旅立ち
祭りから一夜明けた次の日。
旅立ちを前にした俺とセシリアを見送ってくれるつもりなのか、たくさんの人たちが駆けつけてくれた。
ユーリにクレア、セシリア親衛隊、ブラム氏、他にも今まで関わってきた市場街のみんなだ。
もちろん、勇者&シェフィルさん&フレアちゃんも見送りに来てくれている。
……よかった。
俺、嫌われてなかったんだ……。いらない子じゃなかったんだ……! (←超うれしそうな笑顔)
「ヨシマサ! ぼく、あの本を大事にするからね」
「また読み聞かせしに来てね。わたし、待ってるから! 約束だよ!!」
「おう、任せろ! 元気でな、ユーリ、クレア」
いつもみたいに、ユーリとクレアの頭をポンポンと撫でる。
続いて他の来てくれた連中とも、それぞれ別れの挨拶を交わしていく。
すると、みんなへの挨拶が終わるタイミングで、不意にブラム氏が持っていた包みを俺に差し出した。
「ほれ、こいつを持っていけ。――旅立ちの餞別だ」
「お、おい、ブラムさん! 餞別ってこれ、絵本じゃないか! しかも3冊も……。いいのかよ、こんな高いものもらっちまって」
「安心しろ。公主様からきっちりお代はもらっている。儂が選び抜いた珠玉の本たちだ。これを使って、お前の夢をきっちり叶えて来い」
「…………。……そうか。――サンキュー、ブラムさん。大事にするよ」
「ああ」
ブラム氏が差し出した拳に、自分の拳をぶつける。
相変わらず岩みたいな、でかくて硬い拳だな。ホント、未だに本屋やってんのが信じられないぜ。
と言っても、この人の選書眼は天下一品。この3冊も、きっといい品なのだろう。
ありがとう、ブラム氏。それと――本当に世話になりました!
「ヨシマサ、セシリア。はい、これ。昨日約束していた高級ディナーのお弁当とデザート。旅の途中で食べてくれ」
「サンキュー、アルフレッド。マジ助かるわ」
「うむ、大儀だった。褒めて遣わすぞ、勇者」
最後は勇者パーティーだ。昨日約束していた高級ディナーの折詰(と言う名の三段重ねの重箱)を渡してくれる。
セシリアは早速味を想像したのか、顔がにやけ切っている。己の欲望に生きる童女め……。
ただまあ、それも仕方あるまい。だって、重箱から薫る肉のにおいだけで白飯3杯くらいいけそうだもん。実物があれば10杯は固いな。
セシリアではないが、勇者よ、ホント大儀であった。余は大変に満足じゃぞ。フォッフォッフォ! (←超偉そう)
――と、それは置いといて……。
「何だかんだ言って、お前にも色々と世話になったな。ありがとう、アルフレッド。シェフィルさんとフレアちゃんも元気でな」
「ええ。あなたたちも元気でね。また旅先であったら、その時はよろしく!」
パチンとウィンクをしてくれるフレアちゃん。
最後の最後までかわいいな。
今度ぜひ、お茶でも……。(←「いい加減諦めよ。見ていて若干切なくなるわい」by セシリア)
「あなた方に神の思し召しがありますように」
うん、シェフィルさん。
神官らしく祈ってくれるのはうれしいんだけど、うちの神様これなんですけど。(←セシリアを指さしつつ)
これの思し召しって、今までロクなことなかったので、できれば遠慮したいッス。
だってね、100%厄介事を持ちこむんですよ、こいつ。
マジ、シャレになんねえ。(←「失敬な!」by セシリア)
「僕も楽しかったよ。ここで君たちと会えて、本当に良かった」
アルフレッドが右手を差し出してきたので、俺も握り返す。
まあ、こいつのイケメンぶりやハーレムっぷりはハラワタ煮えくり返るほど気にくわんが……それでもいいヤツだったな、うん。ゴージャスなお弁当もくれたし? (←餌付けされている?)
「ところでヨシマサ、次の目的地はもう決めているのかい?」
「ん? いや、特に決まってないが」
「そうか……。――だったら、先代魔王のアンデルスを訪ねてくれないか。彼も、セシリアがいなくなって相当心配していたから」
「ああ……。いや、俺は構わないんだが……」
横に立つセシリアに目を向ける。
ここら辺、セシリアにとって割とデリケートな問題だからな。
正直、俺の独断じゃ決められん。
こいつがどう言うか……。
と思ったら、セシリアが『やれやれ』といった様子で溜息をついた。
「まったくあいつは、本当に仕方ないヤツじゃのう……。――ヨシマサよ、次の行き先決定じゃ」
「…………。……いいのか?」
確認のためにもう一度聞く俺に、セシリアはニコッと笑って「当然じゃ!」と頷く。
「勇者のトラウマも克服した今、わらわに怖いものはない。覇道は我にありじゃ。手始めに、わらわのアイドル性であやつのいる村の人気をかっさらってやるわい!」
カッカッカ! と、無い胸を張って高笑いを始めるセシリア。
はいはい、さよですか。
てか、この態度から言って、もう勇者へのいやがらせはどうでもいいみたいだな。こいつはこいつで勇者と和解したってことか。(まあ、元々完全にこいつの逆恨みだったわけだが……)
何はともあれ、こっちもめでたしめでたしってわけだ。
「んじゃ、行くとするか!」
「おう。次の街がわらわたちを待っておるのじゃ!」
勇者たちに見送られながら、万桜号に乗り込む。
市場街の連中の「がんばれよ!」という声に背中を押されつつ、俺たちは次の冒険の一歩を踏み出した。




