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完璧に騙されました……。

「フィニッシュ!!」


 こぶしをふり上げたまま、かっこよくポーズを決めてみる。

 フッ! さすがは俺だ。

 最後の最後まで決まった……!


 おっと、いけねえ。

 さっさと魔法を解かないとな。このままでは、魔王なのに背景のモブキャラになってしまう。

 ――ほい、魔法解除っと。


 ふう。

 これで元通り。


「あ、ヨシマサのウザいオーラが回復したのじゃ。残念……」


 よし、もう一回仙人パワー注入だ。

 口の減らないクソ邪神にお灸を据えてやる。


 ――と、俺がもう一度仙人化しようとしていた矢先……。


「お~。ヨシマサも倒したみたいだね~。お疲れ、お疲れ!」


 肩をグルグルと回しながら、シェリルが戻ってきた。

 見れば、もう一体のゴーレムが綺麗に活け造りにされている。

 剣一本でどうやったらあんな風にできるのかね。

 こいつはこいつで、やっぱり化け物だな。


 さすがにシェリルの前でセシリアを伸そうとしたら、俺もあのゴーレムの後を追うことになりかねん。こいつ、セシリアと気が合うみたいだし……。

 チッ! 仕方ない。

 ここは大人しくしているとしよう。 

 セシリアめ、本当に悪運の強いヤツだ。さすが邪神。


「にしても、見事に爆散させちゃったね。こんだけ砕いちゃうと、あんまり売り物にはならないかな」 


「お前みたいに、売ること意識して戦う余裕なんてねえんだよ。多少は塊も残ってんだから、二束三文くらいにはなるだろう」


「まあ、そうだけどね」


「それよりお前、約束忘れるなよ」


「ん? 約束って?」


「とぼけんな。こいつの相手したんだから、きっちりデートしてもらうぞ」


「…………。――ッ! (ポンッ! ←手を打つ音)ああ、うん。もちろん覚えてるよ」


 確実に忘れていやがったな。

 お宝バカの鳥頭め。


「あたし、デートって初めてだから、ちゃんとエスコートしてよね」


「フッ! その点は任せておけ。なんたって俺は、デートのプロだ!」


「実戦経験0の完全理論派じゃけどな……(ポソリ)」


 黙っていていただこうか、クソ邪神。

 今、大事なところなんだ。

 俺、今この瞬間に命懸けてるんで……。


「で、どこか行きたいところとかあるか?」


「うーん、そうだね……。――あ! じゃあ、ここの北にある終末戦争期の砦に……」


「ダンジョンじゃねえか!」


 こいつ相手に色っぽい展開を期待した俺がバカでした。

 てか、何が悲しゅうてデートでダンジョン攻略せにゃならんのだ。

 リアルに命懸けさせてんじゃねえよ!


「もっと他にあるだろう。こう、街で……」


「街……? ――ああ! もしかして闘技場? ヨシマサ、意外とギャンブラーだね。剣闘士はモンスターみたいには倒せないよ?」


「…………」


 美少女なのに……。超美少女なのに……。

 なんでこいつは、こんなにも残念なんだ。


「で、どうするの、ヨシマサ? ダンジョンにする? 闘技場にする? それとも、ク・エ・ス・ト?」


「…………。すみません。やっぱ、デートはいいです。忘れてください……」


 そんな「ご飯にする? お風呂にする? それとも、わ・た・し(ハート)」的なノリで言われてもね。

 全部命懸けじゃんか。

 正直、付き合い切れねえッス。


「……な? 言った通りじゃったじゃろう? こやつ単純じゃから、『デートしてやる』と言えば簡単に言うこと聞くのじゃ」


「……うんうん。ありがとう、セシリア。おかげで助かっちゃった。しかも、アフターフォローまでバッチリだったよ」


「おいこら、ちょっと待て!」


 なんだ、今の会話は。

 怒らないから、お兄さんにちょっと聞かせてごらん? (←般若の面)


「いや、実はあたし、最初からこのダンジョンがゴーレム2体仕様なのは知っていたんだよね。で、あたし一人でもきっと大丈夫だろうな~って高を括っていたんだけど、セシリアが『念のため』って……」


「万が一ヤバそうになった時の対処法を教えておいた。2体いることを知らなかったフリしてデートで釣れば、簡単にお主を操れると思ってな。お主が罠の中でエンジョイしている最中に打ち合わせておいたのじゃ。ついでに、デートの条件を次のダンジョンにすれば一石二鳥かと思ったのじゃが……いやはや、ここまでチキンとは思わんかったわ」


 はあ、やれやれ……。と首を振るセシリア。

 てめえか! すべててめえの企みか!?

 ちくしょう!

