻ってきた。


 そうそう。ゴーレムからドロップしたあのクリスタルだが、俺が砕きまくったものも含めてなかなかの稼ぎになったな。稼ぎは俺たちとシェリルで半々に分けたんだが、それでも1~2カ月は優雅に暮らせそうな金額になった。

 まあ、あんだけ命が縮まりそうな思いをしたんだから、これくらいはもらわないと割に合わないがな。とりあえずこの金は、次の本を買うための軍資金にしよう。


 で、その後俺たちは街の宿に一泊してから出発してきたというわけだ。


 街道の脇で一度車を停める。

 すると、シェリルが車の後部から自身の荷物を背負って顔を見せた。シェリルの後ろにはセシリアもいる。

 シェリルはこれからヴァーナ公国近くにあるダンジョンに向かうとのことで、ここでお別れなのだ。


「送ってくれてありがとね。あんたたちとの冒険、なかなか楽しかったよ。それじゃあ、またどこかで」


「うむ! お主との旅、わらわも楽しかったぞ。達者でな、シェリル!」


「ハハハ! 二度と会いたくねえから、もう顔見せんな」


 ピョンと万桜号から降りたシェリルと笑顔で別れの挨拶をする。

 いやはや、もうこの天敵の顔を見なくていいかと思うと清々するな。

 できることならそこで鷹揚に笑っている裏切り者も連れていってくれるとありがたいんだが、そうすると俺のチートもなくなるので我慢しよう。

 

「む~。お別れの時にその言いぶりはあんまりじゃないかな? いっしょにダンジョンを攻略した仲なのに」


「そうじゃ、そうじゃ! あんまりじゃぞ。だからお主はモテんのじゃ」


「ハハハ。どの口がそれをほざくか」


 笑顔のままこめかみに青筋をうかべる。

 ホント、貴様らに「いっしょに」とか「あんまり」とかいう資格ないからな。二日前、思いっきり俺のことを見捨ててたお前らには!


「ハァ……。ま~だ根に持っておるのか。本当に器の小さい男じゃのう」


「ダンジョンに置き去りにされた挙げ句、助けにも来てもらえなかった俺の気持ちが貴様にわかるのか!?」


 そう。

 俺は忘れていない。

 ダンジョンから脱け出た瞬間のあの絶望を……。


 ダンジョンで置き去りにされ、命からがら逃げだした俺が見たもの。

 それは、ダンジョンの前で心配そうに松二人の姿ではなく、重しの下にはさまれていた一枚のメモだった。


 そこには、『疲れたから先に万桜号に帰る』という、ただ一言……。


 うん。

 数々の女性からフラれ続け、体以上に鍛え上げられた鋼のメンタルを持つ俺だけどね。

 さすがにこれには、心折れたわ。


 でも、俺はへこたれなかった。

 あの二人への怒りを力に、一人森を抜け、万桜号へ戻ったのだ。

 

