VSクリスタルゴーレム
「おう、ヨシマサ! お勤め御苦労じゃったな」
「…………」
鷹揚に手を上げ、俺を出迎えるセシリア。
あの後レーザー網に追いかけながら火炎地獄、雷地獄、豪雪地獄、針山地獄を越え、どうにかこうにかレーザーの追走範囲からも逃げ出したわけだが……。
なぜか俺の後ろにいたはずのこいつらが、涼しい顔をして俺を出迎えてくれたわけだ。
「なんでお前たちがここにいる?」
「なんでも何も、近道してきたからに決まっておろうが」
「近道?」
聞き返す俺に、薄情者二人が揃って首肯する。
聞けば、あのレーザー網の罠の近くに抜け道的裏ルートが存在していたらしい。
そこを抜ければ罠がない上、俺が30分くらいかけて走破した道をたった3分ほどでショートカットできるそうだ。
ちなみにその道、レーザーの罠を発動した後でも入れたらしい……。
というか、レーザー発動させたら、基本そこに入るしか生き残る術がないとか何とか……。
「だったら、先に言えや!」
危うく本当に死ぬところだったぞ!
てか、俺なんで今も生きているのか軽く不思議に感じているくらいなんだが!?
見ろ! 頭なんて火炎と雷で完全にボンバーだぞ! どうしてくれるんだ!?
「えー! あたし、ちゃんと言ったよ。『そこの壁、抜けられるよー』って。――あんた、なんか大声で叫びながら走って行ったから、聞こえなかったみたいだけど……」
「罠にかかった上、勝手にハッスルしておったお主が悪い」
「…………」(←シクシク、シクシク……)
ちくしょう……。
こいつら嫌いだ……。
「それにしても、あんた意外とタフだねぇ。このダンジョンの罠をすべて発動させた上で切り抜けてきた人間なんて、あたし初めて見たよ。すごい、すごい!」
パチパチ、と惜しみない拍手してくれるシェリル。
ごめん。
全然うれしくねえ……。
そんな珍記録、作りたくなかったよ。
「当然じゃ、シェリル。こやつの執念と生命力はゴキブリ並じゃからな。さもありなん、というところじゃな」
「ねえ、ヨシマサ。よかったら、一緒にトレジャーハンターやらない? あんた、きっといいトレジャーハンターになれるよ!」
「死んでもお断りだ!」
こいつらとダンジョンを冒険していたら、命がいくつあっても足りない。
ダンジョン攻略なんて、もう二度とやるもんか!
「そっか、残念。まあ、気が変わったら言ってよ。待ってるからさ」
「七代転生しても変わらないから諦めろ」
ツーン、と横を向く。
そしたらシェリルは諦めたのか、やれやれと首を振ってこの話題を終わらせた。
「んじゃ、適度に疲れも取れたところでメインイベントに行きますか!」
「オーッ!」
シェリルとセシリアがかわいらしく拳を天に向かってつき上げる。
わー、ほほえましいなー。
美少女二人がやると、絵になるなー。(←棒読み)
ちなみに、俺たちが今いるのは、ダンジョンの最奥一歩手前。
わかりやすく言えば、ダンジョンボスの部屋の前だ。
目の前には、地下だというのに無駄にでかい扉。
この奥に、目的のクリスタルゴーレムがいるらしい。
「この奥にクリスタルゴーレムがいるはず。あたしが突っ込んで倒して来るから、二人は扉に前から動かないでね」
下手に動いて攻撃されても、責任持たないからね! と、ウィンクするシェリル。
ええ、動きませんとも。
と言いますか、ここで待っているとかダメですかね。ぶっちゃけ、この中に入りたくないんですが……。
「別に待っていてもいいけど……。ここのダンジョン、ゴーレムを倒すと、部屋の中にいた人を外に強制転移して、すぐに次のゴーレムが現れちゃうんだよね。だからここで待っていると、来た道を戻るか、一人でゴーレムと戦闘になるけど……それでもいい?」
「やっぱりパーティーの和を乱すのはよくないな! さあ、全員で行こうか!」
ゴーレム一人で倒すとかありえんし、来た道戻るなんてもっとありえん。
ショートカット分差し引いても罠だらけだしな、このダンジョン。
「うんうん。それが一番だよ。それじゃあ、改めてレッツゴー!」
「オーッ!」
「おー……」
シェリルが扉に手を掛け、一気に押し開く。
その瞬間、扉の奥の部屋に松明の火が灯った。
なんというか、ボス部屋らしい趣向だね~。無駄に凝っている。
部屋の中は円形のドーム型で、広さは40メートル四方ってところか。超広い。
大暴れしても大丈夫な設計ってことか。
で、肝心のボスなんだけど……。
「なあ、シェリルさんや……」
「ん? どうかしたの、ヨシマサ?」
「あんたさっき、『あたしが突っ込んで倒して来る』って言っていたよね」
「うん。言ったね」
「俺の目が節穴でなければ、ゴーレムさんが2体いるように見えるのですが……」
おかしいな。ドームに真ん中で、ゴーレムさんが2体、シャドーボクシングしているように見えるぞ。
ハハッ!