 俺の純情を弄びやがって。

 おかげでちょっとばかし期待しちゃったじゃねえか!

 俺の淡い恋心を返せ!


「『淡い恋心』? 『欲望に満ちたドス黒い劣情』の間違いじゃろう」


「いい度胸だ、極悪邪神。さっきの分も合わせてきっちり清算してやる」


「ハン! やれるものならやってみよ!」


 いつも通りの仲間割れを始める俺とセシリア。

 最近は一日に何回かやんないと調子が狂うようになってきたな、これ。

 中毒性があるのかもしれん。恐ろしいことだ。


 なお、その間にシェリルは、クリスタルゴーレムの体を回収。

 早くも慣れっこなのか、こちらの血で血を洗う喧嘩には一切口を挟まなかった。

 いろいろタフな娘だ。


「よっし! これくらい集めればいいかな。――二人とも、そろそろここから出るよ~」


「「はーい!」」


 クロスカウンターで互いに一撃を叩き込みながら返事をする、俺とセシリア。

 やっとここからおさらばできるのか。本当にロクなことなかったぜ。

 もう二度と入りたくないな、ダンジョン。


「それじゃあ、レッツゴー!」


「「オーッ!」」


 俺たちが部屋の中央に集まると同時、床に魔方陣が浮かび、光が立ち上り始めた。

 どうやらこれが転送のシステムのようだな。この魔方陣が俺たちをダンジョンの入り口まで運んでくれるわけだ。

 ホント、帰りは楽ちんなこって。


 魔法陣はだんだんと輝きを増し、俺たちの体を包み込んでいく。

 そして……。


「…………」


 セシリアとシェリル、ゴーレムの残骸を綺麗に片づけてくれた。

 あとに残ったのは、無言で立ち尽くす俺だけ……。


「…………」


 無言で天を仰ぐ間に、魔法陣の輝きがスゥーッと収まっていく。

 そう、まるで自分は果たすべき役目をすべて果たしたとでも言うように……。


 うんうん。

 確かに君は仕事をしたね。

 でも、もう一度落ち着いて、仕事にミスがないかダブルチェックしてみようか。

 ねえ、お願いだから、もう一回お仕事してみよう!


 さあ、もう一回魔法陣を……。

 

 ――と思ったら、再び光り輝く室内。


 どうやら魔法陣君もやる気になってくれたようだ。

 なーに、ミスは誰にでもあるもの。

 この偉大な魔王様は笑って許してやろうじゃないか。

 ハッハッハ!

 さあ、俺もダンジョンの入り口まで送り届けてくれたまえ。


 俺の高笑いと呼応するように、まばゆく輝く室内。

 おお。

 いい感じ、いい感じ!


 そして輝きが最高潮に達し――新たに召喚されたクリスタルゴーレム2体……。


「…………」


 うん。

 確かに俺はもう一回仕事をしろって言ったね。

 だけど、俺はダンジョン入口まで送り届けろって言ったよね。

 こっちに転送してこいとは一言も言っていない気がするんだ。


 しかも何をちゃっかり敵ばっかり召喚してくれてるのかな?

 あれかな?

 もしかして、俺がミスを指摘したんで怒っちゃ――。


「――って、ぬおっ!」


 ゴーレムさんが、ジャブのつもりかタックルを仕掛けてきた。

 ちなみに今の俺、仙人パワーも何にもない、頑丈なだけの一般人です。セシリアいないから、魔法も使えないし……。

 もうチワワのように目をウルウルさせながら、ウサギのように震えております。


「ぎゃわぉおおおお!」


 可愛く震える純真無垢な俺に、容赦ないヘッドバットを繰り出すゴーレムさんたち。

 さっきのゴーレムもそうだったけど、こいつら俺に対してのみ、やたらとヘイト値高すぎだろ。

 転送魔法からはじいた件といい、俺が一体何をした!


「手抜き工事でダンジョン作ってんじゃねえよ、クソ神!」


 スクラム組んで追いかけてくるゴーレムから逃げつつ、このダンジョンを作った神に文句を付ける。

 いやホント、しっかりしてくださいよ、クソ神が。

 欠陥魔方陣なんか置いておくんじゃねえ!


「くそ! アイルビーバァアアアアアアアアアアック!?」


 どこぞの映画のター○ネーターよろしく叫びながら、ゴーレム部屋から脱出する。俺はそのまま、再び罠盛りだくさんとなったダンジョン街道を猛スピードで逆走した。


「ちくしょう! もう絶対、ずぇええええええええええったい、ダンジョンなんて潜らねぇええええええええええ!? (カチリ!)――アァアアアアアアアアアアッ!!」


 行きと同じ罠を踏み抜き、仕掛け発動。

 ダンジョン内に俺の悲鳴が木霊するのだった……。

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