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祭りだ!

 ユーリとクレアに約束を取り付けた俺たちは、約束の時間になるまで万桜号の中でのんびりと待っていた。

 あ~、何もせずにのんべんだらんと過ごす時間。正に至福の時~。


 なんてナマケモノのようにゴロゴロしていること、二時間程。日が傾いてきたなと思っていたら、突然街の中が騒がしくなり始めた。

 気になってセシリアと外に出てみたら、なんと市場街はお祭り騒ぎに包まれていた。

 というか、今正にお祭りが始まろうとしていた。


 忙しそうに行きかう連中の口から漏れているのは「勇者様」という言葉。

 つまりこれは、あのイケメン勇者の差し金か。

 あいつ、一体何考えてんだ。 


「やい、アルフレッド。これはどういうことだ!」


 速攻で勇者(with シェフィルさん&フレアちゃん)と合流し、何でこんなことになっているのかを問い詰める。

 すると勇者は苦笑を浮かべながら、こんなことになった経緯を話し始めた。


「いや、それが……お詫びを兼ねて君たちとごはんを食べに行くってヴァーナ公に話したら、『自分も街の者たちにお詫びがしたい』って言い出してね」


「あの人、思い立ったら即行動な人だから……」


 勇者の後を受けるように、フレアちゃんが嘆息交じりに言う。

 勇者の後ろで糸を引いていたのは、ヴァーナ公ってわけか。

 なんと言うか、ホントすげえ人だな、ヴァーナ公。……いろんな意味で。


「でもさ、詫びがしたいって言うのはわかるが、即日祭りにしなくてもいいだろうが。街の連中も、いろいろ大変だろうに……」


「そう言うなよ、ヨシマサ。これ、ある意味、君たちのためなんだから」


「は? どういうことだよ」


 この祭りはヴァーナ公から市場街の連中へのお詫びの印なんだろう。

 俺たち関係ないじゃん。


 と思っていたら、勇者が「実は……」とこうつけ加えた。 


「君たちが明日旅立つって伝えたら、ヴァーナ公が『それはいかん! 今日中に祭りをするぞ!!』って言い出してね。それを街のみんなに伝えたら、みんなもそれに乗っかったんだよ。『あいつらの門出を盛大に祝ってやろう!』ってね」


「街の人たちもヴァーナ公も、あなた方に感謝しているってことですよ、ヨシマサさん。マカロフの横暴に真正面から逆らって、子供たちを助けた。横暴な権力には決して屈しないという気高い姿を、あなた方は街に人たちに示したのです。お二人は今や、この国の影を払うのに一役買った英雄なのですよ」


「シェフィルさん……」


 微笑むシェフィルさんを見て、思わず照れてしまった。


 へっ!

 なんだよ、英雄って。

 こちとら、泣く子も黙るアホの代名詞、魔王様だぞ。

 どちらかと言えば、あのブタ野郎以上の大悪党だっての。


 なのに……なんだよ、これ。

 街の連中が俺たちのために用意してくれたなんて……すげえうれしいじゃねえか!


「で、どうする、ヨシマサ。一応、高級ディナーの用意もできているんだけど……」


 勇者が試すように問いかけてくる。

 対する俺の答えは、当然決まっていた。


「悪いな、アルフレッド。高級なディナーはキャンセルだ。せっかくの祭り、堅苦しいレストランに引きこもっていたら損ってもんだ。みんなで楽しもうや!」


「あ、せっかく用意してくれたのなら、お土産用に包んでくれても構わないぞ。そしたら、旅の道中に食べるのじゃ」


 横から顔を出したセシリアが、すかさず付け加える。

 てめえ、せっかく俺がバシッと決めたのに、水を差すんじゃねえよ。

 かっこ悪いことこの上ないだろうが!


「なんじゃい、お主はいらんと申すのか。――では勇者よ、包むのはわらわの分だけでよいぞ。こやつはいらんようなのでな」


「ふざけんな! てめえだけいい思いしようとしてんじゃねえ!?」


 勇者たちそっちのけで喧嘩を始める俺とセシリア。

 そんな俺たちを、「はいはい、喧嘩しない。二人分お弁当にしてもらうからさ。もちろんデザート付で」と勇者が実にイケメンな配慮で仲裁する。


 フッ!

 さすがは我が終生のライバル、勇者アルフレッド。

 見事な采配だ。

 では、遠慮なくいただくとしよう。

 ごっそさんです! マジでありがとうございまーす!!


 とまあ、そんなわけで俺たちは流れでユーリやクレアとも合流。

 すでにバカ騒ぎが始まっている市場街の中へと飛び込んだ。


 今回はヴァーナ公がパトロンとなっていることもあって、飲み食いは基本的にタダでできる。

 おかげで色んなところで食べ比べや飲み比べ、果てには大食い大会なんてものまで開かれていた。


 ちなみに、俺たち一行はどこへ行っても大人気。

 女の子たちから握手を求められるわ、プレゼントを渡されるわで人の輪が絶えない。

 フフフ♪

 いや~、人気者はつらいね~。

 近くにこんなたくさんの女の子がいるなんて、これぞうわさに聞いた桃源郷か!


「まあ、全部勇者中心の輪じゃけどな。フレアとシェフィルも女子どもの牽制で忙しいようじゃし……。お主、思いっきりハブられとるな。完全に蚊帳の外じゃ」


 フフフ……。

 悔しくない、悔しくないやい!!

 うっ……! ううう……。(←恥も外聞もなく号泣)


「ヨシマサ~! そんな端っこにいないで、こっちにおいでよ」


「勝者の余裕か、コンチクショーッ!?」


 手招きする勇者に、血の涙を流しながらせめてもの抵抗を見せる。


 ちょっとちやほやされるからって、いい気になりやがって。

 ちくしょう!

 やっぱ俺、あいつのこと嫌いだ。


 あ、お嬢さん方、勇者に噛みついたからって、そんな視線で睨まないで。そんな『クズが。端っこで大人しくしてろ』的な視線で……。

 俺、そろそろ立ち直れなくなりそうだから。立ち直れなくなって、そのまま何かに目覚めちゃいそうだから。

 てか、シェフィルさん曰く、俺ってこの町の英雄なんだよね。

 何、この扱い。いじめ? いじめなのか?

 女の子限定で俺の好感度、相変わらず低空飛行どころか海抜0mなんだけど。


「どしたの、ヨシマサ。変な顔して」


「はい、これ。おいしいよ」


 傷心に沈む俺に、ユーリとクレアが骨付きチキンを渡してくれる。

 お前ら、マジ最高だ。大好きだぞ、このやろう!


 と、浮き沈み激しく祭りを堪能し……気が付けば日付も変わり、宴もたけなわ。祭りはヴァーナ公の挨拶を持って解散となった。

 勇者パーティーと別れた俺たちも、ユーリとクレアを家に送り届け、万桜号に戻る。


 ヴァーナ公国で過ごす、最後の夜。

 思えば色んなことがあったもんだ。

 商工ギルドで受付嬢をナンパしたら強面のお兄さんたちと戯れることになり……。

 本を買うためにリザードマンの根城へ乗り込み……。

 戻ってきたら、セシリア万歳な方々に消されそうになり……。

 妙なブタ野郎と金魚のフンに絡まれたり……。

 勇者と出会って、ヤツのモテモテぶりを見せつけられたり……。

 ……………………。

 ……あれ? いい思い出が一向に出てこない……。

 い、いや、そんなことはないはずだ! いいことだって、たくさんあったはず……!

 俺は必死にこの国でのいい(﹅﹅)記憶を一つ一つ思い出しながら、眠りについたのだった。

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