料理は味わって食べろ
「ほんじゃ、まずは前菜からだ。――旬の野菜八種のサラダ、お待ちどう!」
よく冷えた野菜による口当たりのいいサラダをシェリルと――目を輝かせているのでついでにセシリアの前に置く。
このサラダのドレッシングは、なんと俺のお手製だ。
レモンをベースにした爽やかな酸味が特徴的な俺の自身作で――。
「ん~、なんか量が少ないね、このサラダ。あんまり食べた気がしないかも」
「ヨシマサ、おかわり~」
「…………」
ちくしょう。
こいつら、俺の自信作を……。俺のこだわりを……。
……まあいい。
これはしょせん前菜だ。
ここからが、本当の勝負だ。
今日の晩飯用に昨日から仕込みをしておいた一品を出す!
「では、次はスープ。昨晩から仕込んでおいた至高のコンソメスープを――」
「おいしい! もう一杯ちょうだい!?」
「ふむ、これなら及第点じゃな。わらわも、もう一杯もらっておこう」
言い切る前に、一瞬で飲み干されました。
ちくしょう! なんか納得いかねえ。
もう少し味わって飲めや!
「つ、次……。旬野菜の鉄板焼き三種――」
焼いたそばから消えました。コンマ2秒。
「新鮮魚介の鉄板――」
焼く前に消えました。(いや、確かに新鮮だから、焼かなくても食えるけど!)
「サーロインステーキ――」
「やはり肉はレアが最高じゃのう」
「そうだね~」
フランベしようと目を離した隙に奪われました。
「ガーリックライス――」
「あ、わらわの分は白飯のままでいいぞ。肉のせて食うでな」
「あたしも!」
……焼かせてももらえませんでした。
「デザート……」
「もう食っとる」
「おいしいね、この桃のシャーベット」
「……フッ……」(ズシャリ! ←崩れ落ちる音)
――K.O.! You lose!!
どっかから、格ゲーの負けた時みたいなセリフが聞こえる。
俺、燃えつきたよ。
真っ白な灰になったよ……。
「ふぅ! おいしかったよ、ヨシマサ。ちょっぴり見直した。君、ただの変態じゃなかったんだね」
「ぬふふ。うちのヨシマサを甘く見るでないぞ、シェリルよ。こやつは確かに歩くセクハラ野郎じゃが、料理スペックはムダに高いのじゃ!」
感心した様子でピントのずれた感想を述べるのシェリルといろんな意味で絶好調なセシリア。
うん。もう、なんだろうね。
怒る気力もわいてこないよ。
ハハハ……。これぞ無我の境地というやつか。(←ダメージ大きすぎて壊れ気味)
「ヨシマサ、食後のコーヒーをくれ」
「あたしもほしい! 砂糖多めでお願いね、ヨシマサ!」
「……うーい」
反論も特にしないまま、コーヒーの準備に取り掛かる。
ああ……。
コーヒーのドリップを見ていると、何でこんなに落ち着くんだろう……。(←遠い目)
「時にシェリルよ。お主はこんなところで何をやっておったのだ。旅の途中か?」
「あれ、言ってなかったっけ。あたしはフリーのトレジャーハンターなの。今は、この先の森にあるダンジョンへ向かうところよ」
コーヒーを入れながら、二人の会話を聞き流す。
その時だ。
シェリルの「ダンジョンへ向かうところ」という声が聞こえた瞬間……。
――ゾクリ……。
何か嫌な予感がして、背筋が震える。
この手の悪寒がする原因は、ただ一つしか思い当たらねえ。
つうか、このまま放っておくと、予感が現実になりかねん。
俺は無我の境地から緊急離脱し、顔を伏せフルフルと震えるセシリアへ目を向けた。
「ト……トレジャーハント……。ダンジョン……」
「おい、セシリア……?」
おっかなびっくり、セシリアに声を掛ける。
それと同時に、目を爛々と輝かせたセシリアがバッと顔を上げ、シェリルの手を取った。
「何それ、すっごい楽しそう! わらわたちもいっしょに行きたいのじゃ!!」
「いやいや、それはさすがにダメだろう。俺たちみたいなのがついて行ったら、シェリルの仕事の邪魔に――」
「うん、いいよ」
「なって――いいの!?」
せっかくやんわりなかったことにしようとしていたのに、即答しやがった。
何考えてんだ、このアマ。
素人がダンジョンとか、完全に死亡フラグじゃねえか!
プロならちゃんと断れよ。
ええい、仕方ない。
「いや、でもさ、俺ら完全に素人じゃん。命懸けのダンジョン踏破に素人連れていくのは、お互いあまりにもリスキーな気が……」
「問題ないよ。今回行くとこ、死亡率20%の低難度ダンジョンだから。初心者でも全然オッケー!」
パチンとかわいらしくウィンクを決める、我らがシェリルちゃん。
いやそれ、5人に1人死んでんじゃん。
明らかにやばいだろ。
全然オッケーじゃねえじゃん。
どこが低難度だ、ポンコツトレジャーハンター。
――と、俺が思っている他所で……、
「ぬふふ。まあ、その程度ならお茶の子さいさいじゃな。よーし、早速出発じゃ!」
「オーッ!」
セシリアとシェリルが勝手に出発の準備をし始めてしまった。
だめだ、こりゃ。
二人とも、すぐに行く気満々だ。
これはもう止められん。(止めても聞きゃしない)
「あ~……。神様仏様、あのバカ共はどうでもいいんで、せめて俺は無事に帰ってこられますように……」
青空を仰ぎ、うちのアホでポンコツな邪神以外の神にガチで願掛けする。
ともあれ、こうして俺たちの危険な寄り道が不本意ながらもここに決定したのだった。