 ――で、俺は知ったわけだ。

 こいつらが、如何に悪魔だったかってことを……。


 なお、これから語るのは俺が命からがらダンジョンから戻って来た時のやり取り――こいつらの悪魔的な仕打ちの記録だ。



 ~~~回想モード~~~


『あ、ヨシマサ。意外と早かったね』


『わらわは腹が減ったのじゃ。さっさとメシを作ってたもれ』


 這う這うの体で戻ってきた俺を、温かく出迎えてくれた仲間たち。(←超皮肉)

 ちなみにこいつら、助けに来なかったどころか万桜号の中でぬくぬくくつろいでやがった。

 もうお菓子を食べ、ジュースを飲みながら、セシリアが出したと思われる漫画を寝転がって読んでいやがった。


 うん。

 二人ともね、ちょっとそこに直ろうか。

 ほれ、大人しく正座しなさい。


『君らね、ダンジョンの前で心配そうに待つとか、形だけでも助けに来ようとか、そういうことはできんのかな?』


『何を言っておるのじゃ、ヨシマサ。わらわたちはお主のためを思って、ここで帰還を待っていたのじゃよ』


『ハッハッハ! それはどういう意味ですかね、クソガキ!』


『どうもこうもない。お主は泣く子も黙る魔王なのじゃ。そのことをわかっておるか?』


『そのアホの代名詞と今回の仕打ちに何の関係がある?』


『魔王ともなれば、伝説の一つや二つは付き物。そして……女は伝説や武勇伝に弱い! (……かもしれない)』(←ペテン師の目)


『な……んだと……』


 セシリアの言葉に、思わずたじろぐ。

 ついでにシェリルの方を見ると、


『あー、うん。そーだね。ぶゆーでん、かっこいー』(←超棒読み)


 と言っている。


 そうか!

 なぜ俺は今の今まで気が付かなかったのだろう。

 今までの生き様ですべてを語る。これぞ、背中で語る系の最高にイカしたハードボイルドじゃないか!

 これならば……確かに俺でもいける! (←ヨシマサ、ガッツポーズ。セシリア、ヨシマサに見えないようほくそ笑みながらガッツポーズ)


『そう! お主は世界の女子(おなご)を虜にする超イカした魔王なのじゃ。故に、わらわたちはお主の伝説づくりに協力したのじゃ。お主が伝説を作り、色男の覇道を歩いていくため、わらわたちはここでお主を信じて待っておったのじゃ』(←口から出まかせ。もはや当人も何言っているのかよくわからない)


『セシリア……』(←何気にちょっと感動。目をウルウルさせる)


 なんだよ、そうか。

 へっ!

 お前ら、俺のためにそんな気を遣ってくれたのか。

 俺がモテモテ街道を歩くために……。

 なんだよ、照れくさいじゃねえか!

 ……ありがとよ。(←超輝く笑顔でサムズアップ!)


『チョロいのう。本当に単純な男じゃな……』


『ある意味、最高に幸せな人生かもね……』


『ん? 何か言ったか?』


『『いえ、何も』』


『そうか』


 何か猛烈に同情の視線を向けられた気がしたんだがな……。

 まあ、単なる気のせいだろう。

 同情される謂れなんて何もないんだからな。

 そう。何たって俺は、モテの覇道を極める男なのだから!


『それよりヨシマサ、メシ~』


『おう、待ってろ! 今日も最高の料理を作ってやろう。ハッハッハ!』


 そう言って、俺は気分よくキッチンに立った。

 ……なお、俺が騙されたことに気が付いたのは三時間後のことだった。(←アホの極み)


 ~~~回想終了~~~



 フフフ……。

 今思い出してもはらわたが煮えくり返りそうになるな。

 そう。こいつらは俺を見捨てただけでなく、俺の純情を玩んだのだ。


「……ヨシマサよ、お主のは純情ではなくただの劣情じゃ」


 この恨み、晴らさずでおくべきか。

 魔王らしくフォ○スの暗黒面を纏い、超絶笑顔で二人と対峙する。


 ――と、その時だ。


「まあまあ、そんなに怒らないでよ。悪かったとは思ってるからさ」


 不意にシェリルがオレに駆け寄り……、


 ――ちゅ!


 ほっぺたにキスをしてきた。

 『ちゅ!』って。ほっぺに『ちゅ!』って――!


「これはお詫び。それじゃあ、バイバイ。楽しかったよ」


 元気に手を振って「またね~」と言いつつ立ち去るシェリルへ、呆然としたまま手を振り返す。

 あれ?

 俺、今何された?

 今のは気のせいか?

 でも、ほっぺたに残る感触と湿り気は本物であり、つまりこれは現実!


「ぬぉおおおおおおおおおお! ぃよっしゃぁああああああああああ!」


 初キッスですよ!

 人生で初めてのキッスですよ!

 これで俺も大人の仲間入り。

 全国何千万人か知らないが同士の諸君! 悪い! 俺、一足早くディープな大人の世界に仲間入りッスよ!?

 ひゃほーい!


「たかだかほっぺたに別れのキスをされたくらいで、オーバーじゃのう……」


 あん?

 なんか言ったか、セシリア。

 俺今、人生の絶頂期に入っているんで忙しいんだが。

 

「別に何も。で、お主は何か怒っていたのではないか?」


「怒る? ハハハ! バカ言っちゃいけない。お釈迦様レベルの心の広さを持つ俺が、何を怒るというのだ」


「さよか。まあいいがのう」


 相手にするだけ無駄、とでも言いたげなオーラを纏って、セシリアが万桜号の奥へ引っこんでいく。

 一体どうしたというのだろうな、あいつ。

 ――あ!

 もしかしてジェラシーでも感じているのか?

 相変わらずのツンデレぶりだな、まったく。

 そういうことなら、そっとしておいてやろう。

 はあ……。モテる男はつらいぜ。(←最高にウザい)


「んじゃ、俺たちも行くとするか。――いざ行かん、次の街へ!」


「ん~。よきに計らえ~」


 セシリアの気の抜けた返事を聞きつつ、万桜号のエンジンをかける。


 天気は良好。

 気分は最高。

 正に言うことなし!


 次の目的地を目指し、俺は意気揚々と万桜号を走らせるのだった。

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