そうか。俺、疲れて目が霞んじゃってんだな、きっと。
ダンジョンをあれだけ走り回ってきたわけだし、疲れだって溜まってるよな。
うん。きっとそうだ。
「安心して、ヨシマサ。あんたの目は節穴じゃないよ。あたしの目にも2体見える!」
聞いていたよりも強そうだね、あのゴーレム……、と笑うシェリル。
ちょっと待てぃ!
「話違うじゃん! どうすんだよ、これ。お前、2体同時に相手できんの!?」
「あはは。――うん、これはさすがに無理そうだわ!」
「笑いごとじゃねえだろ、へっぽこトレジャーハンター! マジでどうすんだよ!」
「うーん、そうだね~……。――あ、いいこと思いついた!」
名案を閃いたという顔で、シェリルが俺の肩を叩く。
うん。
シェリルさんや、これはどういう意味かな?
「ヨシマサ、1体はあんたに任せるよ。二人で頑張ろう!」
「ふざけんな!」
「大丈夫、大丈夫。あの罠を越えるタフネスがあれば、そうそう簡単に死なないって」
確かに死なないかもしれない。
自慢じゃないが、今の俺は超頑丈設計なので。
でもそれは死なないだけであって、攻撃されれば痛いんだ。どこかのクソ邪神の手抜き工事のせいで。
そして俺は、マゾじゃない。よって、痛いのは大嫌いなんだ。
「え!? お主、マゾじゃなかったのか?」
「どういう意味だ!」
「いや、だってお主、無謀な勝負ばかりして振られ続けておったし……。てっきりそういうのに快楽を覚える変態かと……」
「…………」
最早テレパシークラスで心が読めるくせに、なんと心が通じていないパートナーなのだろう。
てか、俺はフラれるのを喜んでいるわけじゃねえ。
そこに快楽を感じ始めたら、人間終わりだろうが!
人間には、越えちゃならん一線ってもんがあるんだ!
「大丈夫。ヨシマサなら越えられるよ」
「マジで!?」
どういうことだよ!
まさか俺、いずれはフラれて喜ぶ体になっちゃうのか?
最悪過ぎんだろ、それ!?
「違う、違う。あんたならこれくらいの相手、簡単に乗り越えられるってこと。あんた、自分が思っているよりずっと強いんだから」
「褒めてくれているところ悪いんだが、俺、弱くていいんで戦いたくないです」
「仕方ないな~。じゃあ、あいつ倒したらデートしてあげるから……」
「クソゴーレムども、どこからでもかかってこいや!?」
とりあえず啖呵を切りながら飛び出す。
「それじゃあ、そっちのやつはよろしくね。あたしはこっちの倒しとくから」
言うが早いか、シェリルが矢のようにゴーレムへ突撃した。
ああ、任せてもらおう。
それと、約束忘れんなよ。
俺は走り去るシェリルへ向かって超いい笑顔でサムズアップし、ゴーレムへと向き直った